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おじさんの背中を20秒眺め続けたわたし -BLSを受講した話-

2月上旬。
初めてのBLSを受講した。

看護師になって7年?
ずっと気になってはいたけど、高いよなー。。丸一日つぶれちゃうしなーー。どこで受けたらいいかわかんないしなーー。といろんな言い訳をあれこれしているうちに、今まできてしまったかんじ。ずるずるずるずる引き伸ばしつづけてきた。

ようやく重い腰をあげて踏み切った。

私が受講したのはBLS横浜さん。

良い評判ばかり聞いていたのと、「受けてみようかな」という気持ちになったのがBLS横浜のツイッターを目にしたから。
せっかく高いお金を払って、丸一日の研修休をもらって受けるなら、自分が「ここだ!」と思うところで受けたいと思い、えっちらおっちらと4本くらい電車を乗り継いで、小旅行な気分で横浜へ・・

結果から書く。

「もっと早く受講すればよかった」 がひとつ。

「今からでも全然遅くなかった」 がもうひとつ。

つまり、過去の私に必要なものだったし、今の私にも、未来の私にも必要な知識と技術と経験が詰め込まれていた。

やっぱり学びに対してケチでいてはいけないな、って改めて思う。

***

プログラムは盛りだくさんのてんこもりで、
朝から夕方までびっちり座学も実技もテストもある。

マネキンもひとり1体!
しかもさまざまな色のマネキンがいるのが多様性で
うれしい。


そのなかでも、一番心待ちにしていたのがシミュレーションだった。

外部の機関で、ちゃんとしたシミュレーションに参加するのは実は初めてだったので、どんなもんだろうかとウキウキしていた。

だけど、これが、けっこうきつかった。


おじさんの背中を眺め続けた20秒間

BLSのシミュレーションは、道端で人が倒れているバージョンと、院内で患者が心停止しているバージョンの2種類をやった。

参加者は私以外に3名いて、インストラクターの方が状況を説明していく。

病院の駐車場の茂みの中で、警備員のおじさんがうつ伏せで倒れています。おじさんは体格もよくて80kgくらい。夜なので人気も少ないです。

そして、私が第一発見者役に指名された。
それまでさんざん実技演習で流れを体得していたので、きっと体が動くだろうと思っていた。

そして、スタートの合図と共に開始。

「大丈夫ですか!わかりますか!」
うつぶせで倒れているマネキンの背中を叩く。

「誰か!誰かきてください」
大声で叫ぶのも流れるようにできた。

声の大きさには自信あり。
宇宙の果てまで届け!(盛りすぎか

しばらくして、インストラクターの合図のもと、1人の男性が助けにやってくる。

「どうしましたか!」

「人が倒れています。119番通報と、AEDを持ってきてください!!!それと、応援を呼んできてください!」

「わかりました!」

風のように男性がいなくなる。

そして、残されたマネキンと私。

あれ・・・?
二人きり?


せっかく来た応援の人は、いなくなってしまった。
そりゃそうだ、私が行けと指示をしたから。


ドクンドクンと自分の鼓動が早まる。

背中越しに呼吸と脈を確認する。

反応なし。脈なし。呼吸なし。

だけど、なにもできない。

うつ伏せのおじさんを黙ってみつづけるこの時間はなんなんだ?


この場合は、仰向けにすることが最優先だったのかもしれない。

生気のないマネキンの背中を見つめていると、だんだんと本物の警備員のおじさんの背中と重なる。
ここは真っ暗闇の駐車場の茂み。
ここにいるのはうつっぷしてる警備員さんとわたし。

さっきの応援の方がやっぱり戻って来なかったら?
わたしが助けを呼びにいくべき?

仰向けにしていれば、もっと何かできたかもしれない。
うつ伏せのこの状態で、何もできないまま刻々と時間が過ぎていく。

待てども待てども人はこない。(インストラクターの指示だった)

ああ戻ってきてお願い!と願いつづけた20秒。

時間の経過とともに死に近づく生々しいグラフが脳裏をよぎる。

あの時、うつ伏せにしていれば、
私はこの時間、CPRを開始できていたのに。

このおじさんは、助かる可能性がほんのわずかでもあがったかもしれないのに。

ようやく1人、また1人と応援が駆けつける。

応援がくるまで、たぶん20秒くらいだった。
でも、その時間が本当に長く感じられ、手汗がぐっしょりになってしまった。

***

シミュレーションの後には、「デブリーフィング」という振り返りを必ず行う。何がよかった、どこをどうすればもっとよかったか、次回にはどんなことに気をつけるか、などをメンバーで話し合う。

私は自分の経験を話した。

「おじさんと二人きり、何もできない時間がありました」

救命のロスタイムは致命的。医療者として十分わかっていたはずでも、
咄嗟の判断を誤ってしまうことがある。

どうすればよかったかメンバーとインストラクターで意見を出し合った。

救命は判断の連続だ。

そして、その判断を見誤ると、生々しいグラフのように残酷な未来を辿る。

もっと生々しいことに、マネキンには「CPRをとめていた時間」が最後に表示されるようになっている。

次誰が胸骨圧迫する?とわたわたしているうちに、その時間は一秒一秒積み上げられていく。

しかもその日偶然会ったはじめましての人と一緒にやる、その難しさといったら、想像をはるかに越えてきた。

行ってよかった、ほんとうに。

帰る頃には中華街で夕飯を食べる元気もなく、
まっすぐ帰ったくらいには疲れていた笑

***

筆記試験に無事合格し、
晴れてBLSプロバイダーをゲット。

ピンバッチも!

もしほんの少しでも迷っている人がいたら、

私と同じように2万円あったら美味しいご飯食べれるし我慢してた洋服買えるしなって思っている人がいたら、

やっぱり受講をおすすめする。

思っている以上に自分は動けないことに打ちのめされ、

おじさんの背中を見つめ続ける恐怖を味わい、

それでやっぱり学んでよかったってほんの少しの安心材料にきっとなる。

丁寧なファシリとどんな疑問にも答えていただいたインストラクターのAさんに感謝!

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