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特別支援学校からの発信「音韻認識『モーラ』と『音節』について」

音韻おんいん…なんて言われてもなかなか普段耳にしない言葉だと思います。

耳から聞くのが、あるいは言葉で伝えるのが苦手な子の中には、この音韻認識が苦手な場合があります。海外の方が日本語学習をするときにも、この音韻認識で苦労されるそうです。

今回はこの音韻認識に関して、「音素」「音節」「モーラ(拍)」について解説していきます。…ですが、僕も専門家ではないので拙い部分も多いかと思いますが…よろしくお願いします。


音素・音節・モーラの違い

まず「音素」は、音の集まりのことです。文脈としては、音の最小単位を表すことが多いです。

例えば「赤(あか)」であれば「a/k/a」のように3つの音素で構成されていると考えます。日本語をローマ字表記した際のアルファベットの1つ1つをイメージするとわかりやすいかもしれません。

日本語のひらがなは1つの音(モーラ)に対応しているように聞こえますが、構造的には「か」は「k」「a」という子音と母音が組み合わさってできています(この理解が英語の発音理解につながります)。

「音節(シラブル)」は、言語音の区切り方の1つで、母音(あるいは子音+母音)を中心に区切るのが特徴です。

例えば「りんご」は「ringo」なので、音節的には2音節となります。また「きて(kite)」は2音節で、「きって(kitte)」も2音節です。

*ここでは、わかりやすくローマ字表記で説明しています。厳密には音声言語では専用の音声記号を使うので、表記が若干異なります。

この辺りがモーラと違うところでややこしいのですが、音節は長音(ー)・促音(っ)・撥音(ん)をカウントしないというとわかりやすいかもしれません。

「モーラ(拍)」は、言語音の区切り方の1つで、時間の長さで区切るのが特徴です。「拍」とも呼ばれます。あの1拍、2拍の拍です。

例えば、例えば「りんご」は「り・ん・ご」なので、3モーラとされます。また「きて(き・て)」は2モーラ、「きって(き・っ・て)」は3モーラになります。

モーラは、長音(ー)・促音(っ)・撥音(ん)をカウントします(ちなみに音節もモーラも拗音はカウントしません)。

かなもじ1文字が1モーラに対応しているので、日本語の感覚に近いですね。俳句や川柳の5・7・5、短歌の5・7・5・7・7の文字数はモーラで数えています。

わかりにくいので、具体的に、言葉を音節とモーラで分けて比べてみましょう。

「くるま」
音節:「くku るru まma」 3つ
モーラ:「く る ま」 3つ

「おちゃ」
音節:「おo ちゃtya」 2つ
モーラ:「お ちゃ」 2つ

「ハート」
音節:「ハーha トto」 2つ
モーラ:「ハ ー ト」 3つ

「きって(切手)」
音節:「きっkit てte」 2つ
モーラ:「き っ て」 3つ

「サッカーせんしゅ」
音節:「サッsak カーka せんsen しゅsyu」 4つ
モーラ:「サ ッ カ ー せ ん しゅ」 7つ

なんとなくイメージできたでしょうか。

音韻認識とは

ことばと文字は密接に関連しています。

文字を読み書きするためには、ことばの音の構造に注意を向けたり、それを操作したりするための音韻認識の力(日本語では、ひらがなに対応したモーラの理解)が必要だと言われています。

この力は、4〜5歳頃に身につくそうです。ことばの最後の音を抜き出して、それと同じ音からはじまる音を探す「しりとり」ができるようになるのです。

音韻認識が発達し、「音(モーラ)」と「文字」の対応に気づくことで、読み書きの文字学習につながるのです。

(画像はよつばCOLORSブログより)

同時にこの時期に音韻の誤りへの気づきがはじまります。「セミ」を「せび」、「でんわ」を「でんま」、「マスク」を「まくす」などがよくある誤りで、長いことばになると「トウモロコシ」を「とうもころし」、「トイレットペーパー」を「といれてぺーた」などさらに顕著になります。

音韻認識につまずきがあると、濁音や「だ/ら」のようなにできる音が苦手になり、書きまちがいにつながります。特殊音節も苦手になり、書くこと読むこと自体が嫌いになってしまうかもしれません。

