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第193話 冥福の女神の瑞祥


(めいふくのめがみのずいしょう)


 下絵の印刷されている粘着シートに、指定された色のプラスチックビーズを載せていく。その数、ざっと二万粒以上。
 けーこが見つけた“ダイヤモンドアート”は、画素の粗いゴブラン織りの刺繍のような作品を作れる簡易クラフト。無心で粒を並べていると、最初はまるで瞑想のようだと思って楽しんでいた筈なのに、後半どうも様子が違った。明らかに、高次元からその完成を急かされていた。


 大山のあと、けーこがサクヤヒメ……本人曰く「さくら」さんによく似た可愛らしい女性の図案をネットで見つけ、作り始まったのがそもそものきっかけ。
 満開の桜の中で扇子を広げ、牡丹と御殿柄の着物を纏い黒い龍の帯を締めている。一回り小振りとはいえ、こちらも優に一万数千は使用する。
 すると、数日後には作り終えてしまったけーこが「次はどれを作ろうか。」と物色するデザインの中に、私の魂に響いたものがあった。

 私、その人作りたい……。

 露わになった背中一面、龍の刺青(しせい)が施されていた。咲き乱れる藤と紫陽花に囲まれた中、真っ赤な紅をさした顔(かんばせ)は凛として不敵で、キリッと上向きに上がった眉毛が芯の強さを窺わせている。鶴と牡丹、それに御殿の描かれた着物を腰まで下ろし、肩には赤い翼龍を手懐ける艶麗(えんれい)な姫がそこにいた。

「あっ、お姉ちゃん?」

 そのショッピングサイトをけーこの背後から覗き込んでいたさくらさんが呟いた。その一言で全てを悟った。


 神も人も、たくさんのパラレル世(せい)をその魂に宿している。『私』というミラーボールは、ある角度ではひみを映し、ある角度ではリトを映す。それらは両方『私』であって、そのどちらもが等しく正解。プレアデスの姫だった私も般若になった女の子も、ハイヤーセルフもロウアーセルフもその全てが私である。
 便宜上『過去世』と呼んではいるけれど、実際彼らはパラレル軸で今現在も生きている。すべての私はひとつの私。

 ここまでのけーことの旅で、散々、コノハナサクヤヒメと対を成して顕現してきた“死者を弔う『括り』の女神”がなぜ対だったかを理解した。

 菊理姫とは、磐長姫のことだった。

 だからなのか、だからイワナガヒメの魂は、平面ではなく多面的な本当の自分を知ってほしくて私に託してくれたんだ……。


 知らぬ間に瀬戸神社でイワナガヒメの守護を受け取り、アートの完成と共にククリヒメの密度が増すと色々なことが腑に落ちていく。
 神話の登場人物というと、まるで二次元キャラクターのように文献の中で起こった出来事だけをループしているように思われがちだが、その実、本当はそんな狭いドラマだけを永遠繰り返しているわけではない。
 彼らは今も生きていて、彼らであっても様々なレイヤーが様々な体験を“現在進行形で『体験中』”なのである。

 ククリヒメでありイワナガヒメでもある彼女は“彼女自身”を愛していた。あらゆる世(よ)、あらゆる経験を糧としているすべての自分を愛していた。
 だから当然、“イワナガヒメを生きている自分”も愛しているのに、容姿のみでしか尺度を持てない集合意識が千年以上も自分を引き摺り下ろそうとしている故に、低きは未だ闇の中で悲しく、高きは呆れて辟易していたのだ。

「そなたは妾(わらわ)、妾はそなたじゃ。つまらぬ時代遅れの物差しになど、我らの審美は測れまい。」

 完成したククリヒメからそんな矜持(きょうじ)を諭される。

「げに、かたはら痛し(本気で馬鹿馬鹿しい)。」

 自分を直視もしないのに、人を指差し誤魔化すことしかできない者たちをそんなククリが一蹴(いっしゅう)すると、反転、今度は私に向けて愛情たっぷりの優しい笑みを浮かべてくれた。

……

 夢の中で、ククリ、さくらさん、けーこ、それに私が何者かを相手に戦っていた。
 私のククリが完成し、けーこも新たに彼女自身のハイヤーセルフのようなアートを完成させたその夜中、二人の女神が黒龍と赤龍を遣い放つと、それらの魔物を一掃していく。
 瀬戸神社でいただいた短刀はこの時のためのものだった。元戦士の過去世の勘を活かし、敵を次々となぶり斬っていく。

 寝不足の中目覚めると、現実の私たちに対しても試練の足音が近づいていた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎

meetooについて来れる方は大丈夫だと信じたいんですが、私とけーこの物事への捉え方は(現実創造も含めて)確かに真逆ですが、そこだけを切り取って対立構造のようにピックアップしたりしてませんよね。

私とけーこはお互いに、相手の方法が本人の本質、芯から来ていると知っているので、対極である一段上で『自分軸を持った者同士』としてお互いを認め合っています。
私がけーこのやり方をしようとした瞬間、それは私にとっての他人軸になってしまう。そのことを私もけーこも知っています。

だからmeetooとは他ならぬ、この、『差異があっても一段上ではやってることが同じだった』ということを実際に見てもらえる、あなたが一段上へとあがるヒントとなれる稀有な場所だと思っています。


さて。ククリさんの話。
昨日は話の伏線回収として、参考に磐長姫の第99話をリンクさせてたんですが、これね…。
九九=クク=括り。そして100話では菊理姫(終わり)から武甕槌(始まり)へとバトンタッチされ『螺旋を上がった振り出し』に戻るやつ笑
ふふってなるやつね。

菊理姫とは、日本書紀の黄泉の国のワンシーンにしか登場しない女神だし、磐長姫も主役級の話はありません。
今までも木花咲耶姫が誕生を司ると書いてきましたが、それは三次元における誕生ということ。
菊理姫は死の守り人。つまり彼女が忙しくしているのは四次元であって、三次元目線の記紀には殆ど出てこないのは当たり前。
三次元にとっての死とは、四次元における誕生です。

三次元と四次元は、双方にとっての表舞台と裏舞台です。
あなたがコインを得たいなら、表も裏も、光も闇もちゃんと受け取ってくださいね。

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→第194話 火焔

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