見出し画像

高橋奎二2023~4勝9敗と対角線投法の実像

はじめに

あけましておめでとうございます。お正月3が日を高橋奎二漬けで過ごした暁めぐりです。
昨年は9月から投稿をはじめて4ヶ月で記事7本。もう少し投稿頻度を上げていきたい(希望)と思いますので、スワローズファンの皆様、今年もよろしくお願いいたします。

今回は高橋奎二2023と題して、昨シーズンの高橋奎二投手を振り返ります。前半では、4勝9敗と大きく負け越し、防御率4点台と苦しんだ要因を、2022年のスタッツと比較しながら見ていきます。
後半は、終盤戦に見せた「対角線投法」の実像を探ります。9月の投球において、高橋奎二はほぼ全ての球種を(左投手から見た)対角線に集めました。
前半と合わせて、試行錯誤のシーズンとなった高橋奎二の2023をご覧いただきたいと思います。


2023シーズンの高橋奎二

高橋奎二2023 全球種スタッツ

こちらが2023シーズンの基本スタッツです。50%を占めるストレートを中心とした投球は変わらず。主な変化球はスライダー、カーブ、カット(ムービング表記)、チェンジアップです。ただ、スライダーを投げていたのは前半のみで、後半戦はスライダーをカットとカーブにした感じですね。
特筆すべきはやはりストレート空振り率6%、平均球速147キロ…彼にしては低い数値。しかも平均球速は四捨五入されており、実際は146.5キロ
これを昨シーズンと比較してみます。

1-1 ストレートの比較

高橋奎二ストレート 比較表

球速、空振り率ともに低下し、被打率が跳ね上がっています。球速に関しては2キロ低下空振り率は約12%→6%程に半減しています。
投球主体となるストレートのスタッツ低下は間違いなく成績悪化の要因といえるでしょう。このあたりはよく言われていることではありますが、並べてみると一目瞭然ですね。ストレートの割合に関しても低下しており、直球で押し通せなかった様相が見えます。

1-2 変化球スタッツ

変化球についても昨シーズンとの比較をしたいと思います。こちらについては2022→2023年前半→2023年9月以降と時系列で並べてみます。
まずはスライダーとチェンジアップから。

高橋奎二 スライダー、チェンジアップ比較表

2022シーズンに投球の2割を占めていた緩めのスライダーが大不振被打率も3割を超えストライク率も4割前後とカウントも取れなかったため、8月以降はほぼ投げませんでした。後述しますが、WBCでダルビッシュに教えてもらっていたボールはこのスライダーではないと思います。
これによって、前半戦はもう一つの決め球チェンジアップを多投しました。投球1/4をチェンジアップが占め、スライダーでは安定してカウントを稼げなかったため、ストライク率が5割を超え、カウント球にも使いました。
9月のスタッツを見ても、曲がり球が荒れていた前半の投球の苦しさが伺えますね。

次にカットボールとカーブです。

高橋奎二 カットボール、カーブ比較表

スライダーの不振と共に割合の増えた2球種です。特にカットボールは年間を通じて被打率1割台でストライク率も上々。昨シーズンでもスライダーの空振り率が10%だったことを考えれば空振り率も同等です。
個人的にはダルビッシュのスライダーはこのボールに近いのではと思っています。

こちらの記事では

僕のスライダーは曲がり幅が大きくて、なおかつ球速が遅いので、縦気味に球速のあるスライダーが欲しい

高橋奎二とダルビッシュが“球種交換”「本当に夢みたい」至福のひととき
BASEBALL KING

との記述があります。
一方で緩めのスライダーを指して「ダルスラ」と言っている記事もあるので真相は不明ですね。
終盤戦はカーブをかなり効果的に使えていました。9月のカーブ空振り率は14%まで上がり、決め球の一つになっています

球種別にみると、ストレートとスライダーのスタッツの大幅な低下に2023年シーズンの不振の要因がありそうですね。9月以降のスタッツは第2章で詳しく見ますが、ストレートの質を戻すことと使える変化球構成の見極めの2つが終盤戦に課題として挙がってきたように見えます。

1-3 その他変化

2022年シーズンからの変化としてもう2点。1点目は左右別の被打率。

高橋奎二2023 左右別スタッツ

画像は2023シーズンのスタッツ。
一方で2022シーズンは対右.204、対左.205なので極端に右打者に弱くなっていることがわかります。こちらも前半戦の時点で明確な課題として見て取れました。

