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3人用フリー台本『裁きの館』

<はじめに>

ようこそ初めまして、鳴尾です。
こちら、以前ボイコネで投稿していたシナリオになります。

30分、3人用(男1、女2)フリー台本です。
演者様の性別は問いません。兼ね役も頑張れば可能です。
セリフは、多少であれば言いやすいように変えていただいて構いませんが、なるべくそのままだと嬉しいです。
お芝居としての趣味、商業利用、ご自由に使ってくださってください。
その際、鳴尾の名前添えていただけると嬉しいです。
無断転載や自作発言は悲しくなるのでやめていただけますと幸いです。

もし使用後にこちらのコメントかTwitter等で教えていただければ、できる範囲で聴きに行きたいと思いますので、よかったら教えてください。

<あらすじ>

探偵は依頼を受けて離島の屋敷へと向かった。屋敷には五年前に亡くなった資産家の養女がひとりで暮らしている。彼女は義理の姉と探偵の前で資産家の遺言書を見せた。

<登場人物>

  • アメリア

アメリア・ロゼリカ
五年前に亡くなった資産家の養女。ヘナの義妹。
ハーゲン家のひとり娘だったが、両親が亡くなってロゼリカ家の養女になった。

  • ヘナ

ヘナ・ロゼリカ。
五年前に亡くなった資産家の養女。アメリアの義姉。
バーガンディ家のひとり娘だったが、両親が亡くなって孤児院にいたときにロゼリカ家の養女として引き取られた。

  • フリッツ

フリッツ・ホーディ。
アメリアに雇われた探偵。父の死因を探るために探偵になった。


『裁きの館』


アメリア:おばあさまは生前、ご自分の死後にあるものをわたくしに譲るとおっしゃっていました。

フリッツ:あるものとは?

アメリア:わかりません。けれどおばあさまが亡くなったあと、弁護士が遺書だと言って…これをわたくしに。


ー手紙を出してフリッツに渡すアメリアー


フリッツ:これは…。

アメリア:満月に導かれし石像の中に、愛しのアメリアへのおくりものを。

アメリア:ランタンに導かれし石像の中に、卑しいヘナへのおくりものを。

アメリア:暗闇に導かれし石像の中に、優しいあなたへのおくりものを。

ヘナ:ちょっとアメリア!私が卑しいってどういうことよ。

アメリア:申し訳ありません、ヘナお姉様。わたくしは手紙を読んだだけです。

フリッツ:三番目の優しいあなた、というのは?

アメリア:わかりません。

ヘナ:気分が悪いわ。帰る。


ー立ちあがるヘナー


アメリア:申し訳ありませんが、帰ることはできません。

フリッツ:どういう意味です。

アメリア:ここへ来るときに使ったヘリが次に来るのは一週間後。それまでわたくしたちがここを出ることはできません。

ヘナ:ちょっと、聞いてないわよ、そんなこと!

アメリア:申し訳ありません。これはおばあさまの指示なのです。

ヘナ:おばあさまは死んだでしょう。勝手なことを言わないでちょうだい。

アメリア:正確には、弁護士から聞いた遺言の指示です。

フリッツ:僕が呼ばれたのも、遺言ですか?

アメリア:はい。不安ならば優秀な探偵をひとり雇え、と。

ヘナ:一週間も出られないなんて、最悪…。

フリッツ:…。

アメリア:フリッツさん、部屋の鍵をお渡しいたします。それから屋敷の地図も。

アメリア:こちらで一週間暮らしていただきますので、何か不便がありましたらおっしゃってください。


ーフリッツに鍵と地図を渡すアメリアー


フリッツ:チーズ?

アメリア:不思議な形の鍵でしょう。これはおばあさまの趣味なのです。

フリッツ:愉快なかただったのですね。

アメリア:はい。

ヘナ:…。

フリッツ:エイドリアナ・ロゼリカ。五年前に亡くなった有名な資産家。全財産は80億ドルと言われていた。

フリッツ:ロゼリカ氏に子どもはおらず、亡くなる五年前にふたりの娘を養子としてひきとっている。

フリッツ:ひとりはヘナ・バーガンディ。バーガンディカンパニーのひとり娘だがカンパニーは倒産し、両親は自殺。ヘナ嬢は一年ほど孤児院で暮らしたのち、ロゼリカ氏の養女になった。

フリッツ:もうひとりのアメリア嬢は…事前情報にはヒットしなかった。親も出生も不明。…。

ヘナ:ねえ。

フリッツ:ヘナ嬢?…どうしました?ここは僕の部屋のはずですが…。

ヘナ:あなた、私と手を組まない?

