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懐かしい空に

先日、キプロスでの同僚からメッセージが届いた。

「シェフ、お元気ですか?」

彼女はフレンチ出身の若いコックだった。

MATSUHISAという、

世界的シェフNOBUの店で働ける機会を得て

それを自分のキャリアにして

さらにもっと広い世界を見ることを

夢見ていた。


「私にとって、心からリスペクトできたシェフはあなただけでした」

彼女は僕をそう讃えてくれた。

僕は一年契約という、

限られた時間の中で「そこ」で働いたに過ぎない。

MATSUHISAには、あるいはNOBUには

沢山のクリエイティブな仕事をするシェフたちがいる。

申し訳ないが、僕は半ば腰掛けシェフのようなものだった。

もちろん、気概だけはそれに負けるつもりはなく

真摯に取り組んだことに偽りはない。

でも僕がMATSUHISAのシェフを名乗るには

どこか気恥ずかしい気分になることも事実だ。

「あなたはNOBUのような神格化したシェフとは違い

1人のアーティストとして、私は尊敬している」

メッセージはそう続いた。

「ありがとう」

僕はそう答える。

君にも、さらに上を望もうとするならば、

きっと何かが

さらに見えてくるだろう。

君にもその可能性は十分にあるよ。

こんな時代だけれど、

可能性を捨てないことだ。

「経験だけは自分を裏切らない」

これはNOBUさんの言葉だ。

僕もそれを信じている。

最後に

彼女はキプロスの懐かしい空の写真を送ってくれた。

「私はここをやめようと思っている。

でも心配しないで。

もっと広い世界を見にいくんだから。

そしてまたシェフにあって

その話がしたいな」

そう言ってくれた。

それは気持ちのいい空だった。

いろいろ大変なこともあったけれど、

清々しい気持ちにしてくれる

そんな仲間との出会いは

こちらの心まで豊かにしてくれる。


2020年という締めくくりには

「ありがとう」

と締めくくりたい。


世界中で

苦しい思いをしている料理人たち

飲食従事者たち

2020年という年は

本当に大変な年だった。

みんなが同じ問題に立ち向かい、

必死に戦った。

職場を失った人、

情熱を失った人、

金策に追われ、

打ちひしがれて、

夢や希望を見失った人、

見失いそうな人、

僕はその全ての人たちに

大きな拍手で締めくくりたい。

僕たちは本当によく頑張った。

その戦いはまだ終わっていないけれど、

この時代をsurvivalした有志として、

心から讃えたい。


2021年にはまた

新たなフェーズを迎える。

ここで止まるわけにはいかないのだから。

肩をぐるぐる回しながら

前掛けの紐を結び直して、

「いざ行かん」

そしてその重い扉を押し開けて行くのだ。





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