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「飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」 愛媛大学法文学部教授 小佐井 良太

日時:平成28年7月13日(水)10:30~11:30
場所:共済ホール(札幌市中央区北4条西1丁目1番地)
【司会】
 平成28年「飲酒運転根絶の日決起大会」の基調講演として、本日は、愛媛大学法文学部 准教授小佐井 良太(こさい・りょうた)様に「飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」と題しまして、ご講演をいただきます。
 簡単に小佐井様をご紹介させていただきます。
小佐井様は、専門は法社会学で法や裁判の役割と課題の検証に取り組む学問分野でいらっしゃいます。

飲酒運転問題への取り組みは、2006年以降、「飲酒運転問題と法」を研究実践してこられ、2012年の福岡県飲酒運転撲滅条例の制定やその後の同条例の見直しをはじめ、広島県議会での政策提言、さらにはオーストラリア・シドニー大学での在外研究を行うなど、地域での条例に基づく飲酒運転根絶施策をテーマに国内外で活躍されていらっしゃいます。

 また、本道との関わりも大変深く、2015年6月に小樽・砂川の飲酒運転事件に関わりNHK「クローズアップ現代」などに出演されていらっしゃいます。

昨年は本道で公開シンポジウムやフォーラムでのご講演等、飲酒運転根絶に向けた多くの提言や意見等をいただいているところでございます。
本日「飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」と題しましてご講演をいただきます。
 それでは、小佐井様、よろしくお願いいたします。
【小佐井准教授】
 ただ今ご紹介にあずかりました、愛媛大学の小佐井です。
 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、「飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」ということで、お話しをしたいと思います。
 本日の内容ですけれども、先ずはじめに簡単にいろいろとお話をさせていただきます。

 その後、飲酒運転の根絶ということについての基本的にどのように考えていけばいいのか、それから今求められているのは、「正に半歩踏み込んだ施策の検討」であろうという風に思いますので、幾つかそのことに関してご提言を含めてお話をしたいと思います。

 最後に「飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」ということで、簡単なまとめとさせていただきたいと思います。

 本日、飲酒運転根絶の日ということですけれども、2年前のちょうど今日ですね、7月13日、私はオーストラリアのシドニーにおりました。
事件の第一報、私の記憶に間違えがなければ、「その事件現場近くで心肺停止状態になっている女性が発見された。」というのが一報だったように思います。

シドニーにおりましたけれども、インターネットのニュースを通じてそれを見まして
 「もしやこれが飲酒運転によるひき逃げ事件でなければ良いのに」と思ったのですけれども、その悪い予感はその後的中してしまいました。

 これまで飲酒運転ひき逃げによる死亡事件が数多く起きておりまして、その時の状況から、あるいはそういうことなのではないか、ということが一瞬頭をよぎり、それが現実のものになったということを、非常に深く印象に残っております。

 まず最初に皆様にお願いしたいことがございます。
 このお話の趣旨と外れると思われるかもしれませんが、先ず一つ目ははじめに今皆さんにとって、あなたにとって大切な人、大切な人たちのお顔を思い浮かべていただきたいと思います。

 その次に、その大切な人、大切な人たちとの様々な楽しかった思い出、将来の夢や楽しみ、そしてまた、皆様ご自身の幸せな将来像、そういう皆様にとっての大切な人とともにある幸せな将来、ということを少しその場で思い浮かべていただきますでしょうか。

 今日は大変重いテーマのお話しですので、少し不謹慎に思われるかもしれないですけれど、その場で思わず顔がにやけてしまう、ほおが緩んでしまうくらい、楽しい思い出を、大切な人とのお顔を思い浮かべながら考えていただきたいと思います。

 私事で恐縮ですが、妻と娘を私は思い浮かべました。
 娘は小学校1年生、今年の4月から小学校1年生になりました。
 今バレェをやっているのですけれども小学校に上がる前に足首を捻挫しまして、この後バレェを続けられるのだろうか。と思った時期もありました。

 真ん中の写真はその娘にランドセルを買った時の写真ですけれども、これをからって一年生になるんだ、ということで、小柄なものですから、むしろランドセルの方が大きい、ランドセルにからわれてる様な状況ですけれども、そういったときの写真です。

