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ソラを見上げて #37 洋服のお勉強

特別授業の講壇に突如として現れた大園桃子は、○○に研修生として東京に来ることを進言。戸惑う○○を尻目に桃子と校長は話を進めてしまう。


翌日、○○は桃子と共に東京を訪れていた…


―東京・恵比寿ガーデンプレイス―

桃:さ、ついたよ。

〇:え、ここ……ですか?

桃:うん。ここの18階が私の事務所。


〇:……

桃:どうしたの?

〇:いや、事務所って言うからもっとこう……なんていうか

桃:東京の事務所ってどこもこんなんだよ。ほら行くよ?

〇:まじか……

(ビル大きさに呆気にとられたまま、桃子についていく〇〇)



―hio株式会社・事務所―

桃:ただいまー。

社員:あ、社長。おかえりな……さ、い?

桃:はい! みんな注目~。

(手を挙げ、大きな声で社員の視線を集める桃子)


桃:今日からここで研修することになった○○君です。よろしくね。

〇:あ……きょ、今日からこちらで勉強させていただくことになりました○○です。よろしくお願いします。

(若い! 可愛い! などの声が事務所内に飛び交う)


桃:じゃ、次は作業場に行こっか。キミのデスクも用意しなきゃいけないし。

〇:あ、はい。



(数分後……)

桃:これがキミのデスクね。

〇:いいんですか? 社員さんと同じ作業台を使わせてもらって……


桃:うん。あと事務所にある生地も好きなだけ使っていいからね。

〇:す、好きなだけ?

桃:そ。生地もボタンもぜーんぶ使い放題。

〇:ぜんぶ……

桃:お、やる気出てきた?

〇:いつもセンセーに無駄遣いするなって言われてたんで。

桃:それはそうと、どうして梅はキミに仕事の依頼をしたの?

〇:え?

桃:いくら梅がキャプテンだからって乃木坂の衣装を依頼するなんて普通じゃあり得ないもん。

〇:そう言われましても……

桃:知り合いなんでしょ?

〇:いや、知り合いってほどの関係じゃ……

桃:違うの?

〇:仙台駅で学校主催の展示会をやってた日に偶然そこにいたみたいで。

桃:で、キミに仕事の依頼を?

〇:いろいろ端折ってますけど、そんな感じです。

桃:ふーん。

(どこか腑に落ちない表情の桃子)


〇:俺だって驚いてますよ。アイドルに衣装制作を依頼されるなんて。

桃:ま、依頼されたからにはしっかりやんなさい。

〇:それはそうなんですけど……

桃:ん?

〇:早速で申し訳ないんですけど、聞いてもいいですか?

桃:いいよ。

〇:ブラッシュアップってどうしたらいいんでしょうか?

桃:ブラッシュアップかぁ。うーん、元の作品をより良くするために手直ししたり、全体を見直して改善箇所を見つけて作り直したり……かな?


〇:何となく分かってはいるんですけど。

桃:自分としては完璧ってこと?

〇:そうじゃないんです。そうじゃないんですけど、俺なりに本気で作ったんで……完成して間もないのに『ブラッシュアップしてくれればいい』って言われても、正直何も思いつかないんです。

桃:そっか。

〇:すみません。せっかく呼んでいただいたのに初日から弱腰なこと言っちゃって。

桃:いいね。しっかり壁にぶつかってるね。

〇:良い事なんでしょうか……

桃:じゃあ一緒に見てみようか。

〇:え?

桃:持ってきてるんでしょ? 優秀作品を取ったキミの作品。

〇:はい、キャリーケースの中に入ってます。

桃:見せて。

〇:わかりました。



(10分後……)

〇:……

桃:……

(【sora】をマネキンに着せた状態で真剣に見つめている桃子)


桃:ねぇ、一つ聞いてもいい?

〇:はい。

桃:モデルの子はキミにとって大切な人?

〇:……えぇ!?

桃:好き?

〇:あ、いや……な、なんか関係あるんすか?

桃:大切に作ってるなって、見た目や手触りからすごく伝わってくるから。

〇:そ、そうすか……

桃:キミが言ってた『どこをブラッシュアップしていいかわからない』っていう意味がわかった気がした。

〇:え?

桃:キミにとってこの衣装は制作することが目的じゃなかった。だから衣装のブラッシュアップと言われても、どうしたらいいかわからなかった。違う?


〇:……そうです。

桃:なーるほど。こりゃ難題だ。

〇:そんな他人事みたいに言わないで下さいよ。

桃:とはいえ! キミは仕事を受けたんだからやるしかないんだよ?

〇:わかってます。だからまず、その糸口を見つけないと……

桃:梅の最後の晴れ舞台だからね。しっかり頑張りなさい。

〇:最後の晴れ舞台?

桃:んぇ? 聞いてないの?

〇:何がすか?

桃:梅、グループを卒業するんだよ?

〇:は?

梅:で、そのラストステージの衣装をキミに頼んだって事でしょ?

〇:はぁぁ!?

(驚きのあまり立ち上がる○○)


〇:おいおいおいおい……嘘だろ? どういう事だよ三代目!

桃:あら、その様子だと本当に伝えてなかったみたいだね。

〇:またやられた……

桃:梅は自分のことになると途端に口下手になっちゃうから。

〇:口下手? 人を騙して誘導尋問したアイツが?

桃:こら。梅は乙女なんだからそんな言い方しないの。

〇:乙女ねぇ……僕にはジャイアンに見えますけど。



(一方その頃……)

―SME六番町ビル28階・Bスタジオ―

梅:はっくしょん!

林:美波先輩、大丈夫ですか?

梅:ん? うん、だいじょ……ふぁ……くしょん! はくしょん!

林:ホントに大丈夫ですか? 最近暑いからって、裸で寝ちゃダメですよ?

梅:んな事するか!

遥:美波さんの事、誰かウワサしてるんじゃないですか?

梅:ほらほら、いいからリハーサル始めるよ!

小:梅澤さん、おうちでは裸でなんですか……わぁ///

梅:違うのよあーや。ちゃんとパジャマ着て寝てるから心配しないで。ね?

―つづく―



【おまけ】

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