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猿若祭二月大歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒」

十八世中村勘三郎十三回忌追善 猿若祭二月大歌舞伎。その中から昼の部ラスト、十八世中村勘三郎が襲名披露でも演じた「籠釣瓶花街酔醒」を観劇。

今更、2月の記録を….とも思うが、個人の備忘録なので一応書いておく。


この兄弟を応援したい

内容に入る前に、今回の興行に臨むこのご兄弟のお姿・発言の数々に胸を打たれた。

勘九郎は、「父の十三回忌…あっという間でもあり、いなくなってしまってからもう13年も経ってしまうのか、という気持ちにもなります。祖父(十七世中村勘三郎)は父に、追善興行が出来る役者になってくれと言っていました。私たちも、父の追善興行ができることは本当にうれしいですし、生きていた頃は何一つ親孝行を出来ませんでしたが、少しは父に対して親孝行ができるのかなと、うれしく思っています」と、噛みしめるように語ります。

 歌舞伎座で出演する演目について、「『籠釣瓶花街酔醒』は、七之助といつかやりたいと思っていました。十三回忌に歌舞伎座で二人でこの作品が出来ることは、父も本当に喜んでいると思います。父、祖父だけではなく、先人たちが築き上げた『籠釣瓶』の1ページに入れること自体も幸せですし、汚さぬように勤めなければいけないなという思いでいっぱいです」と、喜びとともに気を引き締めます。

https://www.kabuki-bito.jp/news/8631

勘三郎の逝去からこれまでを振り返り、「大変でした。悔しい思いもたくさんしています。ですが父の残してくれたものと、周りの方たちのおかげでさまざまなチャレンジができましたし、父のことを本当に愛して、哲明さんの子どもたちのためだったらと共演してくださった方々への感謝でいっぱいです。今回の『籠釣瓶』でも(片岡)仁左衛門のおじ様が、“哲(のり)だから”と、栄之丞で出てくださいます。本当にありがたいことです。これからも父、祖父がやっていた演目を次々と手がけていきたいと思います」と、勘九郎が感謝と決意を語ります。

https://www.kabuki-bito.jp/news/8631


自分も昨年の1月に父を亡くしている。そして、男兄弟2人だ。重なる部分を感じるからか、彼らの発言・表情に見入ってしまう。

この動画は10年前のものだが、七之助が兄弟を代表して父への想いを語っている。すでに泣ける。

そして、こちらが今年の動画。何なんですかね、この2人の歌舞伎に対する純真さ・誠実さ、そして清潔感は。応援したいという気持ちがむくむくと湧き上がってくる。


こんな動画まで見つけてしまった。泣ける。


「籠釣瓶花街酔醒」あらすじ&ネタバレ

さて、肝心の「籠釣瓶花街酔醒」ですが…

上州佐野の絹商人、佐野次郎左衛門と下男の治六は、江戸で商いをした帰りに、話の種にと桜も美しい吉原へやってきます。初めて見る華やかな吉原の風情に驚き、念願の花魁道中も見ていよいよ帰ろうとするところへ、吉原一の花魁、八ツ橋の道中と遭遇します。この世のものとは思えないほど美しい八ツ橋に次郎左衛門は魂を奪われてしまいます。

それから半年、あばた顔の田舎者ながら人柄も気前も良い次郎左衛門は、江戸に来る度に八ツ橋のもとへ通い、遂には身請け話も出始めます。

しかし八ツ橋には繁山栄之丞という情夫がおり、身請け話に怒った栄之丞は次郎左衛門との縁切りを迫ります。それを知らない次郎左衛門は八ツ橋を身請けしようと同業の商人を連れて吉原へやってきますが、浮かぬ顔をした八ツ橋に突然愛想づかしをされ、恥をかきうちひしがれて帰っていきます

それから四ヶ月が過ぎ、次郎左衛門は再び吉原に現れ、わだかまりなく振舞いますが…。

https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/1747/

当世風に要約すると、田舎から出てきた男が、都会の店の女に一目惚れ。真面目に足繁く通っていい関係になるも、告げ口によって一番彼氏にその関係がバレてしまい、縁を切らねばならぬことに。女は別れたくない気持ちを隠しながら、しかし、田舎の男からすれば、「もう会いに来ないで」「最初から嫌いだった」とか結構酷いことを言われて一旦は田舎に帰るも、復讐に舞い戻るという話。

歌舞伎には、実際の事件を劇化した作品が多くあり、籠釣瓶花街酔醒もそのひとつ。江戸時代、享保年間に起こった野州の農民・佐野次郎左衛門が、江戸吉原の遊女をはじめ多くの人を殺傷した吉原百人斬りと呼ばれる事件がもととなっています。

https://www.touken-world.jp/tips/7283/

ここで使われる日本刀が、伊勢の名工村正(むらまさ)作の名刀「籠釣瓶」「籠釣瓶は、よく切れるなぁ」と感嘆の言葉を漏らす次郎左衛門の姿にゾクッとするクライマックス――。

https://www.touken-world.jp/tips/7283/


個人的な見所

1. 吉原のシステム

今まで深く考えてこなかったからか、興味深く見た。例えば、すっかり吉原に通い慣れた次郎左衛門が、恐らくは同郷の若い童貞2名を連れ立って女郎小屋に赴く場面。

玄関横の座敷に座って女将さんとお茶を飲み、世間話でもしながら、この若い男たちに良い女の子を付けてくださいとお願いをすると、一方で女将さんはその若い男たちを見ながら、それぞれに適切な女の子をアサインしていく。

吉原は現代で言えば風俗街なのだと思うが、写真で選ぶ現代のシステムとはずいぶんと違った形態で営まれ、もはや異なる文化とすら思える。

2. 佐野次郎左衛門

前半の田舎感丸出しで陽気な人柄、中盤の丁寧且つ熱を帯びた旦那、クライマックスにおける狂気の夜叉。佐野次郎左衛門は大きく3つの顔を見せることになる。勘三郎が愛した役柄と聞くが、たしかに目に浮かぶようだ。自分は生で勘三郎を見たことはないが、勘九郎は勘三郎が憑依したかのような演技だったのではないか。


補講

歌舞伎漫画「かぶく者」の2巻・3巻では、正にこの「籠釣瓶」が題材となっている。市坂新九郎、芳沢恋四郎、仲村宗太郎の演技合戦、かぶき合いが展開され、シリーズでも屈指の名エピソードとなっている。

※なぜ、途中で打ち切りになってしまったんだ…。
※孤高の女形・恋四郎は玉三郎そっくり。

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