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第117回医師国家試験(感染症)②

前回に引き続いて国家試験問題に関連した内容を(なるべくさらっと)まとめます。

117B-18 治療薬物モニタリング

治療薬物モニタリング(TDM)が必要な抗微生物薬を答えさせる問題が出題されました。

TDMの対象となっている抗微生物薬は

  • グリコペプチド系:バンコマイシン、テイコプラニン

  • アミノグリコシド系:アルベカシン、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン

  • トリアゾール系抗真菌薬:ボリコナゾール

があります。
ただし、特定薬剤治療管理料が算定可能なのは入院のみです。
グリコペプチド系、アミノグリコシド系抗菌薬は注射薬であり、ほとんどの場合入院で使用するので問題ないです。ボリコナゾールは内服薬もあり、外来治療にも用いますが算定要件が「重症又は難治性真菌感染症又は造血幹細胞移植(造血幹細胞移植の患者にあっては、深在性真菌症の予防を目的とするものに限る)」「入院患者に数日間以上投与)」となっており、それ以外の外来患者(慢性進行性肺アスペルギルス症など)への外来採血は適応外であることに注意が必要です。

117C-9 五類感染症患者数の年次推移

五類感染症のうち、全数把握対象疾患である梅毒、風疹、麻疹、後天性免疫不全症候群、薬剤耐性アシネトバクター感染症の発生動向調査による各患者の年次推移から風疹を当てる問題です。
とても良い問題です。

各疾患の患者数を覚えておく必要はありませんが、
A)近年爆発的に患者数が増加している梅毒
B)発生数はあまり大きな変動がない後天性免疫不全症候群
C)定期接種の対象であるため、全体に発生数は少ない、しかし一部予防接種の空白年齢層があるため、数年に一度流行を認める⇨風疹
D)定期接種対象で、そもそも発生数が少ない⇨麻疹
E)2014年から新たに全数把握+発生数が非常に少ない⇨薬剤耐性アシネトバクター感染症

といった、それぞれの特徴がわかると選択できると思います。また2013年の風疹の流行で先天性風疹症候群が多く発生したことは公衆衛生上も重要な知識だと思います(2/4は風疹の日でしたし)。

117D-47 破傷風の治療

実は日本は破傷風の死亡率が高い国です。その背景には三種混合ワクチン接種が開始されたのが1968年であり、多くの50-60代以上の方がワクチンキャッチアップできていないことがあります(感染では予防に必要な抗体が獲得できない)。少ないですが、忘れた頃にやってきます。

原因菌は破傷風菌(Clostridium tetani)です。汚染された創部から侵入し増殖(潜伏期間は3-21日)、この菌が産生する毒素が神経・筋肉に直接作用し、興奮放電・運動痙攣が生じます。創そのものが軽症かどうかにかかわらないため、多くの症例で軽微な外傷か受傷したことに気づいていないです。

診断は臨床症状から。血液培養や創部培養、グラム染色で同定できることもありますが、基本的には症状から診断します。
典型的には軽度の開口障害、首筋の張りなどから始まり、 開口障害が増強し痙笑といわれる引きつった笑顔を認めます。その後、強直性痙攣、腱反射亢進、病的反射が出現し、一定期間で寛解期へと至ります。

治療は
1)毒素産生抑制のための抗菌薬治療:ペニシリン(PCG)orメトロニダゾール
2)毒素中和のために抗破傷風ヒト免疫グロブリンを投与
3)痙攣予防:ミダゾラムやデクスメデトミジンを使用(リハの観点からも後者が望ましいかも)
4)自律神経活性化の抑制:上記鎮静やオピオイドによる鎮痛に加えて、Mg製剤を投与し、高めのMg値を維持する
5)人工呼吸器管理・早期気管切開:早期離床、リハビリにつなげるためにも早めの気管切開を検討
6)支持療法

参考:ランセットに総説があります。
Lancet 2019; 393: 1657–68

外傷で受診した患者さんすべてで破傷風の予防について考えましょう。第2期接種から10年(22歳以降)なら、破傷風の侵入がありうるすべての傷に対してトキソイド投与を。よりリスクが高い(3種混合接種していない年代、汚染創)ケースではグロブリン製剤も投与(同意書必要)を検討しましょう。over-triageは許容されると思います。

117D-56 肺M.avium complex 症(肺MAC症)

咳嗽、血痰で受診した中年女性
胸部CTで気道散布する小結節影と気管支拡張所見、喀痰抗酸菌塗抹陽性、結核菌PCR陰性、抗MAC抗体が陽性ということで、「肺MAC症」と判断するところまでは容易でしょう。

診断、即治療が必要なのは
1)塗抹陽性
2)線維空洞型(空洞を有する)

の2つで、それ以外は総合的に判断すること、となっています。
(上記を除くと治療を開始すべき客観的指標はありません)

過去の講演スライドから抜粋

肺MAC症に対する治療はキードラッグであるマクロライド(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)にエタンブトール、リファンピシンの3剤治療が標準的です(CAM+EBも代替案としてあり)。基本的には2年程度(短くても1年)の治療期間が必要です。
右肩上がりに患者が増加しており、今後の国家試験でも問われる頻度が増加するかもしれません。標準治療に抵抗性(6ヶ月治療しても排菌している)である場合に、追加治療として2021年に保険収載されたのがアミカシン吸入療法です。これも今後国家試験で問われることがあるかもしれません。

117D-69 COPD患者の肺炎 グラム染色

今回も喀痰グラム染色が問われています。もうこの流れは毎年続くものと考えますので、最低でも喀痰グラム染色の代表例(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ、クレブシエラ、ブドウ糖非発酵菌)は押さえておくべきでしょう。
COPD患者の肺炎や急性増悪時の起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラが代表例です。インフルエンザ桿菌はほとんど球菌に見えるので、後者2つを見分けるのはなれないと難しいと思います。モラクセラの多くはβラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)を産生し、ペニシリンに対して耐性を示します。インフルエンザ桿菌の薬剤耐性も考慮すると、このようなグラム染色像を認めた場合には第3世代セフェムがエンピリック治療として推奨されます。

今後もより実践に近い問題作成が行われると予想されます。となるとcommonである感染症領域の重要性は増してくるだろうと思います。また117C-9のように公衆衛生分野とも関連しますので、近年のトレンドを把握しておくことも大事ですね。
(実臨床に近づけようとした結果、感染性心内膜炎やCOVID-19の問題のように受験生にとってはわかりにくいかもしれない問題が増えたのかもしれません。しかし国家試験の問題は非常に丁寧に作られています。深読みせず、なるべく素直に答えれば正答に近づくと思います。それでもどうしても割れてしまう問題は出てきますが、それは気にしても仕方がないことですね。)


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