 一番私から見て右手の写真が、小学校の入学式の際に取った写真で、「家の中で畳の上で靴を履いているとは何事か」という話なのですが、「新品の靴をおろして新品の服を着て、これから入学式に行く。」というような写真を並べてみました。

 私にとって大切な人、先ず第一には妻と娘の家族ですし、両親や様々な友人や恩師いろいろな方達がいますが、一番分かりやすいところで妻と娘の写真をあえてプライベートで恐縮ですがお見せいたしました。

 ここからは、講演にあるにもかかわらずですけれども、少しだけ、文字だけをこちらにお見せしますので、ご覧いただけますでしょうか。
 まずは、想像していただきたいということです。
 飲酒運転によってこれまで多くの人たちの命が失われてきています。
 
 いかがでしょうか。
 まあ講演にもかかわらず、無言ということになりましたけども、先ず今日この日に、こちらにお集まりの皆様は、もう重々ご承知のことかと思いますが、先ず今私たちが始めなければいけないことは、もし自分自身があるいは皆様にとっての大切人たちが飲酒運転の被害に遭うということが、あったらどうだろうか。

 そのことを想像すること、そしてそのことをとおして、飲酒運転の問題は決して、人ごとではない。
この問題に第三者はいない。

 これは1999年に飲酒運転の大型トラックによる追突事故で、娘さんを亡くされた 井上さんご夫妻の言葉ですけれども、そうしたことがあります。

 「この飲酒運転の問題は決して人ごとではない。この問題に第三者と呼べる人はいない」ということをまず、確認することからお話しをはじめさせていただきたいと思います。
 
 まずはじめにということで、飲酒運転事故の現状に関する簡単なおさらいということで、2点、全国的な状況とそれから北海道の状況。
本日こちらにお集まりの皆様は既にご存じのことかと思いますが、改めて確認をさせていただきたいと思います。

まず、全国的な状況をこの10年、15年、20年そのくらいのスパンで見て参りますと、飲酒運転による交通事故の件数というのは、こちらでは平成14年と書かれていますけれども、類似の飲酒運転の厳罰化、法律の改正が行われ、飲酒運転の根絶に対する社会的な機運が高まる。

そういったことによって、一方で大幅に減少してきた、だけれども、平成20年以降、この7~8年ですけれども、その減少幅が縮小して下げ止まり傾向にある、ということが、これは警察庁の作成した資料の中で説明されています。

一方北海道の状況については、皆様ご承知のように、このところですね全国のワースト上位を争うような危機的な状況にあるということがございます。

小樽の事件が起きましたのが2014年ですけれども、死者数・死亡事故件数が都道府県別で見て、ワースト1位になり、あるいは、全体の交通事故に占める飲酒運転事故の割合、これが事故率ですけれども、それも都道府県の中でワースト2位という、危機的な状況にあることが確認出来ます。

これをグラフでお示しをしますと、こういう状況です。
大幅に減少していうのはこのグラフになります。
上が飲酒事故件数、下が死亡事故件数ですけれども、かつて、平成2年~平成13年頃まで、1990年代と考えていただきたいのですが、毎年ですね、飲酒運転による死亡事故件数は、1,200件~1,500件、今から考えると考えられないほど多い事故の件数がありました。

単純に1,200件という風に考えますと、月平均100件起きていた全国各地でということになるわけですね。
これは、100件ですから、1件で沢山の人が亡くなるということになると、死者数はもっと増えるということになります。

厳罰化・法改正等を様々な施策がうたれたことのよって、死亡事故は減少、大幅に減少し、飲酒運転事故は大幅に減少し、死亡事故も減少している。
しかし、近年このあたりで減少幅が縮小し下げ止まり傾向にあるということが見て取れるかと思います。

いずれにしても全国的に見ますと、飲酒事故件数・飲酒死亡事故件数ともに平成12年、これが2,000年ということになりますけれども、それの時点で考えますと、26,200件あった事故件数が、一番新しい数字で3,864件、死亡事故で見ましても、1,276件が、203件という形で、いずれも6分の1あるいはそれ以下の程度にまで減少しているということが見て取れます。