もうひとつはフライアウトの増加です。今季のGO/AOは、自己集計で1.14。算出されている数値に差異はありますが、2022シーズンは基本的に1.2を超えているようです。

1-4 小結

ここまで、通年で2023シーズンの高橋奎二を概観しました。ストレート及びスライダーのスタッツは低下し、特に直球に関してはフライアウト(と長打)の増加につながっているように見えます。
また、スライダーは2022対右被打率.078と右打者に対して圧倒的なスタッツを叩き出しており、対右の大きなアドバンテージを失ったといえます。
そんな中、訪れた転機が2023年8月27日、マツダスタジアムで行われた広島との1戦でした

対角線投法~9月の高橋奎二

2-1 序章

8/27日、最終的には1勝11敗と負けに負けた鬼門、マツダスタジアム。
スワローズは5番に入ったサンタナのタイムリー2塁打で初回に2点を先制。その裏、マウンドに上がったのは先発・高橋奎二。2アウトランナーなしの状況から1安打2四死球で満塁とし、6番・坂倉に対してボールが先行。2-1のバッティングカウントからストレートを痛打され同点。
さらに堂林を四球で歩かせ、8番・末包に満塁弾を浴びて6失点
結局2回6失点で降板し、翌28日に登録抹消されています。

その時の投球分布がこちら。

高橋奎二2023 8/27広島戦投球分布(全球種/投手目線)

この日は55%がストレートと直球主体の組み立てでしたが、どの球種に関してもゾーンど真ん中を中心にバラついています。これ以前の投球を見ても、基本的には同じような投球分布ですね。

このシーズンワーストのゲームとなったわけですが、最短の10日で再登録となり、9/7の巨人戦に先発登板しました。その時の投球分布がこちら。

高橋奎二2023 9/7巨人戦投球分布(全球種/投手目線)

左投手から見た対角線、つまり右打者の内角、左打者の外角に投球を集めていることがわかります。これが「対角線投法」(と勝手に呼んでるもの)になります。一部右打者の外角に分布しているのはチェンジアップです。
よって、ストレート、カーブ、カットボールを全て対角線に集めているということですね。この試合以降、シーズン終了までを対角線投法の期間として分析対象としてます(厳密には10/4は違いますが)。実際、

高橋奎二2023 投球分布(全球種/投手目線)

9月中は打者左右、球種に関係なく対角線に集めていますね。9/26阪神戦については、チェンジアップも対角線に投じるシーンが何度かありました。
1試合なら偶然かもしれませんが、3試合連続となると何らかの意図をもって集めていると考えたほうがよいでしょう。

2-2 投球結果とスタッツ

高橋奎二2023 9月以降の投球結果

9月中は最低限試合を作れています。うち2試合はQSですし、9/26の阪神戦はもう1~2イニングは投げられたでしょう。
特に9/14と9/26の試合はともにストレート空振り率が10%に達しており、徐々にストレートの質が戻ってきている感じもあります。
10/4は吉村、E.ロッドの中継ぎテストがあったので、3イニングは予定通りでしょう。

高橋奎二2023 シーズンと9月の比較

シーズンスタッツと比較するとこんな感じ。
防御率はともに4点台ですが、被打率は.269→.211と大幅に下がっています。また、WHIPは0点台と非常に優秀。その理由として、被打率の低下に加えてもう一つ、四死球率が4.69→2.57と超改善していることがあります。
この四死球率2.57という数字は同じ9月の小川泰弘と同じで、おかげでK/BBも4.5まで上昇しています。
もちろん、いいことばかりではなく。特筆すべきは被本塁打。4試合で5被弾を喫し、9イニング辺り2被弾以上に悪化。奪三振率も8.32→7.71に低下。

結果が改善し、ストレートで空振りが取れていても、2022シーズンのようなピッチングに戻ったわけではないですね。
ここまで数字だけを追っている限りでは、「モデルチェンジ」という感じでしょうか。

2-3 9月スタッツ詳細

高橋奎二2023 詳細スタッツ

こちらが9月の詳細スタッツ。まず、ストレートの割合が58%と大幅に上昇しています。特に9/26のゲームではシーズン最高の66%を記録。良い悪いはともかく、かなりストレートに寄っています。
そのストレートですが、平均球速は146キロまで低下。空振り率は先ほどの10%超えの2試合のおかげで上がってはいますが、最終戦の0%をあわせると7%と微増止まり。この辺りは判断が難しいですね。
さらに、第1章でも言及しましたが、カーブの空振り率が前半戦5%→14%に大幅上昇しています。カットとチェンジは微減ですかね。

