見出し画像

Quest2からQuest3に買い替えたら、画質が予想外だった

Meta Quest3が10月10日に発売されましたが、私は様子見をしていました。Quest2のときは「これは買うしか!」とすぐに予約して入手したものですが。というのも、カタログスペック的には大幅アップというほどではないし、MRはさほど興味が無いので、Quest2から買い替えるかは微妙だと思っていたのです。値段も高くなったしね。

でもヨドバシカメラの店頭でデモ機を見て、「これは買うしか!」と即決しました。今では買い替えて大正解だったと思っています。以下にその理由を書きます。

1. 画質が隅々まで良い

Quest3の良さで、これが最大のものですね。とにかく画質が良くなって、それは見比べればというレベルではなく、一見して明かでです。特に画面の周辺部がシャープになりました。Quest2は中央はまぁシャープなのだけれど、視線だけ動かして画面の隅を見ると解像感が低く、文字などは読めないレベルです。読むためには頭をそちらに動かす必要がありました。VIVE Proなどもそうで、VRはそういうものだと思っていました。でもQuest3は周辺部もくっきりで普通に文字も読めます。また中心部も5割増しくらいシャープになっているので、相乗効果で画面の印象がとてもクリアです。Quest3を使ったあとでQuest2を使うと、画質の悪さに驚くくらいです。なぜこんなに違うのか、不思議に思ったので理由を調べてみました。

Quest2の液晶パネルの解像度は 3,664 × 1,920 で、Quest 3は4,128 × 2,208です。水平・垂直方向のピクセルが12%ほど増えただけで、大きな違いではありません。Quest3の画質の良さは主に、パネルではなくレンズの違いにあるようです。

Quest2はフレネルレンズが(片側につき)1枚使われていて、これは光学的には凸レンズ、つまり虫眼鏡と同じです。Oculus Liftの試作機には虫眼鏡がそのまま使われていたものでした。シンプルな構造だと言えます。

左がフレネルレンズ・右は比較用の凸レンズ

一方で、Quest 3はパンケーキレンズが使われています。理由としては一般的には「ヘッドセットを小型化するため」と言われていて、確かにそれは大きな利点です。パンケーキレンズは以下のような構造になっていて、2枚のレンズがあり、さらにレンズがハーフミラーの働きもしており、パネルの光を2回反射させてから目に届けます。反射させるからコンパクトな光学系でも光路を稼ぐことができ、小型化できるわけです。

VIVE FLOWのパンケーキレンズ

でも利点はそれだけではありません。フレネルレンズ式はレンズが1枚だけなので、どうしても歪みや収差が残ってしまいます。カメラのレンズが複数のレンズを組み合わせているのは、それらを抑えるためです。パンケーキレンズはレンズが2枚あり、さらに反射させているのでレンズが4枚あるのと同じです。図を見ると形状も複雑で、歪みや収差を抑えようとしているのでしょう。

Questの対抗機であるPICO4もパンケーキレンズで、あれも確かにQuest2よりは良いですが、Quest3よりは劣っています。パンケーキレンズは構造が複雑なので高度な設計が必要で、Quest3のレンズは設計が優秀ということなのでしょう。カメラのレンズも設計によって性能に大差があるように。

画質が良い理由はもう一つあり、パンケーキレンズはディストーション変換が不要か、少なくて済むようです。ディストーション変換とは何かというと、VRのレンズの歪みに合わせて映像をあらかじめ歪ませることです。これは以前の記事のために書いた図なのですが、凸レンズは映像を拡大すると以下のように映像が歪んで視界に投影されます

そのため、映像をあらかじめ歪ませてつじつまを合わせます。本来は長方形の映像を、下の図のようにGPUを使って歪ませることで、拡大したときに歪みが取れるわけです。これがディストーション変換です。


これの欠点として、中央部のピクセルが拡大されるので解像度が下がります。パネルの解像度を生かすためにはパネルと同じ解像度で描画するのではなく、1.5倍くらい高い解像度で描画するべきですが、GPUパワーを消費するので限界があります。

パンケーキレンズはレンズが実質4枚あるので、その組み合わせで歪みを抑えることができます。それによりディストーション変換が不要か、少なくて済むようです。こちらの記事などにありました。

Pancake, on the other hand, works by folding many lenses together in a curve, bouncing light within the glass or plastic. In effect, slimming the distance needed between the wearer’s eyes and the display. This opens VR HMDs to be thinner and lighter, while it also frees up processing power, as the distortion problem for the Pancake is not present. Lastly, the Pancake design does not have the chromatic aberration present like the Fresnel.

vr-expert.com

「ディストーションの問題はパンケーキレンズでは発生しないので、処理能力を節約することができる」とありますね。実際、Quest Linkで同じ解像度設定にしてPCの映像を見ても、Quest3のほうが解像感が高いです。

Quest3の実物を見るまでは、レンズによってここまで違うとは思っていなかったので本当に「予想外」でした。素晴らしいです。

2. 雑に装着してもきれいに見える

これも地味ながら大きな利点ですが、VRヘッドセットというものは、眼球がレンズの中央にないと綺麗に見えないのが普通です。フレネルレンズの特性や、ディストーション変換の影響です。だからIPD(瞳孔間距離)をしっかり設定したうえで、かぶったあとで位置を微調整して、眼球がレンズの中央になる場所を探す必要がありました。

