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非日常は誰かにとっての日常

明らかに目の焦点が合わない人、手の震えが止まらない人、大声で看護師さんに怒鳴る人、赤子が這うより遅い足取りで歩く人、そしてナースステーションには長蛇の列。

今日は朝から体調が優れない人が多い印象を受けた。

足の巻き爪が伸びてきてとうとう足の指に刺さるようになってきた。痛い。
爪切りを借りようとナースステーションに向かって廊下を歩いている途中に知らない人に話しかけられた。

「お名前何というんですか」

「名月です」

これは差別に値するかもしれないがあまり関わりを持ちたくないので私は感情を込めずに質問に淡々と答えた。
そしていつもなら「あなたはどうですか?」と会話を膨らませるために質問を返すが早く話を終わらせて爪を切りたかったので会話をシャットアウトしようとした。

私に話しかけた人の名前をMさん(仮名)としよう。

この後もMさんからの質問は止まらず、私は話し続けることとなった。

「どっか座りますか?」

この時点で話はこれ以上続きそうと判断したため爪切りは諦めることにした。

話していた場所から少し遠いテーブルの椅子に腰掛けた。そしてMさんに年齢、誕生日、好きな動物、好きな映画、好きなアーティスト…とにかく根掘り葉掘り聞かれた。

あまりの質問の多さに圧倒され、こちらも何か話さないとまずいかと思い始めたので私は質問を返すようになった。

話している最中にわかったことがある。
彼女は難しい単語を理解できない。

子どもならまだしも同年代の人にわかるように言葉を噛み砕いて説明するのは相当な気力をつかう。30分以上話したが本当に疲れた。
腹黒いと思われるかもしれないがこれが本音だ。

「人は同じレベルの人としか一緒にいない」
どこかで見かけた言葉が頭をよぎった。
根拠はないが本当にそうなのかもしれない。

彼女は私と同い年で、なんと4年もここに入院しているらしい。ちょっと待て。4年間ってことは…(あえて伏せる)
彼女にとってはここで起きている非日常な風景が日常なんだろう。

今日の昼食は本当にこれが病院食か!?というほど濃い味付けがされた煮込み料理が出てきた。
いつもなら苦手な魚も残さずに食べるのにあまりのくどさに残してしまった(栄養士さん、調理師さん、作ってくれたのに本当にごめんなさい)

こうやって文章を書いていると、主治医が現れた。「名月さん、今、お話しいいですか?」
もしかして…!!!
その予感は当たった。なんと退院日が決まったのだ!

もう嬉しくてたまらなかった。
この先、何が起きても「ふん、私には関係ないからね。だって退院するから。」っていうマインドが備わった。

のこり3日。この奇妙な日常を楽しんでやろうじゃないか。

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