フリッツ:…。

ヘナ:私、前からアメリアのことが嫌いだったの。

ヘナ:おばあさまに贔屓されてこの家も財産も全部アメリアのもの。その上まだ何か貰おうだなんて…『愛しのアメリア』なんて言われていいご身分。

ヘナ:だから私が代わりに貰ってあげるの。アメリアへのおくりものをね。

フリッツ:僕に何をしろと?

ヘナ:アメリアより先にあの暗号を解いて。私に全てのおくりものをくれるなら、帰りのヘリにはあなたも乗せてあげる。アメリアは置いていくけど。ね、いいでしょう?

フリッツ:申し訳ありませんが、僕はアメリア・ロゼリカ嬢に依頼されてここにいます。ですからヘナ・ロゼリカ嬢のご期待には添えません。

フリッツ:失礼致します。

ヘナ:ちょっと!待ちなさいよ。

アメリア:謎は解けそうですか?探偵さん。

フリッツ:どうでしょう。

ヘナ:もうちょっとマシな料理はないのかしら。気分が悪いわ。

アメリア:シェフはおばあさまの生前から変わっておりません。

ヘナ:大体、どうしてあなたたちと一緒に食事をしなくちゃいけないの。

アメリア:おばあさまの遺言です。

ヘナ:またそれ…もういいわ。


ー立ち上がるヘナー


アメリア:お姉様。まだ食事が残っております。

ヘナ:食べたくないの。


ー部屋を出ていくヘナー


フリッツ:…。

アメリア:お口に合いませんか?

フリッツ:いえ、とても美味しいです。

アメリア:そう、よかった。

アメリア:…。

フリッツ:…?

アメリア:ヘリが次にここへ来る前の晩が満月です。お姉様はきっと満月の石像を探すでしょう。

フリッツ:でしょうね。

アメリア:わたくしはお姉様に、大切なおばあさまからのおくりものをみすみす渡すわけには行きません。

アメリア:あれはわたくしのものです。

フリッツ:アメリア嬢はおそらくおくりものが何かを知っている。

フリッツ:僕を呼んだのはヘナ嬢から身を守るための護衛が欲しかったからか…あるいは…。

フリッツ:優しいあなた…。

フリッツ:廊下に誰かいる…?

ヘナ:ねえ、どうして彼を呼んだの。どういう風の吹き回し?

アメリア:フリッツ探偵のことですか?謎を解くのに協力していただこうと思っただけです。

ヘナ:探偵なんていくらでもいるでしょう。なのにどうしてよりによって…。

アメリア:お姉様。…続きはわたくしかお姉様の部屋でいたしましょう。こんな場所では誰が聞き耳を立てているとも限りません。

フリッツ:(口を塞ぎ、息を止める)

ヘナ:…そうね。


ー去っていく足音ー


フリッツ:あのふたり、仲が悪いわけではないのか…。それにヘナ嬢は…いやおそらくアメリア嬢も、僕のことを知っている。誰でもいいわけではないんだ。


ヘナ:ねえ。

フリッツ:ヘナ嬢…?

ヘナ:あなた、どうしてこんな変な依頼を受けたの?

フリッツ:と言うと?

ヘナ:だって変でしょう?こんなところまできて、謎を解け、なんて。

フリッツ:そうでしょうか。

ヘナ:質問を変えるわ。あなたはアメリアから一週間帰れないことを聞いていたの?

フリッツ:いえ、謎が解けるまで、とだけ。

ヘナ:そう。

アメリア:おふたりとも、こちらにいらしたのですね。

フリッツ:アメリア嬢。どうかしましたか?

アメリア:いえ…ただ、ここへ来て三日経つので、何か進展があったかと。

フリッツ:すみません、まだ何も。

フリッツ:…アメリア嬢、この屋敷には地図にない部屋はありませんか?

