1日目

3月16日
今日からここはあたしの日記帳になる。
いつまで続くかわからないけどとりあえず書いてみたら何か変わるかもしれない。
先週は酒を飲みすぎた。
立ちくらみが酷くて寝るのも起きるのも辛い。
飯を食わない日もある。
タバコの本数は増え続けてる。
彼氏は未だにいない。
そろそろ一年かしら。
ここへ来てから一度もブスだなんて言われなくなって可愛いね素敵だね好きだよってあまりにも沢山の人に褒められるもんだから本当に自分がモデルかなんかになったような気でいる。
この世のすべての人が自分に好意的だなんて勘違いをしそうになる。
そんなわけないのに。
嫌らしい目で見られて思わぬところでセクハラまがいのことをされたり無意識のところで女として消費されている。
それがどうにも気持ち悪い。
バーで声をかけてきた男があたしのお会計を払ってくれてたりタクシーの運賃を割引してもらったり。
別にそんなのいらないのに。
ちゃんとお金を払って普通に生活できるのに。
女ってだけで得をして、女ってだけで消費される。
それがいいのか悪いのかわからない。
美人だから仕方ないねなんて言われる。
仕方ないことなんてないのに。
他の人と同じように生きてるのに。
相変わらずうまい休み方を知らないから30時間も寝ずに働いたり酒を飲んだりしている。
仕事が終わってそのまま帰るのが何故かいつももったいなくて飲み屋に足が向かってる。
お金を払って笑顔で接客してもらうことで、そこに酒を媒介してもらうことで寂しさをごまかし続けている。
たまに女として特別扱いされることで承認欲求を満たして、でも誰かの一番になることはないまま、満足することはないまま息をしている。
この生活に終わりは来るのだろうか。
あたしを一番だという人はできるのだろうか。
あたしはアイドルじゃないからみんなのものとかでは全くなくて、みんなの一番ってわけでもない。
誰か一人に満たされて愛されるのならそれがいい。そのほうがきっと幸せだろう。
今でも十分すぎるくらい幸せで、こんなにもたくさんの人たちから愛されてることが昔のあたしだったら信じられないだろう。
今だってときどき泣きそうになる。
ここへ来てよかった。
誰にも傷つけられないことがなんて幸せなことか、骨身にしみて実感している。
ただ、まだあたしは見完全で昔からそんなに進歩もしていないから、自分が嫌で死にたくなることもある。
でもそうなったときに助けてくれる人がこんなにもいるのだから死にたくはならない。
それもまた幸せ。
飲み屋に行けば、街を歩けば知り合いに合う。
知らない人からあの子可愛いなんて言われて、あたしがいない場であたしの話を好意的に語る人たちがいる。
有名人でもないのに。
あの子いいねって言われたりする。
生きててよかった。
死なないでよかった。
死ぬ勇気がないあたしのままでよかった。
辛いことも泣きたいこともある。
でも、それでもやっぱり良かったと思う。
少しずつ嫌なことに怒れるようになった。
拒否しても大丈夫って思えてる。
ありがとうもごめんなさいも言える。
ご飯の食べ方がきれいねって褒められる。
美しくて強くてかっこいい女に少しなれた。
誰も今のあたしを否定しない。
このままでいいってちょっと思える。
ああ、幸せだ。
今の環境が、周りの人が、この人生が好きだ。
あの頃のあたしに幸せだよって言える。
不安もまだたくさんあるけど。
あたしならきっと大丈夫。
ひとりじゃない。
大丈夫。
今日も仕事頑張れ。
ちゃんと、生きろ。

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