人生足別離・蒼月エリの「卒業」に寄せて

VTuberグループ「ハニーストラップ」の蒼月エリちゃんが「卒業」することになり、あまりに急なことで、よく状況がわからないまま卒業放送を見ていたのですが、すごく感情を揺さぶられたので、その感情の正体について思ったことを書くことにしました。

奇跡の5人

ハニーストラップ、通称ハニストは、2018年の7月にデビューした女性5人によるVTuberグループです。初回放送を観ましたが、その時からすでに仲が良い様子で、個性豊かなメンバーなのに凄いなと思っていました。さらに全員コラボの「ハニスト学園」を見て、全員が本当に仲がよく、一緒にいることを楽しんでいることが伝わってきました。仲良し営業には見えない、本物の絆が見えて、女性5人が集まって全員これだけ仲がいいというのは奇跡的だと思っていました。大げさかもしれませんが。

そんな仲の良さをずっと見ていただけに、まさかメンバーが抜けることになるとは予想外でした。エリちゃんは卒業する理由を「やりたいことができたから」と言いました。前向きな理由だから、別れが湿っぽくならないように、サムネイルや説明文はユーモラスにしていて、実際、「最後まで泣かないようにしようと思っていた」と言っていました。

別離の詩(うた)

ところで、学校で漢詩を習ったと思いますが、漢詩は「別離」をテーマにしたものが多いのが特徴的です。李白の「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」とか、于武陵の「勧酒」とか、王維の「元二の安西に使するを送る」とか、教科書に載っている有名な漢詩は別離の詩です。中国大陸は広いので、一度別れたら一生会えない可能性が高く、だから別離の際に詩を贈るということです。そしてそこに名作が多いわけですね。

日本はそこまで広くないし、そもそも現在はSNSとかでいくらでも連絡が取れるので、別離は詩を贈るほどには感情を揺さぶられる出来事では無いと言えます。現代社会では。

でも、今回のエリちゃんはどうでしょうか。VTuberをやめるということは、もうこの姿で会うことはできないということです。5人がバーチャル空間で集まって、楽しく遊ぶことはもうない。中国の広大な大地によって人が隔てられたように、リアルとバーチャルの境界によって隔てられてしまうのです。

エリちゃんの卒業放送は、エリちゃんの意向もあり、明るい感じで進んでいました。でも各メンバーからエリちゃんに言葉を贈るところで、それまで余裕そうに見えたメアリさんが、耐えられずに感情を露わにしてからは、もうダメでした。みんな泣きながら、エリちゃんとの思い出を語ったり、励ましたり、これから自分たちも頑張ると誓ったりしていました。

これは、もう会えないエリちゃんに贈る、本物の「別離の詩」だと僕には思えて、強く感情を動かされました。VTuberだからこそなんだなと。

人生足別離

タイトルの「人生足別離」は、「勧酒」の中の有名な一節で、「人生は別離が多い」が直訳ですが、井伏鱒二はこれを「サヨナラだけが人生だ」と訳しました。VTuberを追っていたら、いつか別れは避けられないのかもしれない。でもそれがVTuberであって、人生なんだ、そのために今推さないといけないんだ、という思いを新たにした、出来事でした。

それから、ハニストと同じ運営の「あにまーれ」の因幡はねるちゃんが放送で、エリちゃんのことを応援することはもちろんだけれど、残ったメンバーのことを気遣ってあげて欲しいと言っていました。これも心に留めておくべきで、ファンの方は残った「今の」メンバーを全力で推して欲しいと思います。


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メルクマ

バーチャル好き。VTuberやVRについて考えていることを書いていきたい

Virtual Life

バーチャルとリアルの行方

コメント2件

メアリやパトラが言っていた「きっと辛いことも大変なことも沢山待ち構えていると思うけど、新しいところでも頑張って」という言葉には、事情を知る者の重みがありましたね。
いろいろな意味で大きな喪失であったと、自分も思いました。
コメントありがとうございます! それは僕も思いましたね。エリちゃんの言う「やりたいこと」というのはきっと、かなりのチャレンジであって、それを知っている二人の言葉には、励ましの要素が強かったと思います。でも他の感情もぐちゃぐちゃになっていて、だからこそ心に届いたでしょう。
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