アメリア:さあ、どうでしょう。心当たりはありません。

フリッツ:そうですか…ありがとうございます。…僕は部屋に戻ります。では。


ーアメリアとヘナに会釈してその場を去るフリッツー


ヘナ:へえ、言わないんだ。

アメリア:何のことでしょう。

ヘナ:最初に彼に渡した屋敷の地図には、おばあさまの隠し部屋も私たちの子ども部屋も描かれていないじゃない。

アメリア:あの部屋に像はありませんし、彼ならきっと気づいているでしょう。

ヘナ:そう…ねえ、アメリア。

アメリア:何ですか?

ヘナ:あなた、私のこと嫌い?

アメリア:いいえ、そのような感情はありません。

ヘナ:彼をここへ閉じ込めて、あなたは復讐がしたいの?そうでもなければこんな偶然…。

アメリア:そうですね。おばあさまの助言にあった探偵役に彼を選んだことに、少なからずわたくしの意思が含まれていたことは認めます。けれどそれだけです。探偵を雇うならば優秀なかたのほうがいいでしょう?

ヘナ:認めないつもりなのね。もういいわ。

アメリア:どこへ行かれるのですか。

ヘナ:どこだっていいでしょう。


ー去るヘナー


アメリア:…。


フリッツ:この屋敷には隠し部屋がある。それもひとつやふたつじゃない。地図に書かれた部屋に像はなかった。となると隠し部屋のどこかに像が…。

フリッツ:どうして満月なんだろう。新月でもない限り、月の光は平等に部屋に入る。この部屋だってそうだ。今だって鍵が月明かりに反射して…鍵?

フリッツ:そういえばこの屋敷の鍵は不思議な形をしている。

フリッツ:僕の部屋はチーズ。ヘナ嬢の部屋は羽ペン。アメリア嬢の部屋はヘビがあしらわれた鍵…。

フリッツ:鍵の保管庫は地図にあったな。行ってみよう。


フリッツ:やはり部屋の数より鍵のほうが多い。

フリッツ:鍵の上に番号が振られているのか。…ということはどこかに番号と照らし合わせる地図が…。

アメリア:ここにいらしたのですね、フリッツさん。

フリッツ:アメリア嬢?…ええ、どうかなさいましたか?

アメリア:夕食のご用意ができましたので探しておりました。冷めないうちにいらしてください。

フリッツ:わかりました。


ヘナ:ねえ、あなた。

フリッツ:ヘナ嬢…どうしたんですか?

ヘナ:鍵の部屋に入ったんでしょう?

フリッツ:ええ。

ヘナ:隠し部屋の地図は見つけたかしら。

フリッツ:…っ?!

ヘナ:何を驚いているの?保管庫にある鍵の半分は隠し部屋のものだって、気づいていなかったわけではないでしょう?

フリッツ:隠し部屋があるとは思っていましたが…そんなに多かったとは。ヘナ嬢も気づいていたのですね。

ヘナ:私、これでも八年はここで暮らしていたのよ。二年帰らなかったくらいで忘れたりなんかするものですか。

ヘナ:ついてらっしゃい。地図を見せてあげる。


ヘナ:この屋敷はおばあさまの趣味で全ての部屋に様々なモチーフがあしらわれた鍵が用意されてる。

ヘナ:鍵がどの部屋かわからなくなるのを防ぐために、おばあさまは鍵と部屋にそれぞれ番号をつけた。そして部屋の番号を書いた地図は…。


ースイッチを押すヘナー


ヘナ:天井に隠した。

フリッツ:天井の模様が変わった?

ヘナ:単純な仕掛けよ。スイッチひとつでパズルみたいにタイルの位置が変わるの。

フリッツ:すごい…。

ヘナ:それじゃ、私はもう行くわ。ここほこりっぽくて嫌いなの。

フリッツ:あの、どうして僕に助言を?

ヘナ:私、アメリアが嫌いなの。だからアメリアが嫌がることをする。それだけよ。

フリッツ:アメリア嬢は謎を解かれたがっていないと?

ヘナ:さあ、どうかしら?

フリッツ:解かれたくないのなら、どうして僕は呼ばれたんだ…?

アメリア:ヘナお姉様…お姉様が彼を助けるとは思いませんでした。

ヘナ:私が何をしたって別にいいでしょう?私の勝手だわ。

アメリア:そうですね。

ヘナ:あなたのそういうところが嫌いなのよ。

アメリア:申し訳ありません。

ヘナ:もう少し感情的になったっていいんじゃなくって?