しかし、過去18年間の死亡事故件数を累積しますと、11,319件、1万人を超える方達が飲酒運転の事故により亡くなってきたということです。
下の方には、北海道、これは北海道警のウェブサイトで公開されていますデータをそのままお借りしてきましたけれども、過去5年間の飲酒を伴う交通事故の実態ということで表の形でお示ししております。

ざっと見て、飲酒死亡事故件数が過去5年間で70件、年平均14件の死亡事故が起きているということです。
死者数ですね14人の方が亡くなられているということで、これは全国的に見てもワーストに近い状況にあるという風に言えるかと思います。

 ここからは飲酒運転の根絶に関する考え方ということで、お話しをしたいと思います。

 そもそもこれだけ、社会的な状況として飲酒運転は絶対にダメだと言われていて、多くの人がそれを理解している中で、なぜ飲酒運転の事故が無くならないのか。

 逆に言えば、こういう状況の中で、「飲酒運転の違反をしてしまう人たちは、どういう人たちなのか」ということを、三つのグループに分けて考えてみたいと思います。

 一つは、アルコールに対する正しい知識に欠けている。

 要するにどの位のお酒を飲んで、どの位の時間が経ったら体から抜けるのか。例えば、仮眠を取ったらアルコールは抜けるのか。
 いや、むしろそれは遅くなる。

 例えば、ビール500mlのビールを1本飲んだとして、体からアルコールが抜けるのに何時間かかるのか。
そういった知識を持たないが為に「少し休んだから良いだろう」あるいは「仮眠を取ったから大丈夫だ」ということで運転をしてしまう。

あるいは「場所が近いから」、「自分は運転に自信があるから」そのようなことで「まぁー1杯位だったら大丈夫だろう」、アルコールが車の運転に及ぼす影響を軽視してしまう。
こういった方達がいると思います。数としては、このグループの方が一番多いかと思います。

そして二番目には、アルコールの問題を抱えている当事者の方達の存在です。

いわゆる、アルコール依存症ないしは、その予備軍とされている方達。
そこには、多量飲酒等のいわゆる問題飲酒と言われる行動を抱えている人たち、そう判断される違反者軍があると思います。

ある調査では、飲酒運転で検挙された人の4割ないし5割程度、こういった人たちが占めているということが言われています。

この方達にとっては、病気ですから、その影響によってお酒をコントロール出来ない、運転を拒むということが出来ない。ということがありますのでそういった問題があるということですね。

こういった方達に対しては、いくら罰則を強化してもその背景にある問題が改善しない限り、その行動を変えることが出来ない、難しいということがあります。

そして三つ目は、飲酒運転に限らず交通ルール・交通法規を中心にですね、法やルールそういったものを遵守する、守ろうという意識が欠けている、あるいは著しく希薄だと判断されるグループの人たちがいます。

これはいろんなところで、裁判傍聴を行っておりますと、この第三のグループに属する様な人たちが出てきます。

重大な事件の当事者の方達と言うのは、その時初めて重大な事故を起こしているわけではなくて、前科・前歴があるケースが多いですし、違反を繰り返している方もいらっしゃいます。

おおよそこういう風に三つの累計に分けられるとしますと、それぞれの方達に対するアプローチいうことが、必要になってくるだろう。というのが基本的な考え方のまず最初になります。

その上で、ではどのような対策をとるかということで、基本対策三箇条と呼んでおりますが、三つの点が上げられます。

まず、アルコールに関する知識が十分でないということであるとするならば、何よりもそうした正しい知識を普及・浸透させていくこと、そのことによって知識が欠けているから飲酒運転をしてしまう、あるいは自覚が無くて飲酒運転をしてしまう方達にとってはこの点が一番大きいと思います。

それから、先ほどアルコール問題の当事者の方達に対しては、医学的に治療的なアプローチを施していくこと、背景にあるアルコール問題の改善を図っていくことが何よりも大事ということになります。

 そして三番目の方達にとっては、何よりもそういうルールを守る規範の意識、モラルの慣用と浸透ということが大事になってこようかと思います。

 これを踏まえて、さらに基本的な考え方を3点ほど述べますと一つは飲酒運転をした違反をした当事者を個人として処罰するのではなくて、飲酒運転はまさに社会問題として対処していくということが重要であろうかと思います。

