ヤンキー高校に入った話

最悪に最悪が重なることがある。
今日はそんなお話です。




高校2年の時。
駅の駐輪場に停めていた自転車を盗まれた。
学校に遅刻しそうで慌てていて
鍵を抜き忘れていたのだ。




僕は神奈川県平塚市から
別な市の高校に通っていた。
別な市へ向かう電車に乗るために平塚駅を利用するのだが、その平塚駅までは毎日自転車を漕いで向かっていた。


平塚駅に着くと、今はもうなくなったのだけど当時は平塚駅西口に無料の駐輪場があってそこに毎日自転車を停めていた。


ここの駐輪場がそれはもうカオスカオス。
1000台駐輪可能とされているの駐輪場なのだけど実際には1日2000台ほど停められていた。
何を言っているのかわからないと思うけど本当にそうだったのだ。

当時の平塚駅西口駐輪場


この画像なんかはまだ少ない方。朝8時ごろに駐輪場に着くともう停められる場所なんてなかった。
正規の自転車を停めるスペースはとっくに埋まっていて、通路部分にまでビッシリ停められていた。
みんな少しでも隙間を見つけたらそこに自転車をガシャンガシャンいわせながら捩じ込むのだ。

地上に停めれる隙間がなくなったら、みんな自転車を持ち上げて他人の自転車の上に自転車を重ねていた。
とても日本の光景とは思えなかった。
他の人のことなんて考えちゃいない。
取り敢えず自分の自転車を無料で置ければそれで構わない。
人間の醜さが凝縮されたような100平米ほどの空間だった。




そんなごちゃごちゃの駐輪場なものだから盗まれたのが判明するのにも時間がかかる。2000台はある自転車を隅から隅まで探した。
1時間ほど駐輪場を歩き回って、どこにも自分の自転車がないことがわかる。
すっかり日の暮れた星のない空を見上げる。

親に相談して自転車を買ってもらおうか。
でもこないだ買ってもらったばかりの自転車だしな。


憂鬱な気分で家までのバスに揺られた。
しかし次の日
事件はより憂鬱な形で解決を迎える。



次の日の学校で先生から呼び出しがかかった。

「小林!お前自転車盗まれたのか」


自転車には高校の自転車通学用のステッカーが貼ってあったのだ。
どこかで見つかって、ステッカーを見て学校に連絡があったのか。これは幸い。


「他校の校内で見つかったから取りに来てほしいと言っているぞ。
向こうの生徒が盗んで学校で乗り捨てたんだろう。」

世の中には悪い奴がいるもんだ。
まあそれでも見つかってくれれば御の字。
どこの学校だろう。


「神田高校だ。」

戦慄が走る。
先生。今なんと?

「聞こえなかったか?神奈川県立神田高校だ」




神田高校。
かつて神奈川県平塚市に存在した神奈川最悪と言われたヤンキー高校。暴力団養成所。悪の巣窟。様々な呼び名がある。
神田高校の生徒入店禁止の店をいくつも見たことがあったし
生徒たちがパッチギのようにバスをひっくり返したなんて都市伝説すらあった。

そんな魔黒界に単身で自転車を取りに行かなければいけなくなった。短い人生だった。






放課後。
僕は神田高校の校門前に立っていた。
いや校門前というよりも、校門から10メートルほど離れた建物の影から校門を見ていた。


校門前に見るからに極悪な生徒たちが溜まっていたからだ。
全員金髪。全員ピアス。全然眉なし。
スポーツもしていないだろうに、強豪の野球部のようにみんな身体がゴツい。
他校の制服で入ったら何をされるかわからない。彼らがいなくなるのを待たなければ。
1時間も学校に入れずウロウロしていた。


やっと彼らがいなくなると、校門をくぐって事前に先生に教えられていた来賓者用入り口から校内に入る。
1時間も待機していたものだから
膀胱が爆発寸前だった。
一旦トイレを借りる。


トイレに入ると高校のトイレなのになぜかタバコの匂いがする。
匂いの新鮮さから察するにさっきまで神田高校の生徒がいたのだろうか。
山奥で熊のまだ新しい足跡を見つけたような気分。まだ近くにいる。
警戒心を強めた。


こんな恐ろしい場所に持ち込まれた僕の自転車は大丈夫なんだろうか。
無事な状態だとは思えない。


「これがあなたの自転車です。校舎の裏で見つかりました。」
なんて向こうの先生に言われて、ズタズタにされたタイヤの切れ端だけ手渡されたりしないだろうか。

もしくはグッチャグチャに丸められて凝縮されて手のひら大になった鉄の塊をポンと渡される。


とっくに出すものは出したが小便器から離れられない。どんどんイメージは悪い方へと猛進を続けた。


度々通るヤンキーに見つからないようにしながら僕は職員室にたどり着いた。
ご足労お掛けしましたと言われて
そのまま担当の先生に駐輪場まで案内された。


僕の自転車があった。
カゴに穴が開けられていてフレームが曲げられていた。明らかにイタズラされている。

普通ならここで落胆するだろう。
しかしさきほど鉄塊となった自転車をイメージしていた僕は
「無事でよかったあー!」
と喜んだ。
原型を留めていたことを喜んだのはこれが最初で最後。
昨日よりもボロボロになった自転車に乗りながら帰る僕は学校を出られた安堵感でテンションがハイになっていた。立ち漕ぎで飛ばす。
たしかに自転車からは昨日までは鳴っていなかったギコギコという音が漕ぐたびに鳴るようになっていたけど、そんなことは気にならない。


あの地獄を生きのびたぞ。
回れ回れ車輪よ回れ。
僕の自転車は、もう誰にも止められない。






高3のときにまた自転車が盗まれた。
学校に連絡があって、市内NO.2のヤンキー高校で見つかったので取りに来てください。と先生に言われた。被せ気味に僕は言った。

「行きません。」





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