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2人用フリー台本『満月をとりにいこう』

<はじめに>

ようこそ初めまして、鳴尾です。
こちら、以前ボイコネで投稿していたシナリオになります。

30分、2人用(男1、女1)フリー台本です。
演者様の性別は問いません。兼ね役も頑張れば可能です。
セリフは、多少であれば言いやすいように変えていただいて構いませんが、なるべくそのままだと嬉しいです。
お芝居としての趣味、商業利用、ご自由に使ってくださってください。
その際、鳴尾の名前添えていただけると嬉しいです。
無断転載や自作発言は悲しくなるのでやめていただけますと幸いです。

もし使用後にこちらのコメントかTwitter等で教えていただければ、できる範囲で聴きに行きたいと思いますので、よかったら教えてください。

<あらすじ>

幼い頃、とある約束をしたふたりは、いつしかすれ違い、片方は全てを忘れ、片方は思い焦がれてそれぞれの道を歩き出した。

ふたりの道が交わったとき、物語はまた動き出す。

<登場人物>

  • つぐたか

幼馴染の願いを叶えるために宇宙飛行士になった。
けれど大人になるにつれてその目的を忘れ、全てをつまらないと感じるようになってしまった。

  • みゆき

幼い頃、病気で入院していたが、克服して普通の学生生活を送れるようになる。
高校へ入り、テニスを始めた。
入院中、唯一お見舞いに来てくれていた幼馴染の少年に思いを寄せている。


『満月をとりにいこう』


みゆき:遅れてごめん。

つぐたか:誰にもバレてねえな。

みゆき:うん。

つぐたか:よし。

みゆき:それより、私に見せたいものって何?

つぐたか:あれだ。

みゆき:わあ、綺麗(きれい)。

つぐたか:だろ。ここから見る月は、この村でいちばんでかいんだ。

みゆき:お月さまってあんなに大きかったのね。

つぐたか:近くまで行ったらもっとでかいぞ。

みゆき:お月さまに触ってみたいなあ。

つぐたか:月に?

みゆき:…っゲホ、ゲホ!

つぐたか:みゆき!



みゆき:つぐたかくん、ごめんね。私のせいで怒られちゃった。

つぐたか:いや、俺が勝手に連れ出したんだ。お前は悪くない。

みゆき:ねえ、いま月は見える?

つぐたか:昼間だから見えない。

みゆき:見えるよ。ほら、あそこ。

つぐたか:あ。

みゆき:お月さまのキラキラは小さくて、おひさまに負けちゃうけど、おひさまがおやすみしてるときはおひさまのかわりにキラキラしてる。お月さまはいつ休んでるのかな。

つぐたか:月は休まなくてもずっと元気なのかもな。

みゆき:そっか。お月さまはすごいね。わたしもお月さまみたいになりたいな。

つぐたか:病気治ったらなれるよ。

みゆき:本当?じゃあ頑張らなくっちゃ。



つぐたか:来週さ、お前誕生日だろ。なんか欲しいもんあるか?

みゆき:気持ちだけで嬉しいよ。それにつぐたかくんが毎日来てくれるのが、私にとってのいちばんのプレゼントだから。

つぐたか:そっか。なんか思いついたら言えよ。

みゆき:うん。ありがとう。



つぐたか:みゆき!…寝てるのか。

みゆき:ん…。

つぐたか:みゆき?

みゆき:〈寝言〉欲しいなあ…。

つぐたか:何が欲しいんだ?

みゆき:〈寝言〉まんまるのきれいなお月さまが欲しい…。

つぐたか:月…。よし、まかせろ。俺が満月を取ってきてやる!

みゆき:ん…あれ?つぐたかくん、来てくれてたの?ごめんね寝ちゃってた。

つぐたか:しんどくないか?

みゆき:うん、元気だよ。

つぐたか:そっか。ならよし!

みゆき:?うん!



つぐたか:月ってどうやって手に入れるんだ?そもそも月ってどこにあるんだろう。

つぐたか:なあ母ちゃん、月ってどうやったら取ってこれる?

つぐたか:図書館?そっか。ありがと、母ちゃん!



つぐたか:宇宙に行かなきゃだめなのか。
つぐたか:宇宙飛行士…よし。



みゆき:つぐたかくん、昨日来なかったね。何かあったの?

つぐたか:みゆき、俺宇宙飛行士になる!

みゆき:急にどうしたの?

つぐたか:そんで、お前のために月をとってくる!

みゆき:へ?お月さまを?

つぐたか:ああ、だからそれまでは、これで我慢しててくれ。

みゆき:これ…。

つぐたか:誕生日プレゼント。ちょっと早いしちっちぇけどな。

みゆき:きれいなお月さま。ありがとう、つぐたかくん!

つぐたか:おう!



みゆき:久しぶり、つぐたかくん。

つぐたか:久しぶり。

みゆき:すごいね。県内でいちばん頭いい中学に合格しちゃうなんて。

つぐたか:周りが馬鹿だっただけだ。

みゆき:そんなことないよ。つぐたかくんの努力の結果だよ。

つぐたか:知らねえくせして偉そうに。

みゆき:え?

