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赤い糸と母子手帳

母の遺品を整理していたら、奥の奥から母子手帳と
得体の知れない包みが出てきた。

拡げてみると、命名として父による筆で書き上げた
半紙に包まれたへその緒だった。
そこに赤く染めた絹糸の束が添えられている。
 
この深紅の糸の束を見ると、何か歌舞音曲が
聞こえてくるような賑々しさを感じる。
我が子の誕生を愛で祝う特別な慶事なのである。
 
母子手帳は1942年に妊婦と幼児の健康状態を
全国一律の方式で記録して
医師の即時診断が出来るようにした。
乳幼児死亡率の低下に大きく貢献したという。
1990年頃から世界がこれに注目して
今や50ヶ国以上で採用されている。
 
運命の恋人とは赤い糸で結ばれているという
ロマンチックな話があるが、元々は母と子を結んでいた
へその緒が赤い糸となったのではないか。

へその緒はお母さんと繋がり、栄養分と酸素を貰い、
二酸化炭素と排泄物を戻させて貰って、
胎内で安楽に育っていった、
これこそ「命の綱」ならぬ「命の管」だ。
 
へその緒を大切に保管するようになったのは、
古く江戸時代からだという。
へその緒は我が子が危機に陥った時、
絶大なパワーを発揮してくれると信じた。
お守りであり、魔除けであり、厄除けである。
 
江戸時代の死亡者数の70%が幼児だったというから驚く。
第十一代徳川家斉はこれを怖れてか、大奥で励み
なんと53人もの世継ぎの子を産ませた。
3歳、5歳、7歳まで育てばもう大丈夫だと、
切実な祝いが七五三で、晴れ着を着せて
神前に詣でて深く頭を垂れる。
 
自分が亡くなったとき、へその緒を棺に入れてもらうと
あの世で再び母に繋がれるという。
外国人が見たらびっくりして、気持ち悪がられるかもしれない。
日本人の母への想いは理屈を越えて、特段に濃いような気がする。
 

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