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ガムは「責任」で、グミの方が人気になった【空想したもの】

歯医者でガムが推奨されることはありますが、グミが推奨されているのはほとんど見たことがありません。
一方、数年前から世間ではグミの売上が圧倒的です。
ガムとグミはなぜここまで人気に差がついたのでしょうか?

ガムはひとたび嚙み始めれば責任が生じます。
その責任とは、嚙み終わったガムを紙にくるんでゴミ箱へ捨てるという義務的な行為として現れるものです。
国によっては路上にガムを吐き捨てると罰金が科せられます。
この国ではそこまで重い刑罰は科されないですが、社会からの圧力とそれによって教育された自分の良心による呵責が、自分の犯した罪に見えない罰を与えます。
「ガムを公共の場で吐き捨てることは重罪です!」
「周りの人に迷惑をかけてはいけません!」

ガムというものは、噛み始めが甘さ、清涼感、噛み応えのピークです。
噛めば噛むほど味の成分は唾液の中に溶けだし、大して美味くも噛み応えもないガムの搾りかすを惰性で咀嚼することになります。
ガムを何のために噛んでいるのかわからなくなりながら、頭の中には自分に課せられていた義務感が、頭をもたげてきます。
ただでさえゴミ箱が撤去されていく現代社会のこの近辺に、はたしてガムを吐き捨てるためだけのゴミ箱はあるのでしょうか。
私は、何のためにガムを噛もうと思ったのでしょうか。
今ではもう思い出せません。
ガムを噛もうと思ったときに、みんなここまで考えていたでしょうか。
はたして、ここまで考える必要があったのでしょうか。

「最期まで、面倒をみろ。」
ガムの残滓が、口内の私的空間でそう告げてきます。
お前なんかもう、噛みたかったガムじゃない。


ハードグミはどんどん過激でニーズに合わせて異常発達と多種多様な進化を遂げています。
その食感や風味は実に艶美であり官能的です。
そして、固さや甘さを損なわないままに自分の満腹中枢を満たし、食道へと後腐れなく退場してくれます。
なんて素敵な存在なんでしょう!
世間のトレンドはグミです。
グミには噛み終わった後の心配なんて不要です。
私の中で完結してくれます。
ここはクソみたいな社会から逃れられる場所です。

作業や勉強の合間にグミ。
このグミでは足りない、もっともっと知らないものを見せてくれるようなグミを。
イライラして口の中が寂しい。
もっとストレス解消できるような噛み応えある固いグミがほしい。
満腹中枢が刺激され、ご飯があまりいらなくなった。
グミで私は満たされる。


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