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次の10年では、「何者にもならなくていいSNS」が伸びると思う理由

2020年までのSNSは「何者かになれるSNS」でした。
これからの10年では「何者にもならなくていいSNS」が伸びると考えており、その点について思考を整理するメモを置いておきます。

まず、「何者かになれるSNS」における「何者」について説明します。

「何者」の例で一番わかり易いのはインフルエンサー、YouTuberといった、多くの人からネット上で人気や支持を獲得する職業です。
また、職業にはならなくても、現実世界の仕事では有名ではないけどTwitterなどでは数千、数万フォロワー持っているような方も含みます。

そういった「何者」にみんなの視線が集まり、憧れられる世界観がこの10年のTwitter、Instagram、Tiktok、Youtubeなどによって作られました。
フォロワー数、チャンネル登録者数、再生数などで優劣がついている世界観がこれらのサービス上では展開されており、それらが多いだけで、あたかも「何者か」になったような扱いをうけることができます。

もちろんこれらのSNSで人気になっている方たちは喋りが上手だったり、動画編集技術が優れていたり、可愛い猫を飼っていたり、なにかしら特長を持っているからこそ人気なわけです。

それでも、たとえばプロ野球選手や歌手、書道家などの技術を持っているから有名になった方たちとは違って、より「自分もこういう人になれるかも、なれたかもしれない」と思わせるような身近な存在である点が大きく異なると考えています。ましてや、Twitterで数千フォロワーを持っているようなアカウントならば、もっと身近な存在です。

僕は東海オンエアさんというYouTuberの動画をよく見ます。彼らがやっていることはネタ動画を毎日のように投稿しているだけです。僕がいま10年前にタイムスリップして、プロ野球選手かYouTuberのどちらかになれと言われたら、なんとなくYouTuberになるほうが簡単に思えるでしょう(もちろんそんなことはありません。どちらも相当大変なはずです)。

事実簡単かどうかではなく、自分もなれるかもしれないと思わせるような存在であることが大事なのです。

これまでのSNSは、とにかく閲覧数、滞在時間、取引額の増加などが収益に直結するため、そこで活躍するフォロワーの多いアカウントをどんどんフィーチャーしていきます。

なので、Twitterを使っているとフォロー数やフォロワー数を増やすことが推奨されるようにUI上で案内されることも多いですし、YouTubeは誰でも無料ですぐ配信者になることができます。

SNS運営側からすると、誰でもいいから誰かがこのサービス上でスターになってくれ、と言わんばかりの設計になっているわけです。

しかし、そういったフォロワーが増えることが正しい、どんどん自分の投稿を不特定多数に見られるようにしようというサービス側の動きが、炎上や、SNS疲れといった負の側面を生み出しています。

炎上はもちろん炎上させる側、した側も悪いかもしれませんが、一番はそういった動きを起こすことが広告収益につながるようにプラットフォームが設計されていることに問題があります。

自分は数千フォロワーなんて目指していない!という方にとっても、自分の投稿にリアクションがほしければ原則フォロワーを増やすしかありません。

このように、SNSから提供される価値を享受するにはフォロワーを増やすことが早い→フォロワーが増えると発信力が上がり何者かになったかのように錯覚する、という流れは意図的に設計されているといえるでしょう。

極端な例だと、「何者かになれる」ように見えることで危険なあこがれを持ってしまう事例も考えられます。

いまYouTuberとしてトップラインを走っている方たちは心底その仕事が好きで、動画配信に命を賭けれるような熱意を持っている方ばかりでしょうが、そういう気持ちでなくてもいきなりYouTuberを始められてしまうことで、これまで堅実に会社員を歩んでいたのにある日突然YouTuberを目指して会社をやめてしまい、失敗してしまうような例も中にはあるかもしれません。

僕の周囲にはこういった事例は見当たらないですが、近いことは多く起こっているのではないでしょうか。これも「何者かになれる」と見えるように設計されたSNSの負の側面です。

何者かになれるSNSがある事自体は否定しませんが、そろそろそれ以外のコンセプトのSNSも主流になるのかなと見込んでいます。
それが「何者にもならなくていいSNS」です。

