MEDSiの生命科学系書籍

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MEDSiの生命科学系書籍

株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル(MEDSi)編集部です。 こちらではMEDSi発刊の生命科学系書籍の情報をお伝えします。 どうぞよろしくおねがいします。

マガジン

  • AIエンジニアがカンデル神経科学を読んでみた

    AIエンジニアの石川尊教さんが『カンデル神経科学』を読んで書くエッセイです。月1でお届けします。

  • 専門外の元科学者がゆるっとカンデル神経科学を読んで書く

    元・生命科学者である牧野曜氏(https://note.com/yoh0702)が『カンデル神経科学』を読んで書くエッセイです。

  • カンデル神経科学

    『カンデル神経科学』に関する情報・コラムなどなど。カンデル片手にぜひおたのしみください!

最近の記事

記憶とニューラルネットワーク

日常の経験から 「あれ? なにを話してたんだっけ?」  なんて思うことはありませんか?  長く複雑な話をしているとき、最初の方でなにの話をしていたのか忘れてしまうことがあります。いわゆる「ド忘れ」というやつ。 これは聞いている側も事情は同じです。 友人と会話をしていて、 「わたし関西の生まれなんだけど、中学生のときに親の転勤で東京に来て(ここから東京で過ごしたエピソードが延々とつづく)……昨日は表参道のカフェで3時間くらい話してたんだけど、いまでもたまに関西弁が出ちゃう

    • 『カンデル神経科学』のコラムを書籍化してくれないか

      今回でこのnoteは最終回らしい。 元よりアイデアや話題が湧き上がってくる質ではないから,毎回何を書くか悩んでいた。テーマを考えなくても済む方法はあるにはあった。カンデル神経科学には,本文の他にコラム(書籍中では,BOXと表記されている)が全部で59個掲載されていて,興味を惹かれる内容のものが多い。それらを取り上げて解説したり話を広げたりすれば,それなりの数の文章を書けたかもしれない。パッと目につくものだけを列挙してみよう。 ”データサイエンスとしての脳イメージング” ”

      • 『カンデル神経科学 第2版』のここがおもしろい──伊佐 正

        伊佐 正 監訳者(Part V)に,『カンデル神経科学 第2版』の魅力,そして最近の研究の中から「意思決定」について聞きました。 ──『カンデル神経科学 第2版』の魅力は?  まず,読者を引き込む魅力的な導入部ですね。初版でもそうでしたが,それぞれの章の始まりのあたりに,ちょっとしたサプライズの文章が隠れているのです。例えば第30章「感覚運動制御の原理」では,「運動生理は神経系に難題を課す」なんていう文章です。それだけ読んでも何を言っているのかよくわからなかったり,一般に

        • 大学院生の苦笑と、分からないって面白い

          大学院生だった頃,近くの研究室に所属する同じく大学院生の人と立ち話をしていた。 彼は当時,予測と全く違う実験結果が出てしまい途方に暮れていた。それを指導教官に相談したところ,「分からないって面白いね!」という反応が返ってきたのだと苦笑しながら私に言った。 生物学は学説が頻繁に更新されていくタイプの科学だと思う。一度証明されたかに思えた説明に修正が必要になるケースがまま見られる。何も適当に仮説が立てられているわけではない。その時々の技術で出来る限りの証拠を集めてもまだ足りて

        記憶とニューラルネットワーク

        マガジン

        • AIエンジニアがカンデル神経科学を読んでみた
          5本
        • 専門外の元科学者がゆるっとカンデル神経科学を読んで書く
          12本
        • カンデル神経科学
          22本

        記事

          歩行運動〜リズムの形成から行動の文脈まで           ── 西丸広史

                              西丸広史 富山大学 学術研究部 医学系・システム情動科学 教授 『カンデル神経科学 第2版』第33章 歩行運動 訳者,西丸広史 教授に,今回の改訂ポイントや,歩行運動の研究の流れなどを聞きました。 ── 歩行運動の研究のトレンドについて教えてください。  歩行運動を生み出す神経の仕組みについての研究は,特に脳幹と脊髄の神経回路に関し,長年の間多くの研究が行われてきました。近年は,マウスの分子遺伝学が大きく進み,これらの神経回路の

          歩行運動〜リズムの形成から行動の文脈まで           ── 西丸広史

          神経科学の完新世として

          『カンデル神経科学 第 2 版』の中で最もページが割かれているテーマは何かというと,それは「意識」でも「記憶」でもなく「知覚」と「運動」だ。 この教科書の中で,各項目にどのくらいのページ数が割り当てられているのか気になったので書き出してみた。 Part I  概論 (130ページ) Part II  神経系の細胞生物学と分子生物学 (112ページ) Part III シナプス伝達 (150ページ) Part IV 知覚 (328ページ) Part V 運

          神経科学の完新世として

          記憶の研究を次なるステージに             ── 井ノ口 馨

          井ノ口 馨 富山大学学術研究部医学系 卓越教授 Kandel 研での研究を終えて日本に戻り,三菱化学生命科学研究所に自分の研究室を構えることができました。まずは,研究対象をアメフラシからマウスとラットに移し,Kandel 研での研究を発展させ,長期記憶に関わる遺伝子の探索を行いまいた。  でも,6〜7年と経つうちに,「これからは,自分独自のテーマを確立していかなければいけないだろう」と思うようになりました。そこで,2009 年に富山大学に移ったときに,研究テーマを大きく変

          記憶の研究を次なるステージに             ── 井ノ口 馨

          ブレイン・マシン・インターフェース、またはある種の収斂進化

          『カンデル神経科学 第 2 版』の目次に「ブレイン・マシン・インターフェース」という言葉を見つけた時には,興奮して思わずツイートしてしまった。 日本語版のカンデル神経科学が第1版から第 2 版に改訂されるにあたり,神経科学の進歩に合わせて内容が変更され,章立ての再編がなされた。その結果,新たに追加された第 39 章のタイトルが,「ブレイン・マシン・インターフェース(長いのでこの先は BMI と表記する)」だ。SF らしさ全開の字面が堂々と教科書にあるのを見るたびに,これは本

