一瞬のきれいを。
朝4時に起きて、青果市場で働いていた。
仕事が終わり、午後4時くらいだったか、
ぐったりして山手線に乗っていた。
車内は少し混んでいて、
なんだかどんよりした空気。
いつものどこへもゆけない日常。
ふと、制服の女の子が、わあ、みて、
と一緒の女の子に言った。
女の子の声をきっかけに
車内で立っていた人たちが窓の向こうを見て
つぎつぎにちいさな、わあ、という
驚きのため息をもらした。
誰もが声を出した訳ではなかった。
でも、車内のひとの気持ちが
さあっと明るくなるのが
目に見えるようだった。
街の遠く、ビルに時々隠れながら
雨上がりの夕暮れの雲の切れ間に、
低い虹が出ていた。
狭い車内の限られたみんなで
つかの間のきれいを見れた
変な照れくさいような
充足感があった。
車内のお互いは何も知らないし
何もわかりあってはいない。
けれど、一瞬のきれいを
一瞬でわかちあった。
あの時の車内の空気がさあっと
変わった瞬間をいまでも結構大事にしてる。
きれいごとは好きじゃないけど
見たんだからしかたない。
ひとの気持ちで空気は変わる。
だったら、
世界も変わる、
はず。
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