自称映画評論家マルティン・タキンボの映画批評【ミナマタ】 星 ★★★★

自称映画評論家マルティン・タキンボの映画批評
【ミナマタ】 星 ★★★★
監督:アンドリュー・レヴィタス
音楽:坂本龍一
出演:ジョニー・デップ 真田広之 國村隼 美波 加瀬亮 浅野忠信 岩瀬晶子 キャサリン・ジェンキンス ビル・ナイ
配給 ロングライド、アルバトロス・フィルム
制作国 アメリカ(2020)
上映時間 115分
公式サイト https://longride.jp/minamata/

あらすじ
1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家の一人と称えられたユージン・スミスは、今では酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。そんな時、アイリーン(美波)と名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。水銀に冒され歩くことも話すことも出来ない子供たち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側。そんな光景に驚きながらも冷静にシャッターを切り続けるユージンだったが、ある事がきっかけで自身も危険な反撃にあう。追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る──。

パイレーツオブカリビアンのジョニーデップが制作と主演を務めたと聞いて日本の公害問題をどんなふうに切り取るのか興味があって鑑賞した。映画は、実話の社会問題を大げさに掲げることなく、一人の熱心な写真家を追いかけて淡々と進む。熊本にたどり着いて、取材の交渉をするものの、中々被写体は心を開いてはくれず、撮影に苦労していくシーンはさもありなむと思いつつ、熊本の美しい景色に魅せられながら、画面に引き込まれた。
 過去の水俣公害ニュース映像をフラッシュバックさせながら、進んでいく構成も、だれることなく、わかりやすく展開してくれる。よくありがちなナレーション説明は一切なく、写真家の主人公と熊本弁飛び交う、真田広之 加瀬亮 浅野忠信の熱演によって、被害者側の気持ちがよく伝わり、飽きずに最後まで見れた。ハリウッド式というか、監督がうまいのか見事な展開である。加害者側の企業チッソの社長を國村隼が演じており、この名優は昨今、連続テレビドラマ日本沈没で判断を誤る博士を演じていたり、悪役を進んで受けている感じで偉い人だなあと思った。
 クライマックス。 熊本の間借りした家の庭に立てた写真家の現像小屋が何者かに燃やされ、本人もそのあと、暴行に合い 悲惨な終わり方をするのかなと思いきや、撮影された秘蔵の記録写真のネガは別のところから出てきてほっとされる。ラスト、包帯だらけの腕で シャッターを切った写真、「水俣病になった息子を入浴させる母親」が 出てきたところで、思わず涙がこぼれてしまった。最後には ライフ詩にその写真が載ったことで世界に広まり、水俣裁判も良い方向に向くことになる。
 映画館が 比較的すきすきで、上映時間も一日に一、二回なので、
もっと見られていい良作だと思う。
 全体的に地味な話なのだが、プロダクト開発問題がささやかれる今日、
こういう映画が、本国よりも先にアメリカで映画化されてしまうことに
日本人として、少し悔しい想いで映画館を出た。
坂本龍一の音楽が、邪魔をしないように穏やかにやさしく響いて印象的だった。
 11月4日まで、吉祥寺オデオン、渋谷シネクイント他


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