つぐたか:俺、寮(りょう)入るから。

みゆき:そう、なんだ。

つぐたか:じゃあな。

みゆき:また、会える?

つぐたか:…。


みゆき:つぐたかくん、変わっちゃったな。私の知ってるつぐたかくんじゃないみたい。
みゆき:素直にお祝いできないなんて、私最低だね。



みゆき:つぐたかくん、おばさんから聞いたよ、アメリカに留学したって。すごいね。村で初めての快挙だって、みんなでお祝いしたよ。みんなつぐたかくんを応援してるよ。私も、応援してる。
みゆき:ねえ、つぐたかくん。私、病気治ったよ。高校にも通えるようになったよ。
みゆき:でもね、胸が痛いの。まだ病気治ってないのかな。
みゆき:会いたいな。



みゆき:つぐたかくん、テレビ見たよ。最年少宇宙飛行士ってニュースでやってた。すごいね。村の誇りだよ。みんな村をあげてお祝いしてるよ。私もすごく嬉しい。つぐたかくんは、本当に宇宙飛行士になっちゃった。
みゆき:小学3年生のあの夏から、つぐたかくんは一度も振り返ることなく夢を叶えた。一度も村へ帰らずに、ずっと努力して。

みゆき:私ね、高校で始めたテニスでトロフィもらったんだよ。すごいでしょ。つぐたかくんに比べたらすごくないけど。

みゆき:月が遠いなあ。



つぐたか:つまらねえ。
つぐたか:どいつもこいつもクズばっか。なんでできないのか理解出来ない。一度見れば分かるだろ。

つぐたか:俺、なんで宇宙飛行士なんて目指そうと思ったんだろ。

つぐたか:つまらねえ。



みゆき:ねえ、ママ。つぐたかくんが帰ってきたって本当?
みゆき:…そうなんだ。会いたいなあ。
みゆき:教えてくれてありがとう、ママ。…うん。頑張る。…トロフィ持って帰るからね!…うん、じゃあね。

みゆき:早く試合が終わってすぐ帰ったら、つぐたかくんに会えるかな。



みゆき:ただいま、ママ!ねえ、つぐたかくんは?

みゆき:え、もう行っちゃったの?

みゆき:そっか、ロケットに乗るって言いに来ただけだったんだ。つぐたかくんすごいなあ。

みゆき:私?勝ったよ。当たり前!つぐたかくんに負けてられないもん。

みゆき:もうトロフィ置くところなくなってきちゃったね。


つぐたか:月って、なんにもないんだな。ゴツゴツしてて、ただの岩場じゃねえか。

つぐたか:やっぱつまんねえ。


つぐたか:なんだっけこの巾着(きんちゃく)。そういやおふくろが月に着いたら開けろって言ってたな。

つぐたか:ボロいな。

つぐたか:…月のレプリカ?馬鹿じゃないのか、月が光るわけがない。

つぐたか:これ、俺の絵か?黄色の月。馬鹿言え、ここに黄色なんてない。

つぐたか:それに…手紙。


つぐたか:「大人の俺へ。俺は小学3年生の俺だ。」

つぐたか:「大人の俺、満月はとってこれたか?」

つぐたか:「みゆきは病気治ったかな。あいつは強いから、絶対元気になる。」

つぐたか:「俺はあいつに、満月をとってくるって約束したんだ。」

つぐたか:「そのために今日から勉強を始めた。」

つぐたか:「正直めちゃくちゃ難しいけど、あいつの笑顔のためならがんばれる!」

つぐたか:「あいつの誕生日に、満月をやるんだ。」

つぐたか:「今はまだレプリカだけどな。」

つぐたか:「大人の俺ならとれるだろ!宇宙飛行士になって満月をとってこれるだろ!」

つぐたか:「あいつ、ほっとくとすぐ無茶するからさ、絶対目離しちゃだめだぜ。」


つぐたか:…ばかやろう。
つぐたか:なんだよ、これ…。月なんてでかくてとれねえよ。日本つぶれるっての。
つぐたか:しかも満月って…ばかだろ。

つぐたか:…うるせえ、ケビン。泣いてねえよ。誰からの手紙でもいいだろ。

つぐたか:世界一バカで、世界一 一途な男からの手紙だよ。


つぐたか:くそ…。なあ、ケビン。月の石、持って帰っていいか?

つぐたか:あいつの誕生日、いつだっけ。



つぐたか:ただいま、おふくろ。あいつは?

つぐたか:あいつだよ、みゆき。

つぐたか:え?いないのか?どこにいるんだ。

つぐたか:事故?

つぐたか:嘘だろ…。

つぐたか:車に、跳ねられた…?どこの病院だ!



つぐたか:知らなかった。俺は何も知らなかった。

つぐたか:あいつがテニス頑張ってることも、大会でトロフィ貰(もら)うくらい強かったことも、何も!

