あんたもね

明けない夜はない。止まない雨もない。怪我だっていつかは治る。でも今あたしは傷ついている。
それがどうしようもなく痛くて辛くて悲しい。
捻挫した右足が歩くたびにズキズキと音を立てるように痛んで、喉の奥がぐっと詰まって涙が出そうになるのをこらえている。
働いて稼いで病気になって、つまんないことで散財してお金なくなっちゃったなんて惨めな生き方してる。
あたしはちゃんと可愛いし愛される価値がある。
あたしを好きじゃない人に割く時間なんてない。
胸を張って頑張ってるって言えるくらい努力して生きてきた。
だからこそあたしを一番にしない男なんかにあたしの心はくれてやらない。
全部別に嘘じゃない。
スタイルがいいね可愛いね綺麗だねって言われるように、ちゃんとして見えるように、それなりの努力はしてきた。
あたしは自分が好きだし大事だからあたしを大事にしない人はどうでもいい。
もし少し間違えてたら死んでいたかもしれないような崖っぷちにしがみついて生きてきた。
だけど。
誰にも愛されないのはあたしが誰も愛してないから。
それも分かってる。
どれだけ自分を認めて好きでいたって自信がないから全部さらけ出すのが怖くて距離を置いちゃうのは昔から変わってない。
寂しいし甘えたいと思うことは沢山ある。
誰かの大切な人でいられる人が羨ましい。
あたしもそうなれたらと思う。
ただ、決してあたしは不幸じゃない。
むしろとても幸せだと思う。
どれだけ殴られても死ななかった。
学校に行けなくても家を飛び出してもどれだけ遠くまで逃げてもまだ今あたしは死んでない。
それだけで勝ちだ。
ちゃんと会話することを諦めなかった。
全部は分かり合えなくても納得できなくても親も一人の人間だって理解はできた。
ちゃんとちょっとずつ成長してる。
お箸もちゃんと使えるようになった。
ご飯の食べ方や姿勢が綺麗だねって褒められることも増えて、横顔だけじゃなくて正面向いても笑顔でもブスなんて言われることはなくなった。
人見知りもしないし怒られることも減った。
軽いナンパなんてされなくなってちゃんと人として見てもらえることが増えた。
適当に扱われることもない。
それら全部成長だ。あたしの選択が間違ってなかったことの証明だ。努力してきたことがちゃんと実ってる証拠だ。
色欲と酒に溺れてる若い猿も常に眉間にシワを寄せて怒声を撒き散らす鬼も今のあたしの周りにはいない。
仕事熱心でいつも笑顔でちゃんと人を認めて褒められる素敵な人がたくさんいる。
類は友を呼ぶって本当だ。
あたしが成長すれば周りも成長する。
あたしが笑えば周りにも笑顔が増える。
だからずっと笑っていよう。
あたしのおかげで楽しく働けたんですって笑ってくれたあの子の長い長いラブレターはあたしがあの子にとって手本になる人であったことを十分すぎるくらいに伝えてくれた。
あたしはあの子になりたくて泣いたのにあの子はあたしが好きよって泣いたんだ。
だから大丈夫だ。
別に彼氏なんていなくたって男なんかに縋らなくたってあたしはきっともう誰かにとって大事な人になれてる。
特別じゃなくても大切な人のうちの一人になれてる。
あたしがいたから笑えた人がいるなら、あたしがいてよかったと思ってくれる人が一人でもいるなら、それだけでもう十分に生きてきた意味になる。
死ななくてよかったと思える。
これからも生きてやろうって意地になれる。
20歳の今だれかと笑った夜の数が16歳までに泣いた夜の数をもうとっくに超えちゃってるけど、これからは嬉し泣きの数も増やしていきたいな。
大切な誰かが愛する人と結ばれたとき、小さな命を授かったとき、あたしが本当に大事な人と生きていけるようになったとき、お得意の困ったような顔で笑って泣いちゃいたい。
もう泣いたって誰にも怒られないから。
殴られることも蹴られることもない。
不必要に謝ることもない。
今まで口にしたごめんなさいの何倍ものありがとうを音にして届けていこう。
だってこれはあたしの人生だ。
誰に縛られることもないあたしだけのものだ。
そして今あたしは生きてる。
どうあがいたって死ぬまで生きてんだ。
だから好きにやろうぜ。


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