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【メディアセミナーレポート】なぜいま医療DXが必要なのか?〜医療DXの現在地とこれから〜

こんにちは、メドレー広報グループです。
先日、メドレーとグロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)の共催でメディアセミナーを実施し、GCPの福島智史氏と、弊社執行役員の豊田剛一郎が医療DXの現状と課題、国内外の事例を解説しました。
今回は、セミナーでお話しした内容のサマリをご紹介します。

医療DXを取り巻く現状と最新動向/グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社 福島智史氏

国内医療DXの現在地、なぜいま医療DXが必要か

GCPのパートナーとして、10年以上医療ヘルスケア領域へ投資を行い、投資先の役員としても事業に携わっている福島氏からは、行政の取り組み、ここ数年のトレンド、市場環境など、医療DXについて包括的なお話をいただきました。
今年は診療報酬のトリプル改定や、2024年問題など、医療DXを通じた業務効率化に向けた議論の契機となる事柄が多く、加えて、薬価の下落によるドラッグロス、製薬市場における日本のマーケット縮小、国内の病院全体の約60%が赤字という経済状況などを考えると、医療DXが喫緊の課題となっているだけではなく、不可避の課題である点についても改めて強調されました。

福島氏は日本と諸外国を比較し、医師のデスクワーク業務のみを集計した週平均労働時間が長く患者と向き合っている時間が短いことについて触れ、「まずは業務フローレベルがいまだ後進国ともいえる現状を理解すべきではないか」と語りました。

自民党が提言した「医療DX令和ビジョン2030」(以下、令和ビジョン)を見ると、新設された医療DX推進本部による、具体的な推進フローが工程表化され、内閣官房・厚労省・デジタル庁が三位一体で積極的に医療DXを推し進める姿勢を見て取ることができます。データインフラの整備を押し進める一方で、規制改革推進会議ではソフトウェア医療機器に対しての規制緩和が進むなど、今までの保守的なアプローチとは打って変わって、新しいテクノロジーを試してみるといった様子も伺えます。
とくに、医療DXや電子カルテの導入は、ここ20〜30年促進が叫ばれてきた分野ですが、行政から明確な指針などが示される機会も増え、福島氏は「過去の医療DX推進に向けた姿勢と比べると大きな飛躍」と語りました。

一方、諸外国を見ると、医療データプラットフォームの整備が進み、医療行為のアウトカムが可視化できるようになっており、不要な業務のあぶり出しによる経営改善、遠隔診療などによる適材適所の働き方、一般生活者が自身で健康を管理するPHRアプリのユースケース創出など、医療従事者や患者がデジタルによる様々な恩恵を受けられるようになっています。

医療DXの注目領域とポイント

福島氏が医療DXにおける近年のトピックスとして注目するのは、民間企業のなかでもとくにスタートアップの勃興です。10年前に比べると医療IT企業は10倍程度に増えている感覚があるとのことで、ポテック有村氏のヘルスケアカオスマップを引用しながら医療従事者による創業が増えていることを示し、IT領域に医療のバックグラウンドを持つ人が流入することで、医療現場と企業が同じ目線で対話することができるようになったのも大きな変化だと語りました。

今後の医療DXの進み方は大きく2つに分かれると福島氏は説明します。以下図右のグレーのエリアが中長期的な目標を示しており、オレンジのエリアが、短期的な目標、つまり医療のプラットフォーム化の前段階でも進められるDXであると語りました。とくに、①〜③は「医療情報データベースの整備前でも取り組むことができるため、先行して進んでいく領域」と強調しました。

各注目領域で活躍する企業

次に、それぞれの領域で具体的にどのような事業が誕生しているのか、具体的な事例の紹介がありました。

1.人的リソース確保
医療人材のリソース不足という課題に対して、オンデマンドな働き方の提供ニーズが高まっています。例えば、介護施設などでは、夜間の職員不在時に怪我や病人への対応が発生した際の病院同行・トリアージ対応のリソース確保が求められており、医療従事者においては、隙間時間に看護師として派遣業務に就くといった副業的な働き方のニーズがあるなど、医療従事者のフレキシブルな働き方をサポートする企業に注目が集まっています。
例)DoctorMate社の夜間オンコール代行

2.既存業務の効率化
クラウドSaaSで既存業務を効率化する試みが調剤薬局や歯科で活発化していますが、なかでも進んでいるのが、美容整形外科などの自由診療領域です。診療行為はドクターが行うものの、患者さんの呼び込み・カルテの管理・再来院の案内などの業務はシステムでサポートすることができます。こういった事例は、保険診療のクリニックや有床病院にとっても今後の検討に活かせる可能性があります。
例)Medicalforce社の自由診療向け業務SaaS

3.機能分化による専門性の発揮
今後は医療施設の機能分化・専門化が進むことが考えられますが、まずはじめに、難易度は高いけれど研究対象ではない手術などが、総合病院・大学病院から機能分化されることが予想できます。実際に、大学病院や総合病院などに所属する名医に手術環境を提供する企業が現ており、オペ室が埋まっていて患者さんは数ヶ月先にならないと名医の手術を受けることができないといった状況の解消に繋がります。このような専門特化の医療施設が立ち上がった結果、総合病院・大学病院は新しい術式の研究開発に手術環境のリソースを割けるようになるといった好影響も期待できます。
例)SDPジャパン社のオペ専門クリニックチェーン支援

