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ペーパードライバーが巨大車用品店に行った話③

【前回までのあらすじ】
初めてのドライブで、
知人の車を借り神戸に向かった私
コンビニに駐車が出来ず、先に降りてトイレに行った知人を置きざりにして車を走らせた

………


私は知人に申し訳なく思いながらも、
「うんこであれ!」と天に祈った
それも、できるだけ苦戦してくれ、と

なんならトイレットペーパーが無くなって立ち往生していてくれればよいとまで思った

時間が稼げれば、私は自分の気持ちを立て直し、またあのコンビニに戻ることもできる

神への切実な祈りに気を取られ、早速一つ目の交差点は左に曲がれなかった

一人で、見知らぬ土地を真っ直ぐに疾走、いや、失踪しつづける

このままでは車泥棒としてニュースになってしまう

こんなでかい車はいらないのに
いらないもので泥棒になり、職を失うのはごめんだ

戻ろう、戻らなければ

しかし私は、はたしてどこのコンビニなのかもう忘れてしまっていた

それどころか、コンビニの色も思い出せない

赤かったっけ
青だったか
みどりってことはないか

頭の中でアノ3色が渦を巻き始め、ドス黒いな渦潮になって回り続けている…!
その中心に自分が飲み込まれそうになったとき

携帯がなってハッと現実に戻った


私は嘘のように周りの景色がゆっくり見えるようになった
究極のパニックから、一気に現実に引き戻され、あまりの落差からゾーンに入ったのだと思う

赤信号で急ブレーキにならずに、それは上手に止まれた
発進もゆるやかだ

なせばなる、だ何事も
自信まで沸いてきた

ふと右を見ると、建物と建物の間から海が見えた

海が、私を呼んでいる

海なし県で、臨海学校に向かうバスの中、興奮して卒倒しかけた私を
神戸のおしゃれな海が呼んでいる

導かれるように、右にハンドルを切り、スムーズに堤防の近くで車を止めた

エンジンの切り方がわからないので、そのまま外に出て、のびをする

求めていた塩の匂い
夏と秋の境目の少し遠慮がちな太陽がを反射して水面を煌めかせていて、かわいい


電話が鳴っている

そうだ、そういえば、そうだ
知人のことを忘れていた

「海がきれいだよ。今から迎えに行くね」

どこのコンビニか尋ねようとすると

知人は、「そこを動くな!」と洋画の吹き替えみたいなことを言った

マップで今いる地点を教えてあげると
知人は1キロ以上歩いて、汗だくになってたどり着いた

私はもうその頃には海に飽きて眠くなっていた

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