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赤いオーラ

まだ息子が生まれる前のこと。
私は航空会社で地上係員をしていた。


深夜便担当の日。
チェックインの時間帯
外はもう真っ暗だった。


もちろんターミナルの中は
灯りが着いているのだけど

全面ガラス張りのビルのせいか
夜の暗さが中にまで続いてるように見えた。

ビジネスクラスでチェックインしていた
アジア系の背の高い男性のお客様。


何やらスタッフと揉めている。


お客様は一人掛けの窓側の席を
ご希望だったけど
満席のため差し上げられるお席がない。


お話を伺いにいくと
お客様は意外にフレンドリーで
優しく大きな笑顔を向けてくれる。


いかにうちの航空会社が好きで
いつも使ってくれているか
マイレージのステータスが高いかを
笑顔で(でも圧をかけながら)伝えてくる。


もう一度画面を確認してみたけれど
あいにく動かせる席がない。


今回はご希望に添えませんと
お詫びすると

その瞬間、お客様の頭の後ろに
火のように真っ赤なエネルギーが
燃え上がったのを見た。



真っ赤な真っ赤な
怒りのオーラ。



オーラが怒りで赤くなる瞬間を見たのは
その時が初めてだった。


夜のターミナルだったから
見えやすかったのかもしれない。

笑顔のまま激怒している
そのお客様がとても怖かったと同時に


赤いオーラと作り笑顔の対比が
すごく違和感に感じたのを
今でも覚えている。




あれからもう5年以上たった今日
また人のオーラが赤くなる瞬間を見た。

5歳の息子のだ。


今日は近くのコインランドリーで
一緒に洗濯をしていた。


手の平いっぱいに持ったクオーターコインの中から
息子は慎重に1枚を選び
ポケットの中に入れていた。


次から次に濡れた洗濯物を
乾燥機に放り込んでいると


息子が手に握っていた9枚のコインを
ばらばらと派手に床に落とした音が聞こえた。


まあそんなことはよくあるので
「ごめんなさい」という息子に
「ちゃんと拾ってね」と伝え
私は自分の作業に集中していた。


全ての洗濯物を乾燥機に入れ終わり
お金を入れる段になった。


息子に「コインはどこ?」と聞くと
9枚あったのが8枚しかない。

1枚どこかに行ってしまったんだろう。
でも8枚じゃ乾き切らない。

とにかく9枚にしようと
息子のポケットに手を入れ
1枚隠し持っていたのを足して
9枚にして乾燥機を回した。


息子はその1枚を取られたことを怒り
ランドリーからの帰り道
アパートの階段をずっと
ドスドス大きな足音を立てて歩いた。


家に戻ってから息子に


「怒ってるのはよく分かったけど
ドスドスしたらみんながびっくりするでしょ。
怒りを感じるのはいいけど、
物に当たるのはマミー好きじゃないよ。
そもそも、コインを落っことしたのはあなたでしょ。
あなたが無くしたんだからしょうがないじゃない。
自分のせいでしょ」


そう言うと
息子の目がみるみるうちに涙で潤んだ。


そしてすぐに、息子の右半分のオーラが
赤く変わった。


でも、あのお客様の赤とは全然違う。
もっとオレンジがかった赤というか
子供の頃摘んだ、木の実のような赤というか
なかなか表現するのが難しい赤だった。


”この色は、怒りだけじゃないんだろうか・・?”
と疑問に思っていると、すぐに頭の中で



”悲しみだよ”



という声が聞こえた。


怒りと悲しみが混ざった色が
この木の実のような赤なんだろう。



息子はどうして悲しくなったんだろうか?



頭の中で、コインランドリーでの息子の姿を
もう一度再生してみる。


そうだ、あの時
息子は私を手伝おうとして
自分のパンツを掴み

その拍子に
握っていたコインを落としてしまったんだった。


息子は1枚だけ慎重にコインを選んで
ポケットに入れていた。

「ダディーにあげるんだ」と言っていた。


そんな優しい気持ちを無視して
失敗だけを怒られたら


そりゃ悲しいよね。


小さな手に9枚ものコインは
握りづらかったはずだ。


ごめんね。



息子にハグして謝った。


本当の気持ちが
ねじれて伝わってしまう悔しさ。
悲しみ。


それは、私が最近
よく感じていた感情だった。


喜んでもらおうと頑張ったのに
喜んでもらえなかったり


あのフライトのお客様みたいに
本当は怒ってるのに笑顔を作ってみたり


ちぐはぐで
ストレートに伝わらない。
それが、ずっと悲しかった。


喜ぶかどうかはその人の自由だ。
執着せずにSurrenderするべきなのに
つい喜ばせるという結果を求めてしまう。


傷ついた、生きづらいって
悩む。


でも、それすらも本当は
やりたいことなんだろうな。

本当はシンプルなのに
小難しくして、悩む遊び。


地球でしかできない遊び。
重い周波数の遊び。



じゃあ、そんな私に共感してみよう。
飽きるまで悩ませてあげよう。


切なさも不幸も
味わいたいだけ味あわせてあげよう。



息子にしてあげるべきは
叱ることでも説教でもなくて


私にしてあげるべきは
早く夢を叶えろ豊かになれと
お尻を叩くことじゃなくて



まずは話をしっかり聞いて
共感してあげることだった。



教えてくれてありがとう。
あなたの赤いオーラのおかげで




「共感」のキーワードに
たどり着いたよ。







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