Quest3はパンケーキレンズの特性で、眼球がレンズの中央になくてもそれほど影響が無いようです。だからかぶった後で微調整がほとんど必要ないし、なんならIPDがズレていてもあまり影響ありません。ヘッドセットの付け外しのストレスが少なくなりました。また、他人に使わせるときも「きれいに見えてる?位置合わせた?」と気にする必要がないのは良い点です。

また、装着感もQuest3のほうが重量バランスが良いので少し良くなりました。私のQuest2は社外品のBOBOVRのストラップを付けていますが、これを使っている理由の一つは位置調整のしやすさでした。Quest3は標準でもまぁ悪くないし、位置調整も雑で良いので今のところ標準で使っています。

3. MRは意外と使える

Quest3のQuest2に対する進化として、レビュー記事ではMRの進化を真っ先に言われます。外向きのカメラが大幅に良くなり、VR映像と外の映像をきれいに重ねて表示することができます。MRを活用したゲームはたいてい「部屋の壁を破って敵が攻めてくる」といったもので、最初は珍しいけれどそれだけという感じで、私としてはMRはそれほど重視していませんでした。

でも実際にQuest3でVirtual Desktopを使ったら「MRいいじゃん」となりました。Virtual DesktopはPCの画面をVR空間で見るためのもので、以前から使っていましたが、Quest3で実用度が一気に上がりました。一つはパンケーキレンズのおかげで、画面の隅々まで文字が読めるようになったためです。もう一つはパススルー映像、いわゆるMRのおかげで、外の映像に重ねてPCの画面を見ることができます。

これにより、投影された大画面のPC画面を見ながら、マウスやキーボードを操作できます。最近のお気に入りは、ソファに寝転がって目の前にPCの画面を出し、動画や電子書籍を見ることです。スマホやタブレットよりも大画面だし、手も楽ですね。コントローラーを使わずにハンドゼスチャーでもある程度の操作が可能です。

MRが買い替えの動機にはならないと思っていましたが、使ってみたらMRでVRヘッドセットの実用性が上がることがわかりました。他にも活用法はいろいろあって、いろんな方がやっているので私も試してみたいと思っています。

4. 処理速度が向上した・起動が速い

Quest3はQuest2よりもSoCの処理能力が2倍ほど向上したということですが、それが発揮されるのはQuest3に最適化されたゲームが出てからでしょう。まだそれは見られていないのですが、処理速度向上の恩恵で起動速度が速くなっています。電源オフからの起動が、Quest2の約20秒に対して約16秒くらいになりました(ロゴが出てから操作できるまでを計測)。少しの差ですが違いは感じます。またアプリの起動も少し速くなってキビキビした印象があります。
12月にはQuest3に最適化された大作ゲームのAsgard’s Wrath 2が出るし、今後が楽しみではあります。

5. 箱が良い

これはしょうもない点かもしれませんが、私としてはポイント高いです。Quest2よりも箱がコンパクトになり、小さな箱にヘッドセットとコントローラーがきっちり収納されます。箱はプラスチックと紙によるしっかりした作りでデザインも良いので、私はこれを収納ケースとして普段使いしています。VRってそのへんに放り出して散乱しがちですが、これに入れるようにすれば片付くし、ホコリなども入らずによいです。またバックパックにすっぽり入るサイズなので、持ち運びにも使えます。とても良い箱ですね。

6. 悪い点:コントローラーのトラッキングが外れやすい

これは逆にQuest2よりも悪い点なのですが、コントローラーのトラッキングが外れて一瞬操作できなくなることがQuest2よりも多いです。特に部屋が暗めだとダメですね。Quest2のコントローラーには大きなリングがあって、そこに赤外線LEDが複数入っており、それをカメラで見てコントローラーの位置を検出しています。Quest3にも入っているのですが、Quest2よりは小さいし数も少なそうなので精度が落ちるのかもしれません。そこまで困るわけではありませんが、今後のアップデートで改善されることを期待しています。でも悪い点ってこれくらいですね

まとめ

Quest3の良さはカタログスペックでは分かりにくいところがあり、レビュー記事などでも意外と言及されないのですが、私はQuest3の最大の進化はレンズだと思います。

ただパンケーキレンズにも欠点はあり、パネルの映像をハーフミラーで反射させ、さらにそれが混ざらないように偏向フィルタも通すので、パネルの光量の2割くらいしか目に届きません。そのため光量が少ない有機ELでは採用しにくいでしょう。アップルのVision Proは有機ELですがあれは特殊なもので、だからこそバカ高いです。

PlayStation VR2はパンケーキレンズではありませんが、そのかわり有機ELなので映像のコントラストが高いです。漆黒の空間にパーティクルが飛び散るような映像がとても美しいのですね。Quest3は液晶なので黒いところが漆黒にはならないし、コントラストがそこまで高くありません。そこは一長一短あります。

しかしQuest2と比べればQuest3は全面的に優れているし、しかも思ったよりも大きな進化だったので、私は買って大満足しているのでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?