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しあわせな空間について

金曜日、自炊するための食材が家になくて外食することにした。わざわざスーパーに行ってつくる元気も特に残ってなかったのだ。
家の近くに、昔からそこに存在しているであろう和食屋さんがある。
蕎麦やカツ丼もあり、支払いでは現金しか扱えないものの、いつも古いお客さんで静かに賑わっている。

店内に入ったとき、懐かしい匂いがした。
きっと店内に生けてある花が発していて、私にもその香りが小さい頃からそばにいたと思う。

私はその店でいつもけんちんうどんを頼む。
その日、私の正面の大きなテーブルには、6人のおじいちゃんにさしかかった人たちのグループの中に、店主と店主のお孫さんがわいわいしていた。

そのグループは店主と昔ながらの付き合いなのだろう。
そしてその輪に6歳のさくらちゃんという女の子がちょこんと混じり、おじさま達の会話に混じっていた。
おじさま達もさくらちゃんとの会話を楽しみ、

「ランドセルはもう買ったの?」
「さくら色じゃなくて赤にしたんだね〜」

などと穏やかで幸せな空間がそこに広がっていた。おじさま達の中にさくらちゃんがいることが優しく許されていて、その中で可愛らしく花を咲かせるさくらちゃんだった。

おじさま達が帰ったあと、さくらちゃんはテーブルの上にあるお醤油をこぼしてしまった。
しかし、ごまかすことなくすぐに厨房で働いているお母さんを呼び、ごめんなちゃいと謝る姿を見て、とても幸せな気持ちになってしまったのだった。

小さい頃、あんな風に無条件に誰かに受け入れられる経験はとても大事だと思う。
そういう安心感が、さくらちゃんを無邪気なままにさせているのだと感じる。

これからもすくすくとさくらちゃんにしか咲かせられないものを育ててほしいなあとささやかに思いながら、私は金曜日をあとにした。

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