 また、これまで法の下での罰則等が強化されてまいりましたけれども、それは事件や事故が起きた後の事後的な処罰になるわけです。

 事が起きてからの対処、そうではなくてこれからの飲酒運転の防止ということを考えていく上では、未然の防止いかにして事故や事件の起きる前に予防していくのか、防いでいくのか、その方向へのシフトとういうことが重要であろうと思います。

 そして、その為には三番目になりますけれども、啓発も含めてですけれども、様々な実効的な、総合的な、多角的な施策・取組を組み合わせていくことが必要であろうということです。

 飲酒運転の問題については特効薬があるわけではありません。
 様々な努力をまさに地道に重ねていくこと、そのことが大事であろうということです。

 そうしますと、飲酒運転根絶施策の目指すべき基本的方向性というのは、違反者やその周囲にいる人たち、お酒を提供する人、車を貸す人、あるいは同乗する人も含めてですけれども、そういった方たちに対する、さらに処罰を強化するということではなくて。
 むしろ、「飲酒運転をしない、させない、許さない」そういった地域的な環境を、処罰によらない形でいかに政策的に実現していくのか、ということが重要になってこようかと思います。

 さらなる処罰の強化は適当でないという風に書いていますけれども、しかし一方で適正な処罰は、もちろん必要です。

 今も飲酒運転で重大な事件や事故が起きた時の刑事処罰を含めた処罰の在り方というのは、必ずしも順調にいっているわけではないという面もあるかと思います。

 様々なそれ自体も問題をはらんでいる、周辺者の処罰についても、必ずしもお酒を提供した人、車両を提供した人がきちんと適正な処分を受けているかどうか、いろんな課題を残しているということがあります。

 一方で、適正な処分・処罰をということを行いつつ、しかしこういった政策的な実現が必要であろうということです。
 その意味では昨年12月に北海道では条例を制定されました。
 その基本的な理念はまさにここだ!ということですね。

 飲酒運転を根絶するために、それぞれのお立場、住民の方、飲食店、事業者や企業の方、酒類販売業者、駐車場の所有者の方、タクシー事業者、運転代行業者、様々なお立場で、それぞれ地域で果たすべき役割や責務ということを明確にしていく、そのうえで必要な具体的な・実効的な支援の策を地域の政策として整備していくこと。

 このことが条例の下で期待されているのだろうという風に思います。

 半歩踏み込んだ施策ということですけれども、なぜそれが必要であるのかということですけれども、飲酒運転の根絶は特に今日会場にお集まりの皆様方を中心にこれまで本当に様々な方たちの努力・熱意によって啓発がなされてきたところですけど、それでも根絶に至らない難しい壁があります。

 これまでのスローガン的な啓発ということを繰り返すということだけではなく、その限界を見据えた対策とういうことが一方で求められるだろうと思います。

 その場合に、もう一つはやはりそれぞれ関係の機関、部署ごとにうまく連携をされてやられればいいのですけれども、地域によってはですね、それぞれの部署、機関ごとにばらばらにやられていて、必ずしも連携がなされていないといったことも見受けられます。

 そうではない形で、半歩踏み込んだ施策としていくつか、教育に関する問題、警察に期待される役割、公安委員会に期待される連携と取組、飲食店や交通手段の確保、職場・事業者あるいは連携の在り方ということで簡単にご説明をしたいと思います。

 まず教育的な施策という意味ではモラルを慣用すること、それから正しい知識ということなんですけど、二本柱をこちらに書いてございますように、一つはアルコールに関する知識の普及その為の教育、そしてもう一つは交通教育。この二本柱ということになろうかと思います。

 その教育を行う現場も大きく二つあると思います。

 一つは、学校教育の現場で対象になるのは子供たちだとお考えください。
 小学生であっても、中学生・高校生それぞれの発達段階に応じてですね、お酒に関する教育、あるいは交通教育、そういったことが必要であるという風にいえるかと思います。

