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「めぐり逢い/アンドレ・ギャニオン ~ レッスン随想」

 ヒーリング系のピアニスト、アンドレ・ギャニオンのヒット作。ご存知の方も多いと思う。1983年に発表された13枚目のアルバム『Impressions』に収められている。テレビなどで使われるケースも多かったので、タイトルを知らない方でも、たぶん多くの方が耳にしていると思う。

 シンプルながら、素直で優しい情感に溢れた名曲で、今でもたまに聴きたくなることがある。
 ただ、もし自分がピアノ教師という職業を経験していなかったとしたら、耳にすることはあったとしても、その時の心地良さだけにとどまり、そこから先に一歩踏み込んだ興味を持つまでには至っていないかも知れない。もともと自分が好んで聴いていたタイプの音楽とは、ちょっと傾向が違うのでね・・・。

 大人の生徒のレッスンでよく取りあげたよ。クラシックの曲ばかりでなく、ポップスやジャズの曲も取り入れて、ピアノ・ライフを、より楽しめる方向へと広げてあげたい、そう考えたときに、この曲は最適の1曲だった。高度なテクニックを必要とせず、表現的な幅があり、掘り下げればレッスンで取り組むべき課題がいくらでも出てきた。

 こういったオーソドックスかつシンプルなスタイルを保ちながら、オリジナリティを持ち、尚且つ説得力のある曲を作ることは、簡単なことではない。

 同様の理由で、レッスン・ライブラリーに加えていた曲として、中村由利子の「ファンタジア」や、西村由紀江の「やさしさ」、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」、そしてジャンルは異なるが、スカルラッティの「ソナタ ホ長調 K.380L.23」なんかも、ほぼ同じ視点で取り上げていた。
 中学生以下の子どもには、カバレフスキーの「6つのプレリュードとフーガ」とか、さらに低年齢の子どもには、フランスのピアノ曲集「カイエ・ドゥ・ルモワンヌ」などもね。

 久しく、そんなことを思い出すこともなかったけど、今思えば、ピアノ指導という経験を通じて独自に組み上げた異色のライブラリーだった。

 その楽譜たちは、今どこに行ってしまったか・・・。

 実は、「note」に投稿した文章作品の中にも書いた20数年前の火災で全て失ってしまったわけで・・・。

 少しずつまた買い揃えてみようかな。かけがえのない宝物になることは確かだよ。

 ギャニオンのプロフィールについて、実は今の今まで、詳しいことは知らずにいた。カナダ出身で、モントリオール・コンセルバトワールでピアノ、作曲、音楽理論を学び、その後、ケベック州政府の奨学金を得てパリに留学。その間、ジジ・ジャンメールのショウに強い衝撃を受け、クラシックとポピュラーの垣根を取り払うために音楽活動をしようと決心する。カナダに戻って、1967年にはモントリオール交響楽団を率いた「モーツァルトの夕べ」でコンサート・ピアニストとしてデビュー。68年には、レコード制作を開始し、70年には、大阪万博のために来日も果たしている。
 2020年12月3日没。

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