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子供の頃眠りにつけなかった時のことをふとロンドンで思い出した話

「親知らずが痛くて向かい合って眠れないんだ、ごめんね。」
親知らずのせいで滑舌も普段と違う彼が私に背中を向けて申し訳なさそうにそう言った。あまりに痛そうで気の毒だったから、場所変わったら向き合えるよなんて単純な解決案はそっと胸にしまい込み、気にしないでとだけ伝えた。私も疲れていたからウトウトしていたら、彼が背中を器用にねじらせて、右手で私の左手を握った。それがなんだかとても懐かしくて、でもなんで懐かしいのかをしばらく考えたら、ふと子供の頃のことを思い出した。

私が7歳くらいの頃だと思う。母方の祖母が我が家に住んでいた。祖父が仕事で単身赴任だったのが理由だ。我が家と祖父母宅は近かったし、夕食のために行き来するより住んでしまった方が楽だったからだ。私は祖母が大好きだから、子供ながらにずっと祖母が家にいるのがとても嬉しかったのを覚えている。その頃妹は母がいないと眠れなかったので、彼女が眠りにつくまで、いつも母が隣にいた。私はお姉さんぶって一人でも平気だと言っていたけれど、実際少し羨ましかった。でも祖母が我が家に住んでいる間は、彼女がいつも私が眠るまで隣にいてくれた。そして私が眠るまでずっと手を繋いでいてくれた。

昔から幼稚園や学校が大っ嫌いだったので、眠りについたらすぐ起きてまた次の日が始まってしまうのが嫌だった。それで、なかなか寝付きが悪い子供だった。そんな私が眠るまで、祖母は根気強く待っていてくれた。寝たふりをすると、手を離して去りそうになる祖母の手を強く握り返したりして、まだ寝てないよと無言で伝えていた。そうするといつも祖母は、
「また寝たふりして。寝てないなら寝てないっていえばいいのに」
と笑って、いつまでも私のベッドに居てくれた。私は今でも祖父母の家に泊まるときはゲストルームではなく祖母のベッドで一緒に寝る。もう23歳なのにと家族にはいつも笑われる。

そんな大好きな祖母のエピソードを思い出しながらぐっすり寝ていたらいつの間にか朝になった。8時が過ぎてやっと昇った日の光に照らされても、彼は隣でぐっすり眠っていたが、夜寝る前に繋いだ手はまだそのままだった。しばらくそのまま天井を見つめていると彼が起きて、私にキスをした。
「右肩が痛い」
そう言って親知らずを痛めながら笑った。

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