音韻認識を高めるために

音韻認識を高める取り組みをいくつか紹介します。また普段の会話やしりとり、聴写(聴いたことばを文字として書く)などで、子どもたちの音韻認識のアセスメントができます(ここで紹介する取組みも参考になるかと思います)。

●音韻の力を伸ばすことば遊び

以前別の記事で紹介した『誤り分析で始める!学びにくい子への「国語・算数」つまずきサポート(村井 敏宏/山田 充)』に掲載されているものです。

①「○」のつくことばさがし

例えば「『あ』ではじまることばを探そう」と伝え、「あり」「あひる」「アイスクリーム」などのことばを探すゲームです。

 この時,見つけたことばのモーラ数も同時に数えさせ,その数が得点になります(*「あり」なら2点、「あひる」は3点、「アイスクリームは」は7点のよううに)。チームを組んで合計得点が一番多い組が勝ちになります。
 また,別のやり方として,「あひる」のようにことばのはじめにつくと1点,「ココア」のように最後につくと2点,「コアラ」のように真ん中につくと3点と得点化することもできます。

(画像はちびむすドリルより)

②タヌキで言おう

ことばからある音を取って言うゲームです。「タヌキ」の場合は、「たまねぎ→まねぎ」のように、言われたことばから「た」の音を抜いて言います。「たまねぎ→まねぎ」のような語頭につく言葉が一番簡単で、語尾「かた→か」、語中「ももたろう→ももろう」と難しくなります。「、かたたたき→かき」「またたび→まび」のように「た」がいつくか入ることばをまぜるとおもしろくなります。

(画像は記者作成より)

③はんたいことば

「動物の名前を反対に言います。何の動物でしょう。『まぐらいあ』?」(正解は『あらいぐや』)のように、はんたいことばから元のことばを考えるゲームです。聞いた音を覚えておいて、頭の中で入れ替えるのです。

「んりき→きりん」「まがいらあ→あらいぐま」のような「動物」意外に、「野菜」「くだもの」など身近なことばですると盛り上がります。

難しいですが、「てぶくろ→ろくぶて」「めがねくん→んくねがめ」のようにことばを反対に言うとどうなるかを考えてみてもいいでしょう。

(画像は発達ゆっくりっ子の365日。より)

④どうぶつさがし

「『冷蔵庫れいぞうこの中に隠れている動物はなんでしょう?』と尋ねて「ぞう(れいぞうこ)」を見つける遊びです。聞いたことばの中から動物の名前の音韻を抜き出すのです。事前のことば集めが大変そうですが…笑

(画像は記者作成より)

「どうぶつさがし」のことばを調べてスライドを作ってみました。

●はぐくみブログ「【言語聴覚士が作成】ことばの発達プリント:家庭療育」

言語聴覚士さんが作成した、音韻認識学習用の①モーラ分解、②語頭音抽出、③語尾音抽出の3種類プリントデータが無料でダウンロードできます。なんて太っ腹なんでしょう。

(画像ははぐくみブログより)

●ことばドリル

言語聴覚士の寺田奈々先生がつくった教材です。音の分解や抽出に活用できるイラストつきのシンプルなシートが21枚ずつあります。

(画像はbaseより)

こちらの記事でも紹介しています。

●特別支援教育「すぐに使える!プリント+ビデオクリップ」

文字と音(モーラ)の認識を高めるプリントがイラストを選択して自作できます。

(画像は特別支援教育「すぐに使える!プリント+ビデオクリップ」より)

●『読み書きが苦手な子どもへの〈基礎〉トレーニングワーク』

音韻抽出(「か」が つくことばに ○をつけよう)、モーラ分解(おとの かずだけ ○を ぬろう)、音とかな文字の対応(「き・し・ち」を いれよう)などのわくわくプリントが掲載されています。

●多層指導モデルMIM 読みのアセスメント・指導パッケージ

以前、別の記事で紹介した『多層指導モデルMIM 読みのアセスメント・指導パッケージ』は音韻認識のアセスメントにも練習にも活用できます。

特殊音節を動作化・視覚化することで、モーラの感覚が意識できます。

(画像はGakkenより)

