8

結果はドローだった。通算勝率は圧倒的にレイジの方が高かったが、ワクチン接種による肩の痛みと、僕の集中力が回復したこともあって、どうにか負けをチャラにできたということに過ぎなかった。レイジのアベレージは182、僕は155だった。
「痛がってんの嘘だろお前」
「いやいや、ほんとに痛いんだって」
レイジは笑いながら言った。
「レイジのくせに、全然アベレージじゃないんだよな。全国のアベさんに謝れよ」
僕はふざけた調子で言った。
「でた、しつこいやつ。毎回謝られる方がアベさんは迷惑だって」
「ラジオでネタとして出てくるアベレイジは、何もかもが平凡だっていう設定だったぞ」

僕はたたみかけて言った。
「ごめんね全国のアベさん。僕は非凡です。アベレイジは知らんけど」
レイジは真面目そうに言った。
「赦されんな、死刑だ死刑」
「物騒だな、アウトレイジかよ」
「そうそう、鉄砲玉を任された若い衆に殺されろ」
僕は棒読みで言った。
「ゆらゆらしながら満身創痍でな、目をたぎらせてドスを持って突っ込んでくるやつ」
「それはドラマチック過ぎないか」
サウナスーツの男が頭をよぎった。
「そうかな、いるかもしれんぞ」
「いや、いるかもな」
「どっちだよ」
レイジは肩をかばいながら、ツッコむ素振りを見せた。
「いや、思い当たった奴がいてさ」
「え、ヤクザの知り合いでもいるのか」
「実はね。うちのじーちゃんがヤクザイシなんだよ」
「はいはい。つまらんよ」
僕らは、会計を済ませるとそのまま解散した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?