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君は式部めぐりの伝説を見たか・新人VTuberがSHOWROOMのガチイベを席捲した17日間の記録

式部めぐりは、2020年2月8日にデビューしたばかりの新人VTuberで※、企業やグループに属さない個人VTuberでもあります。3月18日にSHOWROOMにルームを作り、その日から豪華特典を争奪するSHOWROOMのイベント、いわゆるガチイベに参加して、なんといきなり優勝しました。いったい何が起こったのか、それについて書いてみます。
※記事執筆時点でデビュー2ヵ月弱でした。

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ガチイベ前

私が式部めぐり(敬称略で失礼します)の生配信を初めて見たのは、3月1日の「シーマン」実況の初回でした。PS2のゲームで、懐かしいなーとたまたま見たのですが、流行りのゲームはやらずに毎日のようにシーマンと罵り合っている様子がなんだか面白くて、その後も時々見ていました。当初は同時視聴者が30人そこそこで、普通の新人VTuberに見えました(やるゲームがマニアックすぎるというのもあったでしょうが)。

しきめぐシーマン

ある日、シーマンの配信を見ていたら、SHOWROOMのイベントに出るか悩んでいるという話をしていました。それはSHOWSTAGE(SHOWROOMが運営しているVRライブ配信サービス)で単独ライブをする権利の争奪戦で、他にも3Dモデルを制作してもらえる、コンプティークにライブレポートが掲載されるなど特典がてんこ盛りで、とても豪華ですが、いわゆるガチイベです。

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SHOWROOMのガチイベは過酷なことで知られており、新人で、かつSHOWROOMにもまだ未登録でフォロワー0人という新人が参加して勝ち目あるのだろうかと思いましたが、イベント参加条件に「オリジナル曲を持っていること」というのがあり、そのせいで参加者が少ないから狙い目という戦略でした。作成中のオリジナル曲をお披露目する舞台としてうってつけなので、ぜひ出たいということでした。

誤算だったのは、参加を申請した後になって、オリジナル曲が必要という条件が変更されて無しになったことです。参加者が少ないから緩和したのでしょう。そのせいで参加者がかなり増えましたが、いまさら後へは引けないという状況でした。

ガチイベ予選

予選は3月18日から24日まで行われました。多くの人にチャンスがあるようにということで、予選はルームレベルごとに行われており、式部めぐりは一番下のレベルの「新規」枠です。

予選枠

彼女の予選での戦い方は、決勝に備えて「星」の効率の良い集め方を学習するというものでした。SHOWROOMのガチイベはポイントを積み上げる戦いで、ポイントはお金で買えますが、無料でもかなりのポイントが得られるのが特徴的で、それが星です。星を最大所持数まで集めて投げることを、うまくやれば放送中に3回やることができて、これがいわゆる3周です。

今回のイベントは、1日に3時間までしか配信できないという制限があります。かつ、3周するためには配信の間隔にも気を配る必要があり、配信のタイムテーブルの組み方はパズルのようになります。式部めぐりはそのパズルを解きつつ、いろんなパターンのタイムテーブルを試して、どれが効率的なのかという実験もしていました。理論的に効率が良くても、リスナー側の都合によって理論値通りにはならないので、やってみないと分からないわけです。予選の新規枠内では圧勝が見えていましたが、そうやってデータを集めるために走っていました。

でもこれくらいのことは、ガチでやる人はやっていそうに思います。式部めぐりが凄いと思うのは、この戦い方にファンがついてくることでしょう。3周をやるにはそれなりにスキルが必要で、労力もかかるのですが、しきめぐのために覚えてがんばるぞ、という人が多くいたのはなぜなのか。

自分の例で考えると分かります。私は式部めぐりがTwitterで3周とかタイムテーブルとかの話をしているのを見ても、複雑でさっぱりわからんなと、SHOWROOMは大変だなと他人事のように思っていて、予選が始まっても、初日はなんとなく見に行っただけでした。

でもその場にいると、星を最大効率で集めることをゲーム感覚でやっている人達がいて、しきめぐちゃんはそれを上手いこと煽っていて、私もやってみたくなったのでした。実際やってみると、うまく3周できると達成感があるし、みんなで協力しているのでソシャゲのギルド戦をやっているような気持になり、楽しくなってきました。

上手いこと煽るという、例の一つがこれです。このツイートは「進撃の巨人」のパロディですが、式部めぐりはこれを面白がって、配信でもツイートでも頻繁に取り上げていました。

三周五十式部というのは、3周してかつ50カウントする(カウントもSHOWROOMでのポイント稼ぎの一つ)ことで、無料のポイントを最大効率で集めたことを意味します。人物はSHOWROOMの初期アバターで、式部めぐりもリスナーもSHOWROOM初心者である(専用アバターもまだ無い)ことを表しています。それなのにガチガチに戦っていて「面構えが違う」ということで、確かに味がありますよね。

これにより「面構えが違う」「ツラガマエ」が共通の合言葉になって、初期アバターを使う人も増えて、一種の連帯感が生まれました。ツラガマエの一員になりたいと、がんばる人が日に日に増えていきました。