ヘナ:おばあさまが死んだのはもう五年も前なのだから、いつまでもお人形さんでいるのはやめなさいよ。

アメリア:…。

ヘナ:あなたがそのままお人形さん続けたって、彼はおくりものを見つけるわ。

ヘナ:あなたにできるのは、邪魔しないように見てることだけ。

アメリア:…。

ヘナ:本当につまらない子。


フリッツ:満月に導かれし石像の中に、愛しのアメリアへのおくりものを。

フリッツ:ランタンに導かれし石像の中に、卑しいヘナへのおくりものを。

フリッツ:暗闇に導かれし石像の中に、優しいあなたへのおくりものを。

フリッツ:満月…月がモチーフの鍵はない。もちろんランタンも。やはり何かを例えた…。

フリッツ:そういえば隠し部屋の鍵は全て花がモチーフになっている。

フリッツ:満月にだけ咲く花といえば…月下美人。…ある。月下美人がモチーフの鍵。ランタン…リトルランタン…オダマキ?…ある。オダマキの花がモチーフの鍵。

フリッツ:でも…じゃあ暗闇は?黒い花ってだけなら薔薇もコスモスもパンジーも、黒がある。これじゃ絞れない。

フリッツ:そういえば…これ、何の花だ?枯れてる…のか?…暗闇じゃ花は育たんという皮肉でも込めたつもりか?急に雑だな。

フリッツ:でも他にそれらしいものはない…。とりあえずこの鍵の部屋に行ってみるか。

アメリア:どこへ行かれるのですか?

フリッツ:石像のある部屋へ。

アメリア:謎が解けたのですね。

フリッツ:まだ全てではありませんが…石像のありかくらいなら。

アメリア:そう…ですか。

フリッツ:この辺りのはずだが…やはり扉はない。ここは何度もきた。

フリッツ:そういえばあの部屋の天井はスイッチでタイルが動いた。もしかしたらこの辺りにスイッチが…。


ーカチリと音がして、扉が現れるー


フリッツ:トリガーはスイッチか。

アメリア:あ…。

フリッツ:アメリア嬢、部屋を開けても構いませんか?

アメリア:…。

フリッツ:アメリア嬢?

アメリア:…。

フリッツ:…?

ヘナ:怖気付いたの?アメリア。

フリッツ:ヘナ嬢!…どうしてここに?

ヘナ:そこが満月の部屋ね。

フリッツ:ええ、そうです。

ヘナ:ランタンの部屋も見つけてるんでしょう。先に案内してくれるかしら。

フリッツ:…?わかりました。

ヘナ:アメリア、覚悟を決めなさい。夢は終わるの。

フリッツ:それはどういう…?

ヘナ:さ、早く案内してちょうだい。

フリッツ:ええ…こちらです。

ヘナ:部屋を開けてくれるかしら。

フリッツ:もちろんです。


ー鍵を差し込むフリッツとそれをみるヘナー


ヘナ:相変わらず埃っぽい部屋ね。

フリッツ:…?部屋というよりは物置かタンスのような…石像しかない部屋…。

ヘナ:ああ、あった。いつ見ても質素な手紙だこと。…もう閉めていいわよ。

フリッツ:…?それがおくりもの…ですか?

ヘナ:ええ。卑しいヘナへのおくりものにはピッタリでしょう?

フリッツ:えっと…。

ヘナ:暗闇の部屋はこの隣よね?鍵、借りるわよ。あなたはアメリアの扉を開けてきなさい。

フリッツ:…。

ヘナ:アメリアへのおくりものを見つけ出して渡すのが依頼なのでしょう?早く行きなさいよ。

フリッツ:え、ええ…。

ヘナ:心配しなくとも、おくりものの中身くらい教えてあげるわ。


ー歩き出すヘナ、フリッツは諦めてアメリアのもとへー


フリッツ:アメリア嬢、部屋の扉を開けますね。

アメリア:…。


ー扉を開けるフリッツー


フリッツ:さっきと同じ部屋…。

アメリア:あ…いや…。

フリッツ:アメリア嬢?

アメリア:いや!!!!!


ー叫び、気を失うアメリアー


フリッツ:アメリア嬢?どうなさったんですか、アメリア嬢。…息はある、けど意識がない。アメリア嬢、アメリア嬢!しっかりしてください!

ヘナ:騒がしいわね。何があったの?