2-4 球種別被打率の比較

高橋奎二2023 球種別被打率(左:前半戦/右:9月以降)

球種別でみてもかなり改善していますね。カットボールの精度はそのままにカーブ、チェンジアップも軒並み改善。特にチェンジアップが機能しているのは大きいですね。空振り率は微減でしたが、ストライク率は38%に下がりボールゾーンを振らせにいくボールになっています。
また、割合を増やしたストレートも被打率が改善。このあたりは質と精度の問題だと思いますが、対角線集める意味はあったのかなと思います。

2-5 左右別被打率

高橋奎二2023 左右別被打率(左:前半戦/右:9月以降)

左右別被打率を前半戦と比較すると…別人ですかね。
9月以降は極端に対右被打率が改善し、対左の被打率が上昇前半戦比べて真逆になってます。ただ、単に右に強くなったわけではないようです。
対右は被打率.158、16奪三振で4HR、対左は.281、2奪三振で1HR。つまり対右は打たれにくいし三振も取れるけど被本塁打が多くかったといえます。
対右はストレート空振り率9%、カーブ、カット、チェンジともに空振り率15%ほどとかなりいいスタッツをあげています。

一方で対左は、

高橋奎二2023 9月以降の対左スタッツ

少し厳しめ。ストレートとカットがカウント球に見えますが、空振りは取れてないですね。チェンジアップの効果が限られるのもありますが、単純に、スタッツの低下もありますね。
変化としてはストレートの平均が対左前半戦147→145キロ、空振り率5→2%なのでモデルチェンジの弊害といえるかもしれません。また、ストレートの9月対左被打率.389は球速低下と関係しているように見えます。スライダーの有無はほとんど関係ないようにみえるので、この球種構成のまま改善したいですね。

2-6 打球の変化

高橋奎二2023 9月以降の打球方向

打球方向の図ですが、大事なのは左下のゴロ、フライ、ライナーの内訳。青がフライアウト、オレンジがゴロアウト、緑がライナーです。
これを見ると、フライアウト22、ゴロアウトが19とフライがゴロを上回っています。雑にGO/AOをだすと0.86。今年が自己集計1.14、去年が1.2以上であることを考えれば、フライアウトが大幅に増加しているといえます。

2-7 小結

ここまで、高橋奎二が9月以降に見せた「対角線投法」の詳細を見ていきました。ストレートは球速を犠牲に精度を上げ特に右打者に対しては去年ほどではないにしろ空振りが取れるようになっています。
また、カットボール、カーブも対角線に集めて効果を見せ特にカーブに関しては大幅な空振り率の上昇を達成。
一方でフライアウトが増加し、右打者に対して4登板21回で4被弾を許すなど被弾が増え、対左にも課題を残しました。
とはいえ、5被本塁打以外では、タイムリーがわずか1、他に犠飛1での2失点のみで、被打率・四死球率も大きく改善しました。
個人的には今後ずっとこれを続けていくとは思っていません。よって、この時期の限定的な修正・取り組みとして2024年に繋がると評価しています。
その理由が以下になります。

2024シーズンに向けて~通常モードへの遷移

長くなって予定外の3章目が…
さて、ここまで9月の対角線投法に焦点を当てて見ていきましたが、9/26及び10/4の阪神戦では、通常モードへの遷移とみられる配球もありました。
この2試合の投球分布がこちら。

高橋奎二2023 投球分布(全球種/投手目線)

9/26に関しては基本対角線に集めて多少逆側に。10/4は対角線に加えてその逆にも集まっています。
やはり、対角線への投球を長く続けるつもりではなく、調整や修正を目的として行っていたと考えられますね。では最後に、戻していく中でどのような成果があったのかを確認したいと思います。

9/26 阪神戦

まずは9/26の阪神戦。5回2安打2失点、4番大山に1被弾(2ラン)の内容。
例えばその大山との第一打席。

2023 9/26阪神戦 高橋奎二 対大山第一打席

初球カーブで入り、同様の対角線にストレートを2球。そして最後に解禁された外角147キロストレートで空振り三振。

例えばルーキー森下との第一打席。

2023 9/26阪神戦 高橋奎二 対森下第一打席

アウトローいっぱいから入り、一転してインコースギリギリに3球。最後は外角146キロストレートでショートフライ。
球速は出ていませんが、全球ストレートで抑えています。このような直球の「投げ分け」は前半戦には見られず、試行錯誤の結果といえると思います。