その結果、予選のほとんどの期間で、式部めぐりはトップを独走していました。新規枠だけではなく、すべての枠でトップです。C枠が競り合っていたので、最終日の最終枠で抜かれましたが、そちらはかなり課金していたのに対して、式部めぐりチームは予選では課金を封印していたので、ほとんどが無料ポイントでした。そして無事に、決勝に進出しました。

ガチイベ決勝

決勝は、3月28日から4月3日まで行われました。リスナーは予選で鍛えられており、かつ効率のよいタイムテーブルも確立していたので、ほとんど課金しなくても初日からトップを確保していました。

とても特徴的だったのは、初日のタイムテーブルです。初日は開始が18時からと遅く、それでも1日3時間の配信ができるし、週末ということもあり、他のライバルは5枠や6枠の配信をしていました。でも式部めぐりは3枠だけでした。これは、1枠で3周することを重視しているからです。

こま切れにたくさんやる場合、あまりスキルが無くても都度1周か2周ができて、回数も多いのでポイントは稼ぎやすいと言えます。3周重視のタイムテーブルは、数が少ないので楽だし、理論値も少し上ですが、3周スキルのある人が一定数いることが前提です。

予選の初期に、3周にこだわらなくてもよいのではという意見が出たことがありましたが、その時に式部めぐりは「でも私は3周戦士が輝ける職場にしたい」とぽろっと言っていました。やっぱ、そういうこと考えてるんだなと。実際それで3周戦士は増えたわけです。

あと上手いなと思ったのは、式部めぐりはずっとLive2Dで配信していたのですが、3Dモデルも作っていて、そのお披露目を最終日の3日前にやったのですね、後ろ姿だけでしたが。そして最終日2日前から本格的に3Dでの配信を始め、さらに最終日にはバーチャルキャストでの配信を初披露しました。バーチャルキャストだと、SHOWROOMと連動してギフトも3D空間に表示されます。当然盛り上がるわけで、こんな隠し玉があったのかと。

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以下は、イベント期間を通した獲得ポイント数のグラフです。青色線が式部めぐりですね。参加者全員ではなく、本人と主なライバルについてプロットしています。緑色線のC枠1位の方は、本人は新人ですが企業勢で、SHOWROOMでは強い箱なのでライバルだろうと考えていました。赤色線のS枠1位の方は、SHOWROOMでトップクラスに強い人とつながりがあり、支援者も被っているので強いだろうと見做されていました。

ポイントグラフ

結果的に、1度も1位を譲らずに圧勝したのですが、ずっと大きな差をつけていたし、課金で少し詰めてもまた引き離されるので、ライバルたちは諦めたというのはあったと思います。

そして最終日の跳ね方ですよ。式部めぐりはずっと、「最終枠まで課金はなるべく控えてほしい。でも無料ポイントだけだとSHOWROOMさんにも私にもお金が入らないので、最後に楽しんだ分だけ課金してもらえると助かる」と言っていました。それが最後に爆発したわけです。

イベントの達成条件として、300万ポイントが必要だったのですが、さらに式部めぐりの個人的なストレッチゴールとして、400万ポイント達成したらミニアルバムを作ると言っていました。私はポイントの傾向をずっと見ていたので、300万ポイントは行くなと思っていましたが、400万ポイント行ったのには驚かされました。

貢献度グラフ

これは、イベントへの貢献度が100位までのリスナーのポイント分布です。緑線はイベント2位の方。青線を見ると、トップのポイント(課金額)では負けているけれど、60位くらいまでのポイントが非常に厚く、無料ポイントをしっかり集めた人が多かったことが分かります。

イベント期間を通して、彼女はオンライブやランキング上位の常連だったので、そこから見に来た人も多かったようです。最終枠は、延べ4700人が来ていました。SHOWROOMはユーザーが多いから、そういうのが強いですね。

式部めぐりの強さ

ちょっと前まで、式部めぐりは普通の新人VTuberでしたが、このちょっとした奇跡を起こしたことで、今後が大きく変わるのだろうと思えます。SHOWSTAGEでの単独ライブも楽しみです。

彼女はよく、「自分には突出した特技が無い」と言います。トークとか歌とか、それぞれハイレベルだと思うけれど、彼女の強みはきっと、今回見られたようなセルフプロデュース能力と、周囲の人を巻き込んでいく力なんだろうと私は思います。

彼女の周りには、不思議と人が集まるんですよね。これは最近公開された歌動画ですが、MIXは友達募集Pさんです。

友達募集PさんはボカロPでもありますが、ロストワンの号哭など有名な曲のMIXもされています。VTuberの「歌ってみた動画」のMIXはあまりやらないそうなのですが、思うところあって引き受けて、MIXだけでなく歌唱のディレクションもされたとのこと。素晴らしい仕上がりですよね。しかも配信にもちょいちょい来られてます。

他にも、モデル作成や動画作成など関わっているスタッフを見ると凄い人が多くて、どういうツテなんだろうなと思いますが、そういう人を巻き込む力があるのでしょう。ガチイベで多くのリスナーを巻き込んだように。

「平安のこじらせ系文学少女」が彼女のキャッチフレーズで、確かにこじらせてんなーと思うところはあるし、完璧超人ではないのですが、そういうちょっと危ういところも、むしろ見守りたいという気持ちにさせるのかも。今後がとても楽しみだし、彼女が飛躍するきっかけに居合わせたのは幸運でした。これからも、そういう機会はまだまだあるでしょう。


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