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教材紹介【きもち】「いま、どんなきもち?」

大阪府人権教育研究協議会の教材「いま、どんなきもち?」についての紹介です。

「いま、どんなきもち?」については、以前別の記事でも簡単に紹介したことがありますね。

今回は僕の具体的な活用方法も含めて紹介します。


自分のきもちを言語化する難しさ

きもちについて支援学級や支援学校で学ぶ機会があるでしょう。僕も盲学校時代から自立活動や道徳できもちの勉強に取り組んできました。

感情のコントロールが苦手な子に対してSSTの研修会に参加し、学校で実践していました。その中で気付いたのは、感情のコントロールや相手の感情を推測する、リフレーミング、アサーティブな伝え方など様々なスキルを身につける前提として、まずはいろいろなきもちがあることを知ることや、自分のきもちを認識することが必要だということです。

学んだことや経験したこと、過去の思い出に対するきもちを尋ねてみても「わからない」や「ふつう」、あるいは、なんでも「楽しかった」と答える子たちがたくさんいます。

そんな子たちと一緒にきもちを考える授業で、今回紹介する「いま、どんなきもち?」を活用してきました。

「いま、どんなきもち?」で自分のきもちを選択する

大阪府人権教育研究協議会のホームページには「いま、どんなきもち?」ポスターのJPEGとPDFのデータが掲載されています。

(画像は大阪府人権教育研究協議会より)

僕がきもちの授業をはじめるときには、まず子どもたちに「思い浮かんだきもちを表す言葉」をどんどん出してもらい、出てきた言葉は黒板に書き出します。

こんな感じです。その年の子どもたちによって変わるのが面白いんです。

(画像は記者作成より)

その中から喜怒哀楽などを表すいくつかを選び、1枚にまとめたり、カードにしたりします。そしてそれらを使って、「その気持ちになる場面」や「ある場面でどのきもちになるか」を考えていくのです。

その取り組みは、この「いま、どんなきもち?」を参考にしたものです。

それ以外にも、毎日の帰りの会で発表する今日の出来事を考えるときに、この「いま、どんなきもち?」を見てもらい、自分の気持ちを選んでもらうこともあります。

毎日「〜しました。楽しかったです。」の発表が続いていた子には、「今日の●●はこんな気持ちじゃなかった?」と問いかけてみたり、「今度は●●のきもちになったことを探してみよう」と課題にしてみたり。自分のきもちと言葉が上手くリンクしていない子には、「きっと今の君のきもちは●●だね」とこちらが言語化する場合もあります。

そんなことを積み重ねていくと、少しずつ子どもたちが選ぶきもちの言葉が増えていきます。

少しずつ自分のきもちを自分で選択する力をつけていくのです。

場面で変わる自分のきもちを知る

自分のきもちを選択する力がついてきたら、いろんな場面、例えば「テストが90点だったとき」や「給食にエビが出たとき」、「参観で発表するとき」、「ドッチボールで当てられたとき」などでの自分のきもちを選択します。

最初は「うれしい」「いや」から、徐々に表せる感情の種類やその度合いなど、自分のきもちを詳しく伝えられるようにしていきます。

そのときにも、この「いま、どんなきもち?」のポスターは役立ちます。

そんな取り組みを通して、感情を表す言葉とイメージと自分の体験がリンクしていき、伝えられるきもちが分化したり、いろいろな場面で変化する自分のきもちを意識したり、例えば自分が嬉しいと感じるのはどんなときかを考えたりできるようになっていきます。

「ブリッジスとルイスによる情緒・感情の分化」

(画像はnote「情緒Part2」より)

もちろん「わからない」と答える子もいるでしょう。自分のきもちって難しいものですもんね。「今は答えたくない」そんなこともあるかもしれません。そんな子たちが安心できるようパスカードも用意しましょう。パスしても大丈夫な安心感が、「次は答えてみようかな」にきっとつながります。

また別の記事で紹介しますが、怒りの感情コントロールをしていくときには、同じようにさまざまな場面で怒りの温度を考えていくことで、自分の怒りの温度が変化していくことを経験していきます。

こころの温度計

(画像は大阪府人権教育研究協議会より)