つぐたか:みゆき!!

みゆき:…。

つぐたか:同じだ…。そうだ、思い出した。俺、お前を笑顔にしたかったんだ。

つぐたか:変わらねえな。

つぐたか:…これ、何だ?新聞?

つぐたか:俺の記事だ。ロケットの…。

つぐたか:ビリビリじゃねえか。大事に持ってたのか。ずっと…。


つぐたか:クソ。


つぐたか:俺が月の石をちょっととったくらいじゃ、見た目なんて変わらねえのな。

つぐたか:でかい満月。確かに、ここから見りゃ黄色だ。

つぐたか:なあ、みゆき…俺、月とってきたぜ。

みゆき:それ、本当?

つぐたか:…っ?!みゆき、なんでここに、ってか、起きたのか。

みゆき:うん。つぐたかくんが来てくれたって聞いて、看護師さんに無理言ってここまで来ちゃった。

つぐたか:無茶するなあ。

みゆき:ねえ、それより本当?月をとってきたって。

つぐたか:ああ。つっても月の石だけどな。

みゆき:見せて。

つぐたか:ほら。

みゆき:わあ、すごい。やっぱり光ってないね。

つぐたか:まあな。

みゆき:昔は月が光ってるんだと思ってた。みんなを照らすためにずっとがんばっててすごいって。

つぐたか:お前がさ、寝言で言った、月が欲しいっての、俺はその言葉で宇宙を目指したんだ。ばかみたいだろ?

みゆき:私そんなこと言ってたんだ。なんか恥ずかしい。

つぐたか:その日のうちにおふくろに聞いて図書館に行って、月をとってくるにはどうしたらいいかって考えた。
つぐたか:時間はかかったけど、やっと渡せる。

みゆき:…?

つぐたか:誕生日おめでとう、みゆき。誕生日プレゼントだ。

みゆき:…っ!

つぐたか:だいぶ過ぎたけどな。

みゆき:嬉しい…ありがとう!

つぐたか:正直、ずっと忘れてた。宇宙飛行士を目指した理由も、月をとってくるって決めたことも。けど昔の俺の手紙を読んで、全部思い出した。なんで宇宙飛行士になりたいと思ったのかも、この気持ちも。

みゆき:つぐたかくん…。

つぐたか:俺、お前が好きだ。お前と一緒にいたい。お前のそばでお前の笑顔を見ていたい。

みゆき:私…私も、ずっとつぐたかくんのことが好きだった。
みゆき:でもだめ。私、つぐたかくんに迷惑かけちゃうから。

つぐたか:え…?

みゆき:私の足、動かないの。テニスは引退。これから先は、この車椅子が相棒。
みゆき:だからここでお別れだよ。私はこの月の石を家宝にしてひとりで暮らす。つぐたかくんは宇宙飛行士としてまだまだたくさん活躍して。

つぐたか:なんだよ、それ。

みゆき:帰るね。あんまり長いと、看護師さんが怒られちゃう。

つぐたか:待てよ!んな理由で諦めきれるかよ!
つぐたか:宇宙よりお前のほうが大事なんだ。活躍とかどうでもいい!俺は、お前がいい!

みゆき:…。

つぐたか:お前だって、俺のこと諦めきれてないくせに!

みゆき:そんなこと…。

つぐたか:お前が事故にあったの、俺の新聞記事を拾うために道路出たせいなんだろ。

みゆき:なんで、知って…。

つぐたか:そんな未練タラタラのくせして、お別れとか言うな。

みゆき:でも、それとこれとは…。

つぐたか:これ以上言うなら俺が勝手にお前のあとつけまわるからな!

みゆき:っぷ…ふふ。なにそれ。意味分かんない。

つぐたか:うるせえ、こちとら初恋拗らせてんだよ。

みゆき:そっか。そっかあ。
みゆき:ねえ、私細かいとこうるさいけどいい?

つぐたか:いい。

みゆき:いっぱいわがまま言うけどいい?

つぐたか:月が欲しいより上のわがまま言えるもんなら言ってみろ。

みゆき:それはわがままじゃないもん!つぐたかくんが勝手にやったんでしょ。

つぐたか:ああそうだよ、悪いか。

みゆき:悪くない。今日が人生でいちばんいい日。

つぐたか:俺もだ。

みゆき:また、テニスできるかな。

つぐたか:リハビリがんばろうぜ。

みゆき:うん!



みゆき:ねえ、もし将来誰でも簡単に月に行けるようになったらさ、今度は一緒に満月をとりにいこう?

つぐたか:そうだな、一緒に行こう。

みゆき:そのためには、頑張らないとね。

つぐたか:復帰したばっかなんだから無理すんなよ。

みゆき:大丈夫だよ。だってつぐたかくんがいるもん。それに、この子も。

こんにちは、自他共に認めるいかれポンチ鳴尾です。 いかがでしたか? あなたの期待に応えられるよう、これからも良い作品を書き続けますね。