フリッツ:その…部屋の中を見た途端、叫んで倒れてしまって…。

ヘナ:そう、アメリアの部屋に運んでくれるかしら。私も後で行くわ。

フリッツ:わかりました。


ヘナ:アメリアの様子は?

フリッツ:眠っているようです。

ヘナ:そう。また耐えられなかったのね。かわいそうなアメリア。

フリッツ:どういう意味ですか。

ヘナ:あの遺言書、変だって思わなかったかしら。

フリッツ:変…とは?

ヘナ:満月に導かれし石像の中に、愛しのアメリアへのおくりものを。

ヘナ:ランタンに導かれし石像の中に、卑しいヘナへのおくりものを。

ヘナ:暗闇に導かれし石像の中に、優しいあなたへのおくりものを。

ヘナ:ひとつめの文、満月はこの月下美人の鍵の部屋。ふたつめの文、ランタンはオダマキの鍵の部屋。けれど暗闇の花なんてない。

フリッツ:それは…。

ヘナ:おばあさまはどうしてひとつだけ枯れた花の鍵を用意したのかしら。

ヘナ:答えは簡単。優しいあなたへのおくりものは存在しないの。

フリッツ:…え?

ヘナ:遺言書はアメリアによって歪(ゆが)められたの。

ヘナ:最初の二行は同じ。けれど三行目は、正しくはこう書かれていた。

ヘナ:何も知らない無垢なフリッツには真実を知る権利を。

フリッツ:どうして僕の名前が出てくるんですか。

ヘナ:私がおばあさまに引き取られる前の家を知っているかしら。

フリッツ:バーガンディカンパニーの…。

ヘナ:その通り。私のパパはバーガンディカンパニーの社長だった。

ヘナ:カンパニーはとある事件がきっかけで倒産したのだけれど…その理由はご存知かしら。

フリッツ:いえ…。

ヘナ:ひとりの社員が社に関する重大な機密データを流出させたの。

ヘナ:社員の名前はロイド・ハーゲン。ハーゲンは妻子を人質に取られ、社のデータをある人物に流した。

ヘナ:けれどカンパニーが倒産してパパとママが自殺したあと、ハーゲンもあとを追うようにこの世を去った。妻を連れてね。

ヘナ:残されたのはハーゲンのひとり娘のアメリア・ハーゲンただひとり。

フリッツ:っ?!…それって!

ヘナ:それがアメリアよ。この世でいちばん嫌いな一族の唯一の生き残りで、私の妹のアメリア・ロゼリカ。

ヘナ:おばあさまは全部知ってて私たちを養子にしたの。意地悪な人でしょう。

フリッツ:…。

ヘナ:おばあさまは死ぬ間際に遺書を残した。五年前、弁護士からそれを受け取った私たちはすぐに隠し部屋を見つけ出したわ。

フリッツ:え…。

ヘナ:当たり前でしょう?あんなもの、うちの鍵や部屋の仕組みを全て理解していれば暗号なんてなくたって解けるもの。

フリッツ:確かに…けど、ならどうして…?

ヘナ:アメリアの部屋も私の部屋も、入っていたのは手紙だけだったわ。

ヘナ:アメリアの手紙にはハーゲンがカンパニーにしたこと、その結果カンパニーと私のパパとママがどうなったか、それが事細かに書いてあった。自責の念に駆られたハーゲンの遺書も添えられていたわ。

ヘナ:アメリアはそれを読んで発狂して、さっきみたいに倒れたの。

ヘナ:そして目を覚ましたときには、アメリアは遺書に関する記憶を失っていた。それから何度試しても、同じことの繰り返し。嫌になるわ。

フリッツ:…。

ヘナ:何度も繰り返した私にも責任はあるけどね。

フリッツ:ヘナ嬢への手紙は…。

ヘナ:私の手紙に書かれていたのは、アメリアへの手紙と三行目について。

フリッツ:僕に関すること…ですか?

ヘナ:ハーゲンがデータを流出させた先は、サミュエル・ホーディ。

フリッツ:…父さん?

ヘナ:だからあなたには真実を知る権利がある。けれどそれは義務ではない。だから私は、あなたが知りたければ話すわ。

フリッツ:…。

ヘナ:知らないほうが幸せだとは思うけれど。

フリッツ:…教えてください。

ヘナ:分かったわ。

アメリア:…っ。

ヘナ:あら、起きたのね。おはよう、アメリア。

アメリア:ヘナ…お姉様。…と、どなた…ですか?