 「小さいうちには、お酒なんて飲まないから、お酒に関する知識は必要ないじゃないか」。
 「運転免許は、高校生以上になってからだから、そこからでいいじゃないかということではなし」にですね、子供たちの小学生には小学生に、あるいは幼稚園児には幼稚園児にわかるような形での教育を行っていくことが必要であろうかという風に思います。

 もう一つの教育の現場というのは、職場や地域ということになるかと思います。

 職場単位で、あるいは地域単位でですね、アルコールに対する知識の普及を啓発を図っていく、また交通教育を行っていく、これは福岡県の条例の下では飲酒運転撲滅活動アドバイザー派遣制度という制度が条例の中に盛り込まれています。

 それぞれの職場や地域等でですね、そういうアルコール教育や交通教育の機会を持ちたいという時に、県に申請をすれば、アドバイザーを派遣していただく。
 その場合の謝礼と交通費は、県のほうから予算を負担する。といったような取組がなされています。

 北海道でも、命の教育、あるいはスローライフの教育等、様々な形でですね、道、あるいは、道警、あるいは、教育委員会、あるいはその被害者の会の方達のご尽力によってなされていると思います。

 すでになされているものと、この飲酒運転の根絶との施策として、活用していく、連携していくということが必要であろうかという風に思います。

 また、警察の方に期待される連携と取組としては、一つには、これは北海道警さんのほうでは比較的他の都道府県警と比べるとデータを公開されているかと思いますが、やはり、飲酒運転事故に関する統計データを公開し、積極的に活用していくということがあるかと思います。

 北海道のやはり地域的な特性、地理的、気候的な要因、そういったものを踏まえて、事故がどういう形で発生しているのか。
 分析と対策の立案ということがあろうかと思います。

 また、飲酒検問の在り方と効果ということに関しては、京都府警が、先ごろ専従捜査班を設置して、効果を上げているということが言われています。

 あの、多くのところでですね、取り締まりや検問というのは、あそこで取り締まりをやっている、検問をやっているということが例えば、Twitterそういったもので情報共有され、みんながその網の目をすり抜けてしまう。こういったことが指摘をされています。

 そうするといつ、どこで、どういう形で捜査が行われているかわからない、そういった取締りが行われているかもわからない状況を作っていくことが重要かという風に思います。

 常習的な違反者がいます。そういった方たちを確実に検挙に結びつけていく、その実績とそのことが周知されていく・認知されていくことによって常習の違反者の人たちが「このまま違反を繰り返していたら確実に検挙されるな!」そのことを認知するということ、そのことが最大の抑止効果に繋がると思います。

 北海道警察さんのほうで、飲酒運転ゼロボックスを新たに設けられた、ということですけれども、そういったものを活用されて、やっていくということが重要かという風に思います。

 常習的な違反者の方たちというのはですね、自分は捕まらない、自分は事故を起こさない、無根拠な自信を持たれていることが多いといいます。
 その無根拠な自信を、確実な検挙によって、確実に打ち砕いていく、そのことが必要であろうという風に思います。

 また、公安委員会に期待される連携と取組ということですけれども、一つは条例の下でもアルコールの専門医療機関との連携で、アルコールの問題を抱える当事者の方の医療的な介入・相談ということですけれども、そういったところにですね、公安委員会が持っている検挙者の情報を提供することで活用していくということが一つはあるとだろうと思います。

 また、取消処分者教習はこの3年ほどの間に内容が見直され、厳しくなったところですけれども、それについても、なお一層の充実いうことが、特にその治療機会を充実・拡充するということ、それから違反者の方のなによりも再犯防止ですね、飲酒運転は再犯率が高い犯罪です。

 そうしますと一度検挙された人たちが、その後にまた飲酒運転を繰り返して重大な事件を引き起こすということが、過去に何度も起きています。
 検挙された人たちのその認識や行動を確実に変えていく。
 そのための再犯防止プログラムとういことの整備が求められるかと思います。

 また、その講習の場で、被害者の遺族の方やアルコール依存症の回復者の方、あるいは違反を経験された方、様々な立場の講演を聴く機会こういったものも積極的に設けられると良いのではないかと思います。