4.診療データインフラの整備
政府の方針と最も合致している領域が、診療データインフラの整備です。代表的なものは、電子カルテ、レセプトコンピューターなどです。今までは、比較的、開発・運用コストがかかっていましたが、様々な企業が参入することでコスト面の改善が進んできています。加えて、今後、国からの補助金などのサポートも期待できるでしょう。
例)Buzzreach社の治験プロジェクト支援インフラ

5.ソフトウェアを活用した治療機会
内閣府に設置された規制改革推進会議では、ソフトウェアを活用した治療機会を前向きに検討し、活用に向けた議論が進んでいます。医師からアプリが処方されるような未来を目指すにあたり、アプリが医療機器としてどのように承認されるべきなのか基準を明確化していったり、医療効果を評価し、効果があれば診療報酬の見直しも視野に入れるような動きがあります。そういった中で、医師の診療・診断や患者の治療をサポートするサービスも現れています。
例)AIメディカルサービス社の胃がんの検出AI

今後に向けて

最後に、福島氏は改めて「医療DXによるアウトカムの可視化が必要になる時代が今後到来する」と語りました。
DXの基盤となるインフラ整備は、それを支える政府の一枚岩での動きやスタートアップ企業の勃興が重要となること、医療制度や人種間の疫学的な違いがあるため、医療DX先進国を単純なベンチマークに置くことは難しいものの、日本の医療DX推進は国をあげて取り組むべき課題であり、長期的な視点で推進していくことが重要と結びました。

メドレーグループにおける医療DXへの取り組み/株式会社メドレー 豊田剛一郎

豊田からは、日本の医療の課題と、メドレーの取り組みについてお話をしました。

日本の医療の課題

まず日本の医療環境における特徴について、日本は諸外国と比較して患者の通院頻度が高く、その頻度はアメリカの3倍となっていること、さらに、平均在院日数も圧倒的に多く、そのため、人口当たりの医師・看護師数は諸外国と比べて少ないにもかかわらず、一人当たりの対応患者数は多くなっていることが説明されました。ここから見られる「医療需要は高い一方、限られたリソースで対応している」という点が課題だと語りました。
併せて、この背景には、日本は世界でも医療機関の数が多く、さらに、出来高払いの診療報酬体系という制度背景から、リソースは逼迫する一方で医療行為を減らすと医療機関全体での収入は減ってしまうというジレンマに陥っている点が説明されました。

さらに、日本の社会保障費高騰に伴いコストの半分近くを占める人件費にしわ寄せがきている事実に触れ、これ以上医療従事者の所得を削ることはできず、ドラッグロスを鑑みると医薬品費も削ることはできないという複雑な環境下での解決策として、「その一つに人材の偏在解消と医療現場の効率化がある」と語りました。

メドレーの取り組み

これらの課題に対して、豊田は、メドレーでは「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションのもと「持続可能な医療」「納得できる医療」につながる事業活動をしている点を説明したうえで、医療介護人材の人材確保を支援する”人材プラットフォーム事業”、 医療DXによる効率化を目指す”医療プラットフォーム事業”の2軸で展開するメドレーの各事業について紹介しました。
その中から、今回は、クラウド型地域包括ケアソリューション「MINET」についてご紹介します。

MINETについて

MINETは1地域1患者1カルテ1インタフェースをコンセプトに、患者をAll for oneで支える地域/グループ共通患者カルテを活用した、クラウド型地域包括ケアソリューションです。MINETを導入することで医師・薬剤師・介護の連携による地域包括ケアシステムを構築することができます。メドレーがこれまで進めてきた医療プラットフォーム事業の中でも、地域という単位に根差したサービスがMINETです。

10年前、国の補助金を活用して各地で医療プラットフォーム化を推進する動きがありましたが、診療データを共有する全国約210のネットワークの登録患者数が国内人口のわずか1%にとどまるなど、形骸化が指摘されたこともありました。
MINETの前身となる「はたまるネット」は、高知県の宿毛市をはじめとした「幡多医療圏」で展開する地域医療情報連携ネットワークですが、地域住民のうち18.8%が登録するなど、総務省事業として選ばれている16の地域医療情報ネットワークのなかでも、とりわけ奏功している事例です。

例えば、大地震などの災害時を例にあげると、高齢者が避難所に避難した際にどこの病院にどういった疾患で通院していて、どんな薬を飲んでいるかが分からないために、併用が禁止された医薬品を処方してしまうなど、適切な医療を受けられないケースが発生する可能性もあります。こういった、とくに救急の現場に起こり得る問題への予防策として、南海トラフ地震の懸念などもある高知県では、医療情報をクラウドで共有する仕組みを構築しています。
同時に、マイナンバーカードを診察券や避難所の入退所管理としても活用する取り組みも進んでいます。マイナ保険証の取り組みと並行して推進されることで、より患者にとって利便性が高く役立つ医療情報連携を実現することができます。

最後に

メドレーでは「患者主体の医療」「持続可能な医療制度の実現」「ICTの活用」を軸に、事業を展開していきたいと考えています。適切なステップを踏んだ展開を行うことで、国民皆保険をベースとした質の高い医療環境を継続させ、患者や医療従事者にとってより良い未来が創出できるよう、これからも医療DXを推進してまいります。

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