10/4 阪神戦

さらに10/4、再びの阪神戦。3回3安打3失点2被弾(大山、佐藤輝)と結果はそれほど良くありませんでした。
左打者との対戦だと近本に対する第二打席。

2023 10/4阪神戦 高橋奎二 対近本第二打席

対角線ストレート2球で追い込んで、同じく対角線へのカットボールを2球。最後は(同じような軌道から)カーブを投じて空振り三振。
この辺りは対角線の神髄でしょう。一打席ごとの内容は決して悪くなかったように見えました。例えば大山に打たれた第一打席のホームラン。

2023 10/4阪神戦 高橋奎二 対大山第一打席

初球外いっぱいのストレートでストライクをとり、2ボールからは対角へのチェンジアップ。5球目に対角のインハイカットを見せて最後はアウトローにチェンジアップ!
ムーチョもアウトローに構え…

はい。まあ見逃してくれませんよね。ただ、ちゃんと意図は見えました。
(その後の佐藤輝明に対する初球ソロ被弾は今季一番余計でしたが。)
そして第二打席。

2023 10/4阪神戦 高橋奎二 対大山第二打席

打たれたボールから入る安定のムーチョリードから、(甘いけど)対角カットでファウルを取って追い込む。カーブと対角/高めのストレートを見せて今度こそはアウトローにチェンジアップ
これは見極められましたが、そこからインローに対角カット。2023年最後のボールは最高の軌道で最高のコースに決まって見逃し三振。(公式Youtubeの最終戦ハイライトにあるので是非。)

いろんな試行錯誤の末の1球でした。前述のようにずっとこれをやるわけではなく、おそらく2022のようなパワーピッチングに戻していくと思いますが、投球の幅は広がったと思います。対角線が、困ったときに帰ってこれる場所になっていれば1年通して苦しんだ甲斐はあったのかな、と思いたい…

意図の思索

分かりません…
まあ難しいですね。本当は投球フォームを並べて議論したかったのですが、基本的に権利の関係上投球の画像は載せられないですし、投球動作の専門家でもないので詳しいことはプロにお任せしたいです。
その上で、予測できることを何点か。

この中では

軸足である左足への体重の乗り方に課題を感じ、練習から取り組んできた

ヤクルト・高橋奎二 結果を受け止めて/ラストスパートにかける
週刊ベースボールONLINE

との記述が。確かに乗りが甘く見える投球があったような、そうでもないような。対角線が一番体重を乗せやすかったりするんでしょうか。
それ以外だと、

  1. 体の開き(ステップ位置とか)

  2. リリースポイントと角度の調整

  3. 腕の振りと角度の調整

考えられるのはこのあたりでしょうか。2.に関しては、元々球持ちがいいはずなのでそれを調整したとかですかね。
3.に関して、腕の振りが横になってるというのも言われていましたがどうなんですかね。確かにカットボールのキレ、カーブの空振り率上昇などそれっぽいのはありますが、直接の数字ではないのでなんとも。
スライダーを一旦やめてるのも関係あるのでしょうか。

おわりに(次回予告)

ここまで、長文にお付き合いいただきありがとうございました。
ストレートとスライダーの質で苦しんだ2023シーズン、9月からは対角線に集めることで何とか立て直しましたが、2022の投球に戻ったわけではありませんでした。
対右ストレートと3つの変化球は大きく改善しましたが、代償となった対左ストレートと飛翔癖はそのままにシーズンは終わりました。
2024シーズン、前年とその9月を経てどのような投球をするか。個人的には(結果はどうあれ)本当に楽しみにしています。早く開幕しませんかね。

さて次回は…正直未定です。ネタがないわけじゃなくてやりたい事が多すぎるほうの意味で。小澤か、長岡の打撃か、小川中心にワンシームか、3つのどれかにはなると思います。

高橋奎二の話ですが、

これは本当に有難い。個人的には何か変わるといいなと思ってみてます。
あとはメジャー挑戦ですが、

目標にすること自体は悪いことじゃないかなと。あと2年山本や千賀並みの成績で投げるって宣言ですしね。
なんたって

人の夢は!!!終わらねェ!!!

マーシャル・D・ティーチ
漫画ワンピースより

ですからね。
改めまして、今年もよろしくお願いします!ではまた。

この記事が参加している募集

野球が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?