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どついたるねん。

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きっと仕事のためにはならないでしょうが、暇つぶしにはなるかと思います。そんな、エッセイです。(2019/10/1〜2021/5/23)
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2020年2月の記事一覧

星野源の恋って感じじゃない

「あ、恋ダンス」と先輩が言った。 誰かが、カラオケで選曲に困って星野源の「恋」を入れたときのことだ。 「恋」は、しかし、星野源の曲という感じがしない。 たしかに、ファンク的要素を日本的に解釈していることや、どこか踊れること、ポップスであることは星野源的であり、また演奏チームと共に作り上げる彼の作品のサウンドである。 今聴き直しても、とても良い曲だと思う。 しかし、やっぱり「恋」は「星野源の曲」じゃない。 あれは「2016年の大ヒット曲」であり、「新垣結衣のダンスの

「熊、好きなんですか?」

ある土曜日の夕方、大型書店からの帰りにガラガラの電車に乗った。 ロングシートに座ってふと視線を上げると、正面の席に座っている女性の姿が目に入った。 彼女が抱きかかえた袋から、大きな熊のぬいぐるみが顔をのぞかせていた。 私は、たまらなく彼女に話しかけたくなった。 女性はアンニュイな表情で虚空を見つめていた。車窓から外の景色を眺めていたのかもしれない。 彼女の抱きかかえていた熊のサイズは、ちょっとした登山用リュックサックと同じぐらいだった。少なくとも、私が持っていた19

真顔になる権利はこちらにある

同期の立花が会社を辞めた。 それからしばらく経ったある日、森本に、立花の送別会に「行った?」と訊かれた。 訊かれるまで私はその送別会の存在を知らなかった。 立花が会社を辞めた。 まあ、退職自体はよくあることだ。 立花には、休日遊ぶような、仲の良い同期の社員がいた。 彼は会社と関係ない立花の地元の友人とも遊んだというから、その関係性の濃さたるや尋常ではない。私は休日にまで会社の人と会おうとはなかなか思わないのだが、まあ仲が良いことは結構なことである。 まあ兎角、そ

いつまでも綺麗を保つための掃除のコツ

部屋を掃除するための勘所すなわちコツとはなんだろうか。 そう思ってこの記事にアクセスしていただいた方の期待には、残念ながら応えられそうにない。 その肝心のコツを、私も知らないからだ。 大学に入学した頃に一人暮らしを始めたから、独居歴はもう片手で足りないほどになっている。 しかし、それだけ一人で暮らしていても、私はいっこうに掃除のノウハウを蓄積できていないのだ。 べつに実家から頻繁に母が来てくれていたなんてことはないし、家事の得意な恋人がやってくれていたなんてこともな

彼女が可愛らしい後輩だからって

ある日、会社で私がトイレから自席に戻ろうと廊下を歩いていると、目の前を別部署所属で1年目の後輩が歩いているのが見えた。 正面のドアが開いて、同期の石森が出てきた。後輩は、その開いたドアからオフィスの中に入っていった。 私もそれに続いて中に入ろうとしたところ、石森に呼び止められた。 「なに?」と言うと、彼女は「今の娘めっちゃ可愛くない? 名前なに?」と訊ねてきた。 「知らない」と答えると、彼女は「知っとけよ」と不満げに言った。 後で知ったのだが、先述の後輩は、名を小川

エボラ出血熱に恐怖した小学校の放課後

小学生の頃、同級生がインフルエンザで休んだ。 担任の先生が「インフルエンザなので、しばらく学校に来れません」とその児童について触れ、私は出席停止の概念を知った。 学校から「休め!」と言われるなんて、どんなに幸いなことだろう! もともと学校をサボり気味だった私は、出席停止の響きにすごく憧れた。 後ろめたさもなく、がんこちゃんを見れるなんて最高だ――私の頭にはそれしかなかった。 インフルエンザが出席停止なのは、感染力と毒性のそれなりに強い病だからである。実際、今年はアメ