 また、飲食店の取組と交通手段の確保ということで、二点ですけれども、一つはこれは実際に道東地域のほうで、釧路の方と伺っていますけれども、飲食店と郊外型の飲食店と代行運転業者の共存共栄型の連携ということが有用であるということが報告されています。

 それぞれの地域の実情に応じてですね、いかにその代替交通手段を確保するのか、飲酒運転は飲酒と運転を切り離すことで防止が可能な犯罪ですから、その運転のところを代替的な交通手段でいかにフォローしていくのか。
 このことが重要になってくるかと思います。

 都市部で、その交通手段の確保という意味では比較的恵まれているわけですけれども、飲食店の業界の皆様に求めたいことはやはり横の連携、皆様が足並みを揃えて取り組んでいくこと、その場合に警察の方から、福岡の条例でも、指示・指導ということが条例の中に盛り込まれています。

 飲食店から、酒類提供行為がなされた時にですね、実質的な改善指導・指示ということを促す体制が作られる。その必要があるかと思います。

 いずれにしましても、飲食店と交通事業者、道警の皆様が連携して、飲食店業界から、実質的な取り組みを促していくこと、そしてその取り組みを支援していくということ。そうした体制の構築が必要であろうという風に思います。

 また職場・事業所における取組の徹底・拡充ということですけれども、一つは、職場・事業所単位でアルコールに関する知識・教育の普及と徹底。

 健康診断の機会等がございますので、そうしたところでですね、アルコール問題を抱える当事者の方、潜在的な当事者の方への、飲酒運転の未然防止を図っていくということがあります。

 ただ、この場合ちょっと注意しなければいけないのは、そうした問題を抱える当事者を組織から切り捨てる、排除するということではなくて、あくまでその治療、あるいは、改善ということにつなげていくということが重要であろうという風に思います。

 また、職場・組織の問題では、公務員の組織、行政、警察、教育、そこが一番人数、地域におけるプレゼンス・規模としてもですね、一番大きな組織ということがいえるかと思います。

 北海道でも、残念ながら違反者が出て、その度に綱紀粛正ということが言われていると思います。

 しかし、それが不祥事対応という形に終わってはいけないという風に思います。合理的な防止対策、講習ということを徹底することが必要であるかと思います。

 その意味で一つの一例としてそちらに挙げていますのは、職場の一定の部署や係、そういったところで、一定の規模・人数に応じて、例えば30人の規模で1人という様な形で決めて、担当者を作る。

その担当者には、例えばNPO法人で飲酒運転防止インストラクターという様な講座を開設し、その講師を養成しているということがございます。
そういった資格の取得を奨励する、支援するということも考えられるかと思います。

 そういった担当者を中心に職場や部署単位で飲酒運転を未然に防ぐための、基礎的な知識を共有、定着する。
これは一回だけではなくて、定期的に何度も何度も繰り返す必要があるかと思います。

そういう職場のみんなで集まって、飲酒運転の問題について知識を共有し、確認しお互いに飲酒運転をしない雰囲気を作っていく、そうした地道な取り組みを、徹底させること、それは、職場の中で例えば様々な懇親会・歓送迎会等を行う際の運転手段の確保についての確認も含めてですね、対策を徹底することが必要であろうかと思います。

組織・機関の垣根を越えた真の連携ということでは簡単に申し上げますけれども、様々な組織や機関が共同してとなりますとどうしても、日本は縦割りの組織ということですので、組織間の壁、そういったものの克服ということが非常に重要な問題になってくるかと思います。

どこが所管している問題か。ということではなくて、この問題に対してどう取り組むのかという問題ベースの連携ということが必要であろうという風に思います。

また、その施策取組の現状の検証改善を条例の下でも図っていくということだと思いますが、その前にですね幅広い意見を集約することが求められると思います。

その為の場には、業界の利害関係の方だけではなくてですね、被害者の遺族の方、あるいは、アルコール依存症の回復者の方やその治療に携わっている専門の医療機関の方、また、更生支援の関係者、犯罪を犯した人の更生支援ということですけれども、保護観察所の担当者の方だとかですね、そういった方たちも加わる様な形での場が必要ではないかという風に思っています。