僕が現状考えている「何者にもならなくていいSNS」に一番近い存在は「LINEオープンチャット」です。

オープンチャットは突然匿名でアカウントを作成でき、決まったテーマの部屋に入ってざっくばらんにやり取りができます。これまでは個人のアカウントベースでつながるSNSでしたが、オープンチャットのコンセプトは「テーマでつながる」という点が特徴的です。

そもそも、個人はいろいろな側面をもっています。仕事人としての側面、家庭での側面、趣味での側面などです。

これらの側面を各サービスで1アカウントで表現しようという世界観でSNSは構成されていました。Facebookではある個人のアカウントが仕事の話をしたと思えば翌週には結婚報告をして、次の日には趣味の話をすることができます。

他方、オープンチャットはテーマでのみ部屋が作られており、それぞれの投稿者がこれまでどんな部屋にいたアカウントか、などの情報は現れてきません。
このような体験が「何者にもならなくていいSNS」で実現されています。

いちいち自分はこういう者です、フォローしてくださいなどと言わなくても、まずは共通で興味を持っているテーマをベースにしてやり取りを行うところからスタートします。旧来のSNSは興味のあるアカウントを探してフォローしてからスタートだったのですからこれは全く違う体験です。

そういえば、Zoomは、旧来のビデオ通話ツールはまずアカウントを作って相互フォローになってから通話を始めるものだったのに対して、いきなりURLを送って話すことができるのが画期的なUXでした。

最近の企業の採用活動はZoomでカジュアル面談をして、意気投合したらSNSで相互フォローになります。体験が逆の順番になっているのです。
Meetyというサービスがまさにそういった体験を提供しています。テーマを掲げてマッチングするのです。
https://meety.net/

つまるところ、各個人がSNS上からつながりを増やすために頑張ってプロフィールを着飾って背伸びした投稿をしていたこれまでの体験が否定されており、各個人が興味を持っていたり強みのあるテーマに対応した「部屋」のようなものに入って交流するところから繋がりが起こるように変わってきているのです。

僕の趣味は将棋なのですが、これまでのSNS経由で将棋友だちを増やそうと思ったら、まずはTwitterで将棋アカウントをつくって、プロフィールを考えて、アバター画像を貼って、将棋のツイートを日々続けて、フォローバックしてくれそうな人をフォローして、リプライをして、仲良くなったら将棋に誘うみたいな手順を踏むのが普通でしょう。

しかし、オープンチャットのように、テーマでつながるように構成された仕組みがあれば、最初から将棋について話せる、指せる場がネット上に構築されていてそこからいきなり入れるようになり、同じような棋力の友人ができる世界観が考えられます。

オンラインで将棋が指せるサービスはいくつかありますが、町道場のように指したあとに会話したり繋がっていける仕組みまで構築しているサービスはまだ無いはずです。それはオンライン将棋はマッチングの仕組みやAIによるサポートに全力を割いていたからで、ユーザーのペインを将棋友だちがほしい、に言い換えたら全然別の仕組みが考えられると思います。

こういった仕組みが構築されれば、インターネット上で頑張って何者かになろうとしなくてよくなるはずです。


技術は螺旋状に進化します。ここまで説明した内容は10年以上前の2ちゃんねるといったSNSに先祖返りしているように見えるかもしれませんが、アフターコロナ、ビデオ通話技術の民主化、スマートフォンの進化、ネット環境の普及、XR技術の進歩などを加味すると、改めて「何者にもならなくていいSNS」が普及していくように思えてなりません。

とはいえ、「何者にもならなくていいSNS」はまだ考慮すべき点が多いです。マネタイズの手段、テーマの選定、トラブルの防止、UXの設計などです。

ひとつだけ言えるのは、既存のSNSのように、特定のアカウントに人気が集中することがサービスの収益に直結するように設計してはならないということです。あくまで、狙ったテーマに人が集まって、目的通りに会話したり楽しい場を作ることに注力することがサービスの収益につながるように設計されたビジネスモデル、プロダクトでなければなりません。

これからも考察を続けていこうと思います。

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