あざみ(創作:ゆげ)

夫と子ども二人と暮らすアラサー。 最近創作小説を書いている。

あざみ(創作:ゆげ)

夫と子ども二人と暮らすアラサー。 最近創作小説を書いている。

マガジン

  • 日常の中の小さな幸せ

    何気ない毎日だけど自分をご機嫌にしてくれる何かは必ずある筈。壮大な幸福ではないのがミソ。見落としていまいそうな位の小さな幸せを掬って味わいたい。

最近の記事

鍋が流行っている

 2~3人前の土鍋が欲しくて、調理器具売り場を通ると目を凝らしていた。しかしどうしても必要なわけではない。だって新婚時代に義両親から買ってもらった立派な土鍋を持っている。それが立派過ぎて大きくて重いので、安易に使用できなくて収納棚の肥やしになっていた。勿体ないことだが仕方がない。どうしても使いづらい。  しかし冬なので温かいものが食べたい。嚥下すると食道を通って胃に収まっていくのが分かるような、そんな熱さを身に染み渡らせたい。炒め物でも揚げ物でなく、淀みなく入る汁物がいい。そ

    • あけました

       新年早々実家でバトルをしてきた。  久しぶりに集った家族をもてなすことに疲れ、イライラした母に(多分)八つ当たりをされたのが発端だ。義実家からの連絡に対する疑心暗鬼を拗らせた文句を私に言うな、という話だ。イライラをぶつける母もそれに怒った私もどうしようもない。  一緒にいることに耐えられなくなり早々に帰宅した。静まったリビングで無邪気に迎えてくれたハム太郎ちゃんを見て安堵。4人きりの気楽さを幸福に思う。弟一家もいて騒がしかった実家も悪くなかったけれど、自由気ままにそこらへん

      • どこもかしこも玻璃

         部屋に入るなり、「あっつ」と呟きTシャツを脱ぎ出す星野玻璃を見て、思わず唾を飲み込む。  黒いタンクトップに浮き出た胸筋の膨らみと無防備に晒された太い上腕三頭筋、脇に群生する黒々と爽やかな毛と体幹の厚さ。汗ばみ濡れた首元、くっきりとしたラインを描く鎖骨。短く硬そうな襟足から繋がる滑らかな項。  窓から差し込む午後の陽を全身に浴びる彼の身体は、ギリシャの彫刻みたいだ。  立ち尽くしていると玻璃が訝しげな顔でこちらを見て、脱ぎたてのTシャツをベッドの柵にかけた。そのままローソフ

        • 聞き上手な瑠璃

          「瑠璃と喋ってると悩み吹っ飛んじゃうんだよね。いつも相談乗ってくれてありがとね」  詩織が目をきらきらさせながら微笑むのを見て、私はその言葉を否定したくなった。下校中、彼女が控えめな様子で話し始めた悩み事は、彼女の脳内で順番に整理され、解決へと導かれた。私はただその様子を見守り、時に相槌を打っていただけだ。気の利いたアドバイスなど一つもしていない。  彼女の笑顔につられて口角を上げながら、つま先に当たる小石を密かに蹴とばして歩く。詩織は満足げな表情で、今にも泣きだしそうな暗い

        マガジン

        • 日常の中の小さな幸せ
          4本

        記事

          夕食の話

          毎日毎日何で夕飯食べるんだろう。 何で作らなくちゃいけないんだろう。 と言っても主婦としては大分不良なので、サボって総菜を買ったり外食する日も多いのだけど、子どもスペースの大掃除をした上で夕飯を作った私は偉い。内容はささみフライと茹で春菊と大量の残り物だ。二品をせっせと作りながら口だけは暇なので夫と話をする。 「私の作る料理で一番好きなの何?」 ただこれが聞きたかっただけの会話である。料理に対するモチベーションを上げたい。 「唐揚げかな」 知ってた。何の意外性もない。彼は肉好

          最近のアレコレ

          熱が下がった。体のだるさも頭痛も無くなり快適だ。 たった一日の体調不良だった。 最近ある公募の締め切りが近づき、狂ったように執筆作業(というと本格的な感じがして恥ずかしい)に暮れていた。やっとまとまり、後は郵送するだけ、というタイミングで上記のような症状が出てしまった。追い詰められ過ぎてそれがストレスだったのかもしれない。元来、時間やスケジュールを遵守できるタイプではない。むしろものすごく苦手で、はっきり言うと遅刻常習犯だ。どんなに早く準備しても終盤には追い詰まって期限ぎりぎ

          2022 買ってよかったもの

          ①ニンテンドーSwitch 夫が友人とモンハンしてるのがあまりに楽しそうで買ってしまった。勿論モンハン(サンブレイク)もセットで。久しぶりにゲームに夢中になる日々を送れて幸せだった。初心者が迷惑かけてはいけないと、野良マルチはできないままだったけど、夫と夫の友人たちと狩りに行くのは毎度興奮した。使っていた武器は双剣。絵面がすごくいい。火力はないけど愛してた。 ちなみに私の友人も昔モンハンにハマっていたことを思い出して声を掛けたら、今もやってるというのでフレンドになって通話しな