それ以外にも、大阪府人権教育研究協議会のホームページには、止まったマスのきもちを表現する「きもちすごろく」や表情やしぐさから感情や内面なきもちを考える「ふきだしカード」などのワークと教職員用ガイドも掲載されています。

きもちすごろく
ふきだしカード

(画像は大阪府人権教育研究協議会より)

自分と他者の違いを知る

授業で取り組むときは、自分がニコニコやルンルン、プンプン、シクシクなどのきもちになる場面をワークシートに書いてもらいます。

そして全員分の回収したワークシートをもとに、例えば「テストが90点だったとき」や「給食にエビが出たとき」、「参観で発表するとき」、「ドッチボールで当てられたとき」などでの自分のきもちを選択し、発表してもらいます。

僕はエビが嫌いなので「給食でエビが出たとき」のきもちは「シクシク」とか「しょんぼり」とかを選びます。でもエビが好きな子たちは「やったぁ!」とか「ウキウキ」とかを選ぶでしょう。「マラソン練習で走るとき」は、走るのが好きな子は「ルンルン」かもしれませんし、走るのが嫌いな子は「最悪」かもしれません。

参観や発表会のときはドキドキする子が多いかもしれません。でも「なんともない」「ふつう」の子もいるかも。

同じ「先生に叱られたとき」や「ドッチボールで当てられたとき」などのいやなきもちになるときでも、「プンプン」や「イライラ」を選ぶ子もいれば「シクシク」を選ぶ子もいます。性格の違いが感じられますね。

「テストで90点だったとき」は、普段のテストの点によってきもちが異なります。いつも満点の子は「くやしい」「イライラ」かもしれませんし、もっと点数の低い子は「やったぁ」「よっしゃあ」「エッヘン」かもしれません。

こんな風に同じ出来事に対しても、それぞれが抱くきもちは同じとは限りません。そのことを知ることが、相手のきもちを考える一歩になります。

別の記事で紹介した「私の好きなものリスト」もそんな風にお互いの違いを知る、自分の当たり前が当たり前ではなく、みんな好きなものや違いなもの、興味のあるものは同じではないということを意識することをねらった教材です。

少しずつ相手のきもちも想像ていく

そうやって同じ場面でも相手が感じるきもちは自分と同じではないことを意識しながら、少しずつ相手のきもちを考える場面を用意していきます。

「相手のきもちがわからない?」そんなこと当たり前です。僕自身も結婚して10年になる妻も、生まれてからずっと一緒にいるわが子たちも、「なにを考えているのかわからない」と感じることがたくさんあります。

目の前の人に対して「こんな風に考えているんだろうな」と予想したことが大外れだった経験も山ほどあります。それを聞いて安心はできないかもしれませんが笑。

最初は「自分なら○○だから」や「以前にAくんがこう言っていたから」からで構いません。誰しも最初は自分の考え方が基準となります。間違えたって大丈夫です。経験を重ねて少しずつ推測する力をつけていけばいいのです。

大阪府人権教育研究協議会のホームページには、「いま、どんなきもち? 場面イラスト」が掲載されています。いろんな場面でのきもちや、相手のきもちを考えていくのに活用できますよ。

場面イラスト 朝の教室編
場面イラスト 運動場遊び編

(画像は大阪府人権教育研究協議会より)

まとめ

きもちって目に見えないし、音も聞こえない、匂いだって味だってわからないし、触ることもできません。でもそれぞれにある…考えてみたらとっても不思議なものですよね。

定型発達と呼ばれる多数派の人は、相手の表情や言動などから「こんなきもちかな?」と自然に考えてしまいます。一方、ASD傾向のある人たちには相手のきもちを想像することが苦手なことがあります。まぁ本当に定型発達の人が相手のきもちがわかるのなら、世の中のトラブルはもっとなくなってもいいかと思うのですが…。

ASDの子たちはきもちを考えるのが苦手…なんて言われますが、実際にきもちの授業を始めてみるとみんな真剣に、そして楽しんで参加してくれます。

そんなきもちを学んでいくのにとっても便利なツール「いま、とんなきもち?」の紹介でした。

よければ活用ください。

そして子どもたちが不思議なきもちの世界に触れ、きもちを考える難しさや楽しさを感じてくれる役に立てれば幸いです。



表紙の画像は大阪府人権教育研究協議会から引用した「いま、どんなきもち?」のポスターです。