昨日は、人前で3分間の話をするために準備をし、「これならOK」と思えるまで練習したという話を書いた。今日はその続きである。
 3分間のために、2時間半費やして練習した。ほぼ内容(ナレーション原稿)も暗記し3分で話せるようになると、やっと他のところに気がまわり「ここがおかしい」とわかるようになるし、微調整もできるようになってくる。
 時間感覚がついたので、次は(前の人までの)時間が押して残り時間があまりないときのために、「1分バージョン」も練習しておくことにした。ほとんど何も話せないけれど、別に配布する資料は「後で読んでください」と流し、これだけは説明しようということも決めた。
 当日になった。予想通り、「ひとり3分」の持ち時間を守れない人ばかりでどんどん時間がなくなっていく。そんななか、自分の番が来た。
 ぱっと立って1分間話し、さっと座った。みな、あまりの短さに驚いていた。
 欠点はいろいろあろうが、いまの時点でできるベストな発表だったと思う。この体験で自分は、「どんなに苦手で向いていなくことであっても、練習さえすればここまではできる」という、ひとつの達成指標をクリアした。「3分間」と言われて「1分間」バージョンも練習しようと思えたし、本番でそちらに切り替えて実際に話すこともできたのだ。
 この日から、自分の「人の話の聞き方」が変わってきた。それまでは人の話が上手い、下手というのは感じたことがなかったが、いろんな人のスピーチやプレゼン、発表について、内容以外に「話し方」について自分なりの意見が持てるようになった。
 まず、プロ(話すことが生業ではなくとも、人前で話をしてお金をもらっている人)に言いたいことの1つめ。複数のスピーカーがいる場合、自分の持ち時間を超えるのは論外。ひとりが長く話せば、他の演者の持ち時間が減るし、参加者も質問を控えなければならなくなったりする。「時間オーバーしない」は最低限のルールであろう。とくにトップバッターは責任も重大だ。
 プロに言いたいこと2つめ。ノイズを極力少なくする。「あの~」、「えーと」、間投詞のように入る「ごめんなさい」などは邪魔である。
 3つめ。自分の個人的な思いに入りすぎない(スピーカーのプライベートにはまったく興味がない)、あっちこっちに話を飛ばさない。
 お金をもらって話す人にはこれだけはお願いしたい。それだけの準備をして臨んでほしいということだ。
 では、素人ならどうだろう。お金をいただくわけではないとはいっても、他人の時間をもらう以上、最低限のマナーは存在する。持ち時間を20%以上オーバーしない、内容と関係のない個人的な話をしない(スピーカーが友人であっても、プライベートの話はプライベートな場で聞きたい)、言い訳はしない(「準備不足」云々は見苦しい)。これだけは頭に入れておいてほしい。
 書いてみてわかったが、人前で話すは「我慢力」が問われるスキルである。ことばをだだ漏らさず、絞りきったことばだけで簡潔にすぱっと伝える。自分の言いたいこと、頭に浮かんできたことを話すのはNG。「この場で自分がほんとうに伝えたいと思ったこと」だけを口にして、その他のことは必死で「我慢」し、言わないようにする。
 これは書くことと同じである。書いては消し、消しては書き、最後に残ったものだけを読み手に提示する。話すこともまったく同じである。これができてはじめて、人前で話をするスタートラインに立てるのだと、やっとわかった。

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