          2022 買ってよかったもの

          先日上げた「結んで、開いて」のラストがあまりに胸くそ悪いので、上げ直すことにしました。 スキして頂けて嬉しかったです。ありがとうございました。

          先日上げた「結んで、開いて」のラストがあまりに胸くそ悪いので、上げ直すことにしました。 スキして頂けて嬉しかったです。ありがとうございました。

          【ショート】結んで、開いて

           久しぶりに二人きりで飲みに来た。いつもは友人数人と利用する、洒落た内装の居酒屋に入ったら、開店してすぐだったせいか席は随分空いていた。  四人席に向かい合わせで腰掛け、店員が持ってきた温かいおしぼりで手を拭く。もう何週間かすれば雪が降る、じんじんと冷えた指先がそう物語っている。千鶴ちゃんが曇った眼鏡を服の袖で拭きながら、「亜美、何食べる?」と聞いてきた。 「しめ鯖と、クリームチーズと蜂蜜混ざったやつー」 「フライドポテトも頼んでいい?」 「たのもたのも」  千鶴ちゃんが声を

          【ショート】結んで、開いて

          近況崩れ

           寒くなっていくのが恐ろしい。雪が降ると外に出難いし、布団からも出られないし、メンタルも落ちるし。すでにその影響をもろに食らっていて、外出はしてるけど朝起きるの辛いし、常に眠いし、やる気と集中力が落ちている。最近一生懸命小説書いてたけど、もうアウトプットきつい~な状態。お陰で読書はできてるけど。  温かさ重視の服も新しく買い始めていて、デザインはもうどうでもいい!とにかく保温性のあるやつ!ということで厳選したものが手元に増えている。ほんと憂鬱。  先日パーマをかけた。短めパ

          【ショート】肋骨は灰になる 

           「いいいぃぃぃぇえええええぇぇぇいいいッ!!!!!」  「ッうっふうううううッ!!イエァッイエァッ」  「あぁっはっはっはぁあああ!!最強だッ!わたしは強いッッ!!」  おかしくておかしくて腹の底から声を出した。発散しないと頭蓋骨の中から脳みそが飛び出しそうで、しかしそれすらおかしくて笑いが止まらない。  ドンッ。  6畳のワンルームを震わせるほどの声量に耐えられなかった隣人が、薄い壁を鳴らす音が聞こえる。  「うるせッ」  私が吐き捨てるともう一度壁を叩かれた。音の聞こえ

          【ショート】肋骨は灰になる 

          【ショート】天の川

           気付いたときには強く背を打っていた。その衝撃に一瞬呼吸が止まる感覚は、何度経験しても慣れることはない。先輩が俺をの顔を見下ろして、視線がかち合うとニカッと笑い「今の良かったろ?」と聞く。俺は毎度「良かったっす」と形式的に返す。  先輩は大将を務めている。実力も経験もない俺が先輩に勝てる確率なんてゼロに等しい。それを分かっていながら先輩は俺を練習相手に選ぶ。聞くと受け身が上手いから、と爽やかな笑みを浮かべながら教えてくれた。技を決める前提ではないか、と理不尽さに顔を顰めたのを

          【ショート】天の川

          【ショート】傍らのひと

           母が亡くなって一年が経った。父がリビングで日本酒を飲みながらテレビを観ている間に、冷えた寝室で首を吊っていたらしい。私が連絡を受けたのは、夫ともに布団に入ったばかりの頃だった。  母はギャンブル依存症だったと、後に父から聞いた。私が幼い頃もパチンコ屋や競馬場に通い詰めていたらしいが、家に居る母は家事をこなしながら宿題を見てくれたり、清潔な布団の中で密やかなお喋りをしてくれたり、滞りなく親というものをやってくれる人だった。一つの疑いもなかった。  その日も母は父に隠れて競馬場

          【ショート】傍らのひと

          【ショート】クラスメイト

           「絶対誰にも言わないでね」  そう言った声のトーンも、表情も、まるでテレビを見ているように思い出せる。私の薄情な相槌にも気づかないで、熱心に語る頬がチークを叩いたように鮮やかに染まっていくのも。徐々に頼りないボリュームになっていく小鳥のような声も。  放課後、教室に残っていたのは私と唯ちゃんだけだった。委員会で使うポスターの下書きをしていた唯ちゃんに声を掛けたら、一緒にお喋りしない?と誘われた。  唯ちゃんの席は窓側だから、遠くから迫ってくる夕日がよく見えた。唯ちゃんの前の

          【ショート】クラスメイト

          【連載小説】吸血鬼と雪女②

           7時ちょうどに家を出れば、近所に住んでいる陸と鉢合わせる。待ち合わせているわけではないが、どちらかが寝坊でもしない限りは毎日一緒に通学する。朝の穏やかな日差しを浴びながら簡素なあいさつをして、住宅の立ち並ぶ通りを歩き始める。  「ていうかハルトさあ。何で藤原に構うわけ?」  陸と僕は同じ速度で進みながら、流行りのドラマについて語っている最中だった。それが何故かいきなり藤原さんの話題が振られ、僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。  「な、何で藤原さんの話になるんだよ」  「だっ

          【連載小説】吸血鬼と雪女②

          【連載小説】吸血鬼と雪女

           目を瞑ったまま感じる温もりを逃がすまいと、柔らかな毛の束を肩まで引き寄せる。卵を孵化させようと必死になる親鳥の感触を彷彿とさせる手触りだ。敷き布団も掛け布団も毛布もみな柔らかく優しい。目を開けることが惜しくて頭のてっぺんまで毛布を被る。瞼の裏が暗くなり安心していると、ドアが開く音がした。思わず背を向けるように寝返りを打つ。足音がベッドの前で立ち止まった。  「子どもができたとしたらどっちになると思う?」  頭の上に質問を投げかける声は淡々としている。寝たふりをしたいが起きて

          【連載小説】吸血鬼と雪女