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真夜中とドライブ

僕は、正しく傷つくべきだった。本当をやり過ごしてしまった。

映画『ドライブ・マイ・カー』より

車の中というのは、かなりプライベートな空間だ。

私は自分自身が無免許ながらドライブが大好きで、だからドライブが大好きなひとのこともまた好きだった。

密室の横並びで、前に進んでいく鉄の塊の中にいると、向かい合わせで話せないことがなぜかすらすらと話せた。

ドライブの思い出を振り返ると必ず中学生と高校生時代の記憶が蘇るので、今回はそのふたつの思い出に触れてみる。


中学生のころ、夜に家にいるのがこわい時期があった。

毎晩毎晩言いようのない不安に襲われて、居ても立ってもいられなくなり、その度に私は父にドライブをせがんだ。

ドライブといってもどこか遠くまで行くのではなく、車で10分以内の近場をぐるぐると回り、夜の景色をただ眺めては安心するだけの時間。

お腹が空いているときはマクドナルドのドライブスルーに立ち寄って、決まってアップルパイを買い、漠然とした不安と一緒に飲み込んだ。

夜のマクドナルドの灯りは、現代の灯台だ、と思った。

高校生になってからはさらに、ドライブが深い意味を持つようになる。

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