6年前になるが、少人数の勉強会で講師をした。「コロナ前」なのでリアルの場である。
 話すのが苦手なのに、2時間も自分ひとりで「場」を持たさなければならない。とりあえず原稿を作ろうと、予定するナレーションを一言一句書き起こしてみた。
 次は話す練習だ。原稿を音読してみてわかったが、いくら「自分でしゃべる」のを前提として書いた口語原稿でも、話してみるとこのとおりにはいかない。
 まして2時間は長丁場だ。どこかで外れてしまったら戻ってこられないかもしれない。青くなり方針を変更することにした。
 まずはフローチャートをつくり、全体の流れを箇条書きで書いた原稿に予定時間を書き込む。ここで何分、この次は何分。ここで時間が押したらこちらで取り返そう。質疑応答で質問がなく、沈黙が続いたらこの話を入れる。そうしたことをA4の紙1枚に収めた。こうしておけば、当日テンパっても、このアンチョコをぱっと見て立て直せそうだ。よし、これでいこう。
 その後、知り合いに頼んで練習台になってもらい、「聞き取りづらい、わかりにくい」ところがあったらすぐ言って」と頼んだ。そして何百回、何十時間も練習した。
 もともと苦手なことを何百回練習しても、急ごしらえでさほど上手くなるわけはない。それでもナレーションは覚えてきたし、「ここはこれでは伝わらない」と資料を作り直したり、フローチャートを書き直したりと調整を繰り返す。
 そんなことをしていたらあっという間に1か月が経ち、当日になった。
 フローチャートを見ながら、質疑応答を含めてやっと終えた。とりあえずなんとか任務終了という気分であった。
 終了後、この会をセッティングしたオブザーバー役から講評がきた。
 肝腎の講義内容については、あらかじめファイルを出してあったのと、初回ということもあってか点が甘くノータッチ。それよりも「あなたがひとりでしゃべりすぎ。自分ばかり話していないで、生徒さんたちに振って話をさせなさい」とアドバイスを受けた。
 そういうものなのか……。でも、要するに自分が口を閉じて、聞いていればいいんだよね、と思っていた。その後また「自分が話す」機会がくるまでは。(続く)

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