ヘナ:ちょうどいいわ。あなたも一緒に聞いてなさい。

アメリア:ヘナお姉様…?

ヘナ:バーガンディカンパニーの社員だったロイド・ハーゲンは十一年前、カンパニーのデータを当時フリーライターをしていたサミュエル・ホーディに渡した。

フリッツ:僕の父に…。

ヘナ:ホーディはそのデータを使ってカンパニーを倒産に追い込み、ハーゲンの借金を肩代わりした。

ヘナ:私の両親がカンパニーの倒産を苦に命を絶って、ハーゲンも命を絶って…結局ホーディも死んでしまった。

ヘナ:残されたのは私たち、何も知らない子どもだけ。

フリッツ:僕は父の不審死を探るために探偵になった。

ヘナ:ホーディはカンパニーの元社員たちに殺されたのよ。直接手を下した者、計画者、賛同者、協力者…リストが欲しければここにあるけれど。

フリッツ:いえ…結構です。父は善人ではなかったんですね。

ヘナ:そうね。少なくとも、私たちカンパニーにとっては。

アメリア:ねえ、ヘナお姉様…そのお話って…本当?

ヘナ:アメリア。あなたはいい加減に現実と向き合わなくてはいけない。夢は終わったの。

ヘナ:私たちは受け止めなくてはいけない。それぞれの親が犯した罪と。

アメリア:わ…たくし…は…。

ヘナ:とはいえ私、別に今不便をしているわけじゃないし、あなたたちだって、あくまで悪いのは親であってあなたたちじゃない。でしょう?

フリッツ:恨まないのですか?

ヘナ:逆恨みなんて、美しくないでしょう?

アメリア:お姉様は、わたくしのことが嫌いだと…。

ヘナ:ええ、嫌いよ。だっておばあさまの寵愛はずっとアメリアにあったんだもの。

ヘナ:遺言を見たらわかるでしょう?おばあさまは私のことを『卑しいヘナ』って書いたのよ?

アメリア:それは…お姉様がなんでも欲しがるから、おばあさまがしつけの意味も込めて…と。

ヘナ:どのみち悪口じゃないの。気分が悪いわ。私帰る。

フリッツ:え…でもヘリはまだ…。

ヘナ:どうせ今回も船を隠しているんでしょう。それじゃあね。二度と呼ばないでちょうだい。


ー部屋を出ていくヘナー


フリッツ:あの…大丈夫ですか?

アメリア:迷惑をかけてごめんなさい…。全て、思い出しました。…わたくし、優しかった父がそんなことをしていたなんて知らなくて…。認めたくなかった…父が、悪い人だって…。

フリッツ:僕も…です。

アメリア:お姉様、記憶を無くしたわたくしに合わせて、いつも初めて遺言書を見たときと同じ反応をしてくれていたんです。手紙を見つけるまでの流れもいつも同じ…。

フリッツ:それで…あんな反応を。

アメリア:…はい。

フリッツ:優しい人なんですね。

アメリア:はい、とても。

フリッツ:…ひとつ聞いてもいいですか?

アメリア:私が遺言書を書き換えたことですか?

フリッツ:…ええ。覚えて、いなかったんですよね?

アメリア:何も覚えていません。

アメリア:けれど、目を覚ましたときのお姉様の悲しそうなお顔だけは、脳裏に焼き付いて離れなくて…。気がついたら書き換えて、あなたを呼んでいました。

アメリア:きっと無意識でなんとかしようと思ったんでしょうね。

アメリア:けれどわたくしにはおばあさまのような上手な暗号文は作れませんでした。せっかく鍵まで新調しましたのに…。

フリッツ:あはは…(苦笑い)。

アメリア:改めて、この度は申し訳ありませんでした。

アメリア:あと数時間でヘリが来ますから、フリッツさんはそれでお帰りください。

フリッツ:アメリア嬢は…?

アメリア:わたくしはこのお屋敷で今まで通り暮らします。

アメリア:フリッツさん、このお屋敷がなんと呼ばれているかご存知ですか?

フリッツ:…?

アメリア:裁きの館、っていうんですって。ふふ、わたくしにぴったりでしょう?

こんにちは、自他共に認めるいかれポンチ鳴尾です。 いかがでしたか? あなたの期待に応えられるよう、これからも良い作品を書き続けますね。