●アプリ「音韻認識をはぐくむ!ひらがなトレーニング」

4タイプのトレーニングで、ひらがなの基礎スキルとなる音韻認識力を伸ばしていくiPad専用のアプリです。

1.「しりとりあそび」(全75問)
 単語の語頭音、語尾音を抽出するトレーニングです。しりとりの順で続く単語を、選択肢の中から答えましょう。
2.「おとのある・ないクイズ」(一般、促音、拗音/全150問)
 単語の中に含まれる音の有無を判別するトレーニングです。「『か』がつくことば」のように、指定した音を含む単語を2択で答えましょう。
3.「いくつのおとかな」(一般、長音、促音/全150問)
 単語のモーラ数(拍数)を数えるトレーニングです。音の数だけ拍手のマークをタッチして答えましょう。
4.「このおとどれだ」(長音、拗音/全150問)
 長音や拗音のひらがな表記のときに使う文字を選ぶトレーニングです。○に文字を入れて長音や拗音の表記を完成させましょう。

(画像はvaluepressより)

英語の音韻認識

英語の読み書きにも音韻認識の力は深く関わっています。

英語圏の音節と、日本語の音節は構造が違います。日本人が英語を学ぶ際には、まずは日本語の音韻感覚で英語を捉えます。しかし、英語圏で用いる文字は、アルファベットです。アルファベットには音素が対応します(例:Aという文字には/a/という音)。

例えば「dog」という単語は、「d/o/g」という3つの音素からできていますが、日本人には「do」は1つの音として認識され、「d/o」という2つの音だということがわかりにくいのです。

なので「dog」や「bus」などの発音と表記(それまでのローマ字)の違いにつまずく子がたくさんいます。

余談ですが、学生の頃アメリカの学生を観光案内するボランティアで水族館へ行き、「アクアリウム」という僕の日本語発音が伝わらず苦労したことがあります。
「アクアリウム」ではなく「 アクェリーアム」そして音節は6ではなく、4なのです。アクセントも全然違います。
伝わらないのも当然ですね。

(画像はWeblio英和和英辞書より)

英語を学ぶ際にも、音から文字学習につながるため音韻認識は欠かせません。

(画像は教育zineより)

英語の音韻認識を高めるにはマザーグースなどライミング(rhyming:韻)がたくさん含まれた文を口に出して繰り返すのがいいそうです。それがて「1つの単語に含まれるより小さい単位」への気づきを育てていきます。

音韻認識で、捉えた音声がどのように文字で表示されるかを知っている知識の部分が英語では「フォニックス」になります。アルファベットに対応する発音のルールを覚えるものです。

(画像は小学生のための英語・英会話WinBeより)

(画像はBenesse Worldwide Kidsより)

「フォニックス」を覚えることで英単語の混乱が解消されるかもしれません(もちろん意味は覚える必要がありますし、何事にも例外はありますが…)。

気になる方は「フォニックス」を検索してみてください。

まとめ

音韻認識についてお伝えしました。はじめにお伝えしましたが、僕自身は言語の専門家ではない、しがない社会科教員です。

特殊音節アセスメントのための聴写テストに関わったり、点字技能師試験の学習をしていたときのことを思い出しながら、大半を調べながら記事を書きました。

自分の忘備録的な面も大きいので、気になる方はぜひ参考にしたサイトなどで調べてみてください。

ただ聞いたり話したり、読んだり書いたりが苦手な子の背景には音韻認識の弱さがあるかもしれません。子どもの実態把握や支援の手立てを考える際の参考になれば幸いです。


参考にしたサイト

1.明治図書ONLINE 教育ZINE「英語教育ユニバーサルデザイン 指導に役立つ教材・教具(7)聞くことの指導―英語の音韻認識1」

2.日本語教育能力検定試験まとめ「日本語の拍・モーラと音節のまとめ」

3.Senwisdoms医療と育児と心理学「音素・音節・モーラ(拍)の違いをわかりやすく解説」

4.わたしには夢がある「モーラと音節の違い それぞれで音の長さの数え方が変わる」



表紙の画像は、明治図書ONLINE 教育ZINE「英語教育ユニバーサルデザイン 指導に役立つ教材・教具(7)聞くことの指導―英語の音韻認識1」より引用しました。