組織の事情・利害ということにとらわれない対策が今、求められているかと思います。

最後に、「北海道での飲酒運転死傷ゼロの実現に向けて」ということで簡単にまとめとさせていただきたいと思います。

北海道は、ご承知のように車社会です。
車を適切に使用するということが、だからこそ求められている、という風に私は思います。

それは、運転に対する厳格さを、きちんともう一度取り戻すということではないかと思います。

北海道は車社会だから仕方ないから、車が必要だからということで飲酒運転をしてしまう、そういう状況を変えていく事が求められていると思います。
車社会を言い訳にして妥協することがない、飲酒運転の問題に正面から向き合うということ、飲酒運転というのは、飲酒も運転も日常的な問題です。

飲酒運転というのは、まさに日常的な犯罪です。
そうしますと、その日常に深く根差した車の運転と飲酒の在り方、これらをともに見つめ直すという事が、必要であるという風に言えるかと思います。

また、最初に申し上げました、飲酒運転問題に第三者はいない、自分は飲酒運転はしないから関係ないんだ!ではないわけですね。
自分自身が、あるいは、自分にとってかけがえのない人が、いつ飲酒運転の被害にあうかわからないわけです。

この社会において飲酒運転問題に第三者と呼びうる人はいない、そのことを理解したうえで、最初に申し上げましたように飲酒運転の問題を他人事にしないということ、
大きく一歩踏み込むとことは、いろんな事情があって難しいという場合でも、あと半歩だけ踏み込む、その勇気と関心と責任、これをみんなで持ち合うということが、今まさに必要なことで求められていることだと思います。

その際に、昨年12月に制定されました北海道の条例を活用して、それをもとに整備していく、土台としての取り組みを続けていくこと、そのことによって「飲酒運転をしない、させない、許さない」社会の実現につながっていくという風に考えます。

飲酒運転の問題に関しては、これは国が取り組むべき事ではないか。ということが今までも言われてまいりました。

しかし、この条例に象徴されるように地域で取組をしていくということは、そのことによって「国レベルで何が足りていないのか、国レベルで今後どういう取組を進めるべきか」ということを改めて浮き彫りにしていきます。

国レベルの取り組みをまさに、促していく、そのことは国と地域の在り方を変えていく機会を提供するものでもあると言えると思います。

北海道が他の都道府県に先駆ける形で、現状のワーストに近い状況を改善し、先進的な取り組みを進めていくならば、そのことがですね、必ずや将来、国や社会全体を大きく変えていく契機になるものと思います。

福岡でかつて条例が制定された際にも、福岡から日本この飲酒運転の状況を変えていくんだ。あれだけたくさんの悲惨な事件が続いた福岡だからこそ、そのことを発信していかなければならない。ということを福岡県の関係者の方たちは、非常に熱い思いで決意をされていました。

北海道でも、まさに、今日のこの日にそうした決意を強めていただきたい、しっかり持っていただきたい、という風に願います。

これまで、飲酒運転による悲惨な、重大な事件の発生、その度ごとに被害者、被害者遺族の方たちが、全国各地で訴えてこられました。
そのことによって、人々や社会が着実に変化して動いてきました。

現状様々な法律が改正され、あるいは地域でも様々な取り組みが進んできた。そのことによって、最初にお見せしたように飲酒運転の事故件数も死亡事故件数も大きく減少させることができました。

飲酒運転に対する人々の意識、15年、20年前を考えてみてください。
今とは全然違う状況だったと思います。
日本の社会は、この15年ほどの間に飲酒運転に対する人々の意識や考えが大きく確実に変化してきています。

飲酒運転は、飲酒と運転を切り離すことで防ぐことができる。
その意味では、飲酒運転死傷ゼロというのは、遠い目標ではなくて実現可能な目標である。
実現しなければいけない目標だ。ということをぜひ改めて確認をしていただければと思います。

時間を超過してしまい、またつたない恐縮ですが、私の話は以上とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
【司会】
 小佐井様、ありがとうございました。
 貴重なお話をいただきました。
 飲酒運転をしないという心掛けはもちろんですが、日々の生活の中で、大切な人を思い浮かべて、またその思いやりを持って生活していく事も、根絶への道なのかと思いました。

 ありがとうございました。
 今一度大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。

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