デルフィニウム

さようなら。
なーんて。
結局まだあたしは生きてんだよな。

そんなもんなんだよな。きっと。
人生なんてさ。

死ぬ勇気すらねぇことなんてずっと知ってたんだよ。それでも最後くらいきれいなこと言って終わりたかったんだよ。

でもまだ泣いて酒飲んでちょっと笑って、この汚い部屋でまだ息してんだよ。

あたしの人生の光たちがまだ笑ってるから。 
まだ死ねねぇよって笑って電話をくれるから。
まだ。まだ。もうちょっと。

そうやって助けられてばっかりで、そうやって生きてきた。これまでも。多分これからも。
あたしが何を返せるかなんてわからない。
生きてるほうが迷惑かもしれない。
これから何度もくじけて、逃げて、泣いて、吐いて、便器に涙を落とすように生きてくんだろう。

でもさ、別にいいじゃんか。
この前まで死ぬってウジウジしてたあたしみたいな馬鹿がこれからの話ししたっていいじゃんか。
来週の予定なんか立てちゃって、新しい服を買おうとしちゃって、これから生きる方法を探し始めちゃったっていいじゃんかよ。

全然前向きになんてなれてない。
あたしのことを許せたわけでも生きたくなったわけでもない。
けど、なんとなくまだ死ななくていいかなって思った。それだけ。
でもそれだけで十分だ。
あたしが生きる理由なんてそれだけだ。

飯も食えないし、働けないし、綺麗でもない。
でも死ななくてもいい。
無理に生きなくてもいい。
迷惑かけたってたまにはいい。

だってさ、綺麗だと思ったんだもん。
一晩中鳴り響いた雷と天使が一斉に泣いたみたいな雨のあとの、キラキラに光る水溜りが、工事現場の鉄骨から垂れ落ちる雨粒が、濡れた排水口に残る昨日の嵐の足跡が、綺麗だったんだ。
あたしの中の夕日の記憶や、匂いや、光が、まだ残ってたんだ。
泣いた記憶より、涙流して笑った記憶が浮かんじゃったんだ。あたしの脳みそがまだ楽しんでたんだ。
だからまだ死んでやんない。
なんにも大丈夫じゃないけどあたしはまだこの人生やめてやんないよ。

どうにもなんないと思ってもなるから。
雨はいつか止む。朝もいつか来る。けどそんな綺麗事じゃなくて、世界が終わりそうな雷雨の夜に電話してくれたあなたがいて、勝手に死のうと思ってたあの夜にまた明日なってわらったあなたがいて、未来の話をあたしだけにしてくれるあんた達がいるから。
それじゃあ死ねないじゃんか。
大好きな人たちがさ、あたしが一緒にいる未来の話なんかしてくれちゃうんだぜ。
もったいないじゃん。
それ叶えなきゃ。
一緒にまだ笑えるのに、この目も耳も口も動かなくなったら、あの子達の目から悲しい雫が落ちたら、それはあたしの望みじゃない。
だからまだ笑ってやるよ。
笑いすぎて頭も腹もいたくなって、息ができなくなってそのまま窒息しちゃうくらい。
思いっきり笑って、そんでみんなが幸せになったら、やっと、死んでやる。
それまで待っといてよ。
あずきバーが美味しく感じるくらい生きてから、おじいちゃんに会いたくなったんだ。
ごめんね。
ありがとう。
本当にみんな大好きだよ。
まだ、ここにいるから、ここにいてね。

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