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オンライン講座「日本画の描き方を知ろう」(安原成美講師)感想

 山種美術館で開催されている「日本の風景を描く」https://note.com/merlin_witch/n/nbc0ed46847a6?magazine_key=m0d1c164053281 に関連したオンライン講座を受けた。芙蓉の花のスケッチから絵を仕上げていく過程を撮影し、講師本人が解説している。
 日本画というのはこうやって描くのか、とわかる講座だった。まず、日本画では骨描き(スケッチ)が大事だという。わたしは輪郭線がある絵が好きなので、こういう話は聞き逃がせない。線描の段階で質や膨らみ方、立体感が出せると、彩色が精度の高いものとなるし厚く塗り込まなくてもよいという。ふくみが多く先の細い筆を使い、神経を入れて集中する、張り詰めた気持ちで線描していくというのはうなずける。呼吸は意識するが、息を止めると長さが引けないので吐きながら線を引くというのも、聞けば「そうだろうなぁ」と思う。線は生きているしそれ自体勢いがある。息を止めると勢いのある線を一気に引くことはできない。
 そして、線スケッチがきれいにできないと色を塗ってもごまかしになってしまう。わたしの最も好きな画家、永沢まことさんもそう書いている。花は花びらの質感を思い出すように繊細に描く。葉っぱは花びらよりも固いし線が長い。だから「線がよれないよう、どれくらい長い線を引くのか、どこから始まってどこで終わるのか、線を引き始める前にイメージして引く」など明確に語ってくれる。動画の筆使いを見ながら解説を聞くと、筆の弾力を生かす動きが具体的にわかる。
 いよいよ彩色だ。日本画の彩色には、筆の2本使いという技法があるのは初めて知った。右手に筆がクロスして2本握られている。中指と親指で1本持っている筆で色を入れていく。と思ったら、人差し指と親指で支えていたもう1本の筆(水筆)を中指に持ち替えてぼかしていく。この「入れ替え」が何度見ても面白い。自分でもエンピツを2本持ってやってみたが、一瞬でぱっと入れ替えるのはなかなか難しい。
 さらに、日本画の白は貝殻を原料とする「胡粉」という顔料で塗るのだが、胡粉は塗るときと乾いたときの発色が違うので、想像しながら塗らなければならないという。たしかに、塗っているときはどう見てもグレーなのに、乾くと真っ白になる。自分の今の目の感覚を調整しながら塗っていかねばならないから、慣れてもかなり難しそうだ。
 ここで面白かったのは、花びらは柔らかい印象なので輪郭線があまり残らないように、線描の上に色を乗せていくというところ。葉っぱは固いので、線が消えないように線の内側に色を塗っていくという。やはり線描を大事にしているのだなぁとわかる。
 この講座、ほんとうに面白かった。スケッチを転写するところからずっと撮影されているので絵が仕上がっていく様子がわかるということももちろんだが、「葉っぱのぎざぎざは筆の弾力を生かし、穂先を差し込んで戻る力を利用しながら描く」とか、「筆の先端が跳ね返るのでそれを感じながら描く」といった解説もよかった。技術の高いプロ、それも言語からは一見遠そうに見える美術の世界の人が、こうやって自分のスキルを言語化しているというのに驚いた。画家であっても、ことばで表すのが大切な時代なのかもしれない。

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