          ブレイン・マシン・インターフェース、またはある種の収斂進化

          拡散する想像力 ─ 画像生成 AI の進化

          この文章の一節を読んで,あなたはどのような情景を思い浮かべるでしょうか? 場所はきっと「どこかの船着場」で,時間帯は「夜」,周囲は暗く「激しい雨が降る」悪天候でしょう。船着場には少なくとも 2 艘以上のボートが停まっています……つまり,その情景は完全な暗闇ではなく,何らかの光源で照らされているはずです。船着場を照らす街明かりか,暗雲に隠れた月の光か,あるいは豪雨に走る稲光かもしれません。 まったく同じ文章を読んだ人同士であっても,実際に思い浮かべた情景の具体的なイメージは

          拡散する想像力 ─ 画像生成 AI の進化

          カウントダウン動画を思い出す

          噛んデル、読んデル、飲んデル ──『カンデル神経科学 第2版』のプロモーションでは、ダジャレの考案が常に重要な位置を占めていました。プレゼントキャンペーンの「カンデルかん」もそうですし、カウントダウン動画作成時の50日間といったら、ダジャレネタとの格闘の毎日でした。  そもそも動画作りに関わったのは、3人。デザイナーの S、販売部 I、編集部 F(私)です。ネタの提案は3人で行いましたが、実際の動画を作る作業はすべてデザイナー S が担当。ネタ決め、撮影、動画編集と、50日

          カウントダウン動画を思い出す

          進化の隣人たちは何を感じて何を見ていたのだろう

          締切間際に原稿を書いていて良いことはほとんどない。しかし今回はそのお陰で,ノーベル生理学・医学賞が発表されてから取りかかることができた。今年の受賞者であるスバンテ・ペーボ博士は,ネアンデルタール人やデニソワ人などの,すでに絶滅してしまった人類の仲間(旧人類)の遺伝子が,我々,現生人類のゲノムに混ざっていることを発見した。 ゲノムは,言ってしまえば,生物の体・細胞を作っている部品の仕様書であり,それらの組み合わせによって製品(体)が形作られる。同じ部品を使っても様々な製品を作

          進化の隣人たちは何を感じて何を見ていたのだろう

          始まりはカンデル研 ── 井ノ口 馨

          井ノ口 馨 富山大学学術研究部医学系 卓越教授 ちょうど36歳の誕生日にアメリカに渡り,コロンビア大学のEric Kandel(エリック・カンデル)先生の研究室でポスドクとして約3年間研究を行いました。それまで,日本では分子生物学の研究を行っていたので,神経科学の研究はこのときがスタートです。 分子生物学から神経科学へ  以前から脳の研究に興味はあったのですが,脳は複雑で,分子レベルでどうやって切り込んだらいいかわからずにいました。そんなときに偶然読んだ塚原仲晃教授(大

          始まりはカンデル研 ── 井ノ口 馨

          脳が脳を知覚する

          頭に思い浮かんだもの 小説のネタバレをしていいのかな? まあ,いいことにしよう。 テッド・チャンのSF短編集『息吹』は私が最も好きなSF作品の一つだ。SFファンだと胸を張れるほど詳しいわけではないので,この作品のSFとしての価値はよく分からない。しかし,科学的世界観を見事にフィクションへ昇華しているから,科学を好きな人間としては最高だった。『カンデル神経科学 第2版』の「知覚」を扱ったパートの扉文(校正)を読んでいた時に,同名の表題作である『息吹』の内容が頭に思い浮かんだ

          脳が脳を知覚する

          教科書は脳の中にフォルダを作る           ── 大隅典子

          大隅典子 東北大学大学院医学系研究科 教授 『カンデル神経科学 第2版』(原書第 6 版)の日本語版を制作するにあたり,今回も「神経発生」を扱うPart Ⅶ の監訳を担当させていただき,ありがたいと思っています。改めてこの Part を一通り読み直して,この研究分野の 8 年間における進展を振り返ることができ,楽しく監訳させていただきました。  初版発行から現在に至るこの 8 年間に自分自身の研究が進展したことによって,読み直しを通じて新しく発見できたこともありました。ま

          教科書は脳の中にフォルダを作る           ── 大隅典子

          研究者からピュアを取り出してみる

          大学で研究していた頃,頭が良いことはそんなに大事じゃないと,めちゃくちゃ頭が良くて偉い先生に言われたことがある。頭の良いごく一部の人しか成功できないわけではないと言われたのだから,凡百の我々にも希望があると喜ぶべきところだ。しかし,言っている当の本人が,少なくとも私が会ったことのある人たちの中では飛び抜けて頭の回転が速く,つねに正確な理屈を口にする人だったので,著しく説得力に欠けた。しかし,おそらくその先生が言いたかったのは,「数学や理論物理のように天才的な知能が要るわけじゃ

          研究者からピュアを取り出してみる

          束見本って何?

          印刷に使用する紙には膨大な種類が存在します。その中からどれを使うかを決め,その用紙で実際に製本したものが束見本(つかみほん)です。束見本を手に取ることで,本の厚みやページの開き具合,製本の状態などを確認するのです。 束見本の束(つか)とは,本の厚みのことを指します。 『カンデル神経科学 第2版』の本文用紙は,初版と同じ。薄く軽いけれども,十分な強さのある上質の用紙です。表紙とカバーについては少し工夫を凝らしました。それは何か? 本を手にとってのお楽しみです。 軽いと言っ