ネズミVSメロディ

9月6日
この家に引っ越してから一度も開けたことのない窓を開けてみた。キッチンの奥にある窓。

開けると爽やかな風が部屋を包む。開放感。すごくいい気分。セピアだった日常を彩るような。何か新しいことが始まる予感がした。


9月8日
朝起きる。目が霞む。寝ぼけ眼でトイレに向かう。すると何か細かい小石のようなものを踏んだ。目を擦って霞みを取る。
足の裏を確認すると、十粒ほどの米粒がへばり付いていた。へばり付くというより足の裏の肉にめり込むあの気持ち悪い感覚。目線をあげると、キッチンのコンロの手前あたりに置いていた米の袋が倒れていた。袋からは米が溢れていた。
全体の1/4ほどの米が床中に。うわあ。最悪。箒で米をかき集めながら「袋をバランス悪く置いちゃって倒れたのかなあ」なんて具合に理由を分析した。寝起きだったので考えるのがめんどうくさくて。
片し終わったらすぐにそのことは忘れた。

窓は開けっぱなしのまま。

9/10
昼間。キッチンにてなんとなく邪魔だったので米袋を移動させようと持ち上げる。

「パラパラパラ…」

という音がした。見ると袋の下の方から米が溢れてきていた。何だ?袋の底を覗き込むと端の方に小さな穴が空いていた。ちょうど米一粒ぶんぐらいの小さな穴。そこから米粒がパラパラと溢れていた。
ティッシュで一粒一粒つまみながら理由を考える。
「一昨日の倒れた拍子に袋がどこかに引っかかって切れてしまったのかな?」


窓は開けっぱなしのまま。


9/12
深夜。寝ていた僕は、ふと尿意を感じて目を覚ます。明日は仕事があるからトイレに行ってからさっさと寝よう。

僕はキッチンと襖を1枚隔てた部屋で寝ていて、トイレに行くにはキッチンを必ず通る。襖を開けようと手をかけると、キッチンから音がする。

「ザザッザ…」

なんの音?
ビニールのようなものが擦れる音に聞こえるけど。
軽い疑問を抱きながら襖を開けた。







ネズミが米を食べていた。




「ぎゃーーーーーーーーーー!!!!」

おおよそ賃貸で出してはいけないレベルの叫び声をあげた。すぐに逃げるネズミ。
ネズミは袋の上に乗って米を食べていて、僕が聞いたのは米の袋が擦れる音だった。
冷蔵庫の裏の方に尻尾が消えていくのを確認。
怖い…怖い。怖いけどトイレに行かなければいけない。震える足のつま先だけを地面につけながらゆっくりと歩いてトイレに向かった。
トイレを済まして布団に戻ったけど怖くて眠れなかった。
我が家にネズミがいるのだ。


米に異変があったのも全部ネズミの仕業だったのだ。あの穴はネズミが米を食べる為に齧って開けた穴。米を倒してこぼしたのもネズミだろう。すぐにネズミが食べていた米を袋ごと捨てる。



次の日また次の日と、家でネズミを見かけるようになった。見かけるのは決まってキッチン周辺。キッチンの横に収納があり、そこから飛び出してくるのを特に多く見かけた。


怖かった。家にネズミがいるかもしれない。ちょっとした小さな音に「ネズミか!?」と過敏に反応してしまうようになって、家では緊張感が抜けなかった。
ネズミは今、キッチンにいないのかもしれないけど、もしかしたらいるかもしれない。
ネズミがいるかどうかはネズミを見るまでわからない。
「シュレーディンガーの猫」の思考実験のようだった。猫ではなくてネズミなんだけど。


毎日通っている銭湯で
下の階のおばあちゃんと
銭湯のおばあちゃんが喋っていたので僕の部屋にネズミが出たことを伝えた。
まず心配になったのは下のおばあちゃんの部屋に出ていないか。

「下は出てないわよ。ネズミ?怖いわねえ」

下のおばあちゃんには被害はいっていないようだ。良かった。
すると銭湯のおばあちゃんがあることに気づく。


「あなたの家の隣に空き家があるでしょ?あの辺よくネズミがウロウロしてるのよ。窓を開けっぱなしにしたりしてそこから入られたんじゃない?」



そうだ。ネズミを見るようになったのはキッチンの奥の窓を開けるようになってからだ。

すぐに家に帰り、開けていた窓を閉めた。
しかしそれでもネズミの出没は止まらなかった。どこか別のところから入ってきているのかもしれない。
バルサンのネズミバージョンみたいのを試した。それでもダメだった。



家にネズミが出たと何人もの人に相談をさせてもらった。
すると結構ネズミの被害にあっている人は多いみたいで、色々なアドバイスやネズミの情報をもらう。


「ネズミは頭が入れる隙間があればそこから侵入出来る。」

「一旦住み着かれると中々いなくならない。」

厄介な生物だなあ。さらにこんな情報が。


「ネズミは警戒心が強いので頻繁に見かけるのは、その人間がナメられている証拠。」


僕はネズミにナメられていた。


なんでだよ。
人間社会では弱者である僕だけど、ネズミにまで下に見られているの!?
悔しい。
ネズミをやつけてやりたい。けど怖い。

そんな間もネズミはキッチンをウロチョロし続けていた。




「ここを片付けた方がいいですね」


不動産屋の害虫対策の人が家に来てくれて、キッチンの隣にある収納を指差した。

そこの収納は引っ越したてから無造作に物を入れていて
なんとなく潰すのがめんどくさい段ボールとかを適当に詰め込んでいた。
たしかにネズミはここから顔を出すことが多かったのを思い出す。

掃除開始。段ボールなんかを引っ張り出してちぎってビニール袋に捨てる。
すると奥を片付けるにつれてネズミのフンがたくさん出てくるようになった。
さらに収納の底の部分の木の板が濡れたりしている。おそらくネズミのオシッコ。
段ボールをちぎりながら泣きそうになった。


自分の家の収納がネズミのトイレにされていたのだ。
悔しい。悔しい。



人として。
人間という種の尊厳を踏み躙られて
情けなかった。






片付けた後の収納


9/22
片付けてから数日。
ネズミはここ数日は見ていなかったのですが
先程帰宅時にキッチンに現れました。
もう嫌です。




まだまだ思っていることとか
初めて知ったネズミの情報だとか
書きたいことはたくさんあるのですが
長くなりそうなので一旦ここまで。ラジオなんかで話そうと思います。

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