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春と誕生日

「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。 花は毎年必ず咲きます」

川端康成『掌の小説』

昔から、春がこわかった。

咲き誇る花々も、浮き足立つ人々も、光りかがやく街も。自分と乖離していて、どこか嘘のような季節に感じる。

でもこわいと感じる理由のひとつは、自分が春生まれであることだろう。

私事ながら、先日誕生日を迎え、29歳になった。

20代最後の年。ハタチになったときは20代がいつか終わるなんて1ミリも考えてもいなかった。

あのころは自分の年齢と、生きていたい世界があまりに異なっていて、早く年を重ねたくて仕方がなかったから。

それなのに、いざ30歳を目前にしてみると「全く年相応になれていない」自分に驚く。

というより、この年齢になってから気づいたことがある。

子供から大人になる過程は思っているよりシームレスで、みんなしっかり「大人になりますよ!」という儀式を行なっているわけではないので、気づいたら大人になっているということ。

そして子供のころ“大人”に見えていた大人たちは、“大人のフリをするのがうまい大人になりきれていない”人たちだったのだということ。

それでも良い形に変わっていった部分もあって、これは少し珍しいのかもしれないけれど、子供のころ大嫌いだった誕生日は大人になってから大好きなイベントとなった。

誕生日を嫌いだった理由も好きになった理由も、大人になったタイミングより明確にあるのだからふしぎだ。

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