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皿を割りたい

 都内には破壊行為がOKとされているレンタルスペースがあるらしい。そこには食器だとか家電などが置いてあり、決められた制限の中なら自由に破壊をしていいようだ。安全確保のために防護もさせて貰えるそうなので、ノーリスクで破壊に勤しめるということになる。遊園地よりもずっと、夢のような空間といえるのではなかろうか。
 少なくとも私はその空間で破壊行為に及びたい。可能ならば音楽を聴きながら破壊をしたい。そのために曲を作ってもいいと思う。例えば「〇〇許さん、ぶっ×す お前の罪は2tトラック5台分」というリリックで〇〇の部分は休符になっている曲を作れば、休符箇所に任意の名前を発声することでマルチな破壊ソングになるし、それを聴いて一度でも破壊行為をしたならば強烈な記憶となって今後その破壊ソングを聴いたときにスッキリするかもしれない。
 一回の破壊体験で一生楽になるとすればこんなにいい話はない。ただ、懸念としてその曲を聞いたら(パブロフの犬的に)破壊衝動が蘇ってしまう可能性はある。そうなったら理性とうまく向き合うしかない。

 私は過去に携帯電話、皿、試験管、ビーカー、フライパン、スノードーム、モニターを破壊したことがある。片付けの時に素面に戻る感じはあまりいいものではないけれど、一時的に気が晴れはする。もちろん限界を迎えてやっていることであり、かつ毎度70%くらいの気持ちで破壊していて30%くらいは理性があったと言っておく。(本当にクリーンな人間は破壊をしないのでこの注釈はただの気が触れた人間の言い訳と捉えていただいても構わない。)
 ただ、破壊行為というのは、繰り返すとモチベーションがどんどん低くなっていくような気がする。理性のパーセンテージが増えるというか、正直片付けが面倒なのだ。怪我したら医療費もかかるし、破壊行為をしたという事実で薬が増えたらそれもまたお金に繋がる。あとは破壊するものが不要なものじゃなかったりするので困ったりもする、そんなわけで「破壊はもうやめよう……」と近年心掛けていた。しかし破壊行為ができる空間にはそのあたりのフォローが充実している。それなら何も躊躇う必要はないのではないだろうか、100%の気持ちで破壊ができるんじゃないだろうか、破壊のいいとこ取りサービスなんじゃないだろうか。

 世間が落ち着いて外出できるようになったら、是非行ってみたい。昔、皿を割ったときに憶えた梅雨明けのような気持ちを(それと同時に夏が始まる前のジリジリとした期待を)私はもう一度、ノーリスクで体験してみたい。

私はなんの躊躇いもなく、皿を割りたい。

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