見出し画像

都会の真ん中でプロムナード散策

 ビジネスランチを控えてどうにも落ち着かない。新しいプロジェクトに対応できるだろうか。自分で「やらない」と決めている業務を振られたらどうしよう。不安な気持ちで目的地の四ツ谷に向かった。
 約束よりも30分ほど前。駅ビル、アトレのお店を覗いてクリスマスの雰囲気を楽しんでもいいし、「無重力」のマッサージ椅子もあるから、そこで身体をほぐしてもいい。
 だが、なぜか駅ビルとは反対側へと身体が向いた。上智大学側の地上に出て信号を渡ると、すぐ脇がソフィア通りだ。脇にある階段を登り、外壕通りの土手に上がる。
 ここに数百メートル延びている遊歩道がある。じつはすぐ近くで働いていたときに知った道だったが、実際に歩いたことはなかった。
 唐突に、そこを散策してみようという考えが浮かんだ。
 桜の名所としても有名な桜並木が続く。道幅が狭く舗装されていないし、時々は木の根が大きく盛り上がっていて「走る」のに適した路面ではないせいだろう、ランナーはいない。
 いや、人間そのものが少ない。ときどきスマホを取り出したり、所在なげに下方を見下ろしたり空を見上げたりしている人がぽつりぽつりといるだけ。
 この道を歩く。不安を抱えているとどうしても早足になり、あっという間に終点だ。
 階段を降りるとホテルニューオータニがある。陽光を受けて真っ赤なクリスマスのデコレーションが輝いている(写真)。
 ニューオータニには、宿泊客でなくても鑑賞できる日本庭園があることを思い出した。だが、今日はそこまでの時間の余裕はない。もう一度階段を登り、いまここまで歩いてきたプロムナードを戻るだけ。
 今度は意識的にゆっくり行く。木の根っこや左側に広がるグラウンド、行き交う丸ノ内線に目を向けながら足を運び、ふと立ち止まる。
 そうか、あちらが都庁だ。四ツ谷駅前の新宿どおりを歩いていくと四谷三丁目だ。その先のビルで長く働いていたんだった。
 やっと深呼吸を繰り返す気になった。あの頃も必死だった。病気退職に追い込まれるまでがんばっていた。
 辞めてちょうど10年だ。
 よく、ここまで生き延びてきたなぁ……。
 ふたたびゆっくり歩きだしたが、すぐに四ツ谷駅前の信号に着いた。遊歩道の出発点で、この先はない。ここで階段を降りるしかない。
 往復20分のミニ散策である。けれども会食を前に、相手の話に耳を傾け、集中しようという気力が少しだけ湧いてきた。
 相手が来るまであと10分。ヒーリング瞑想でいつも唱えている、自分が目標とする心の状態「いつも しずかな こころ」が、大都会の真ん中で手に入った。

この記事が参加している募集

散歩日記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?