『薔薇色じゃない』凪良ゆう ~復縁BL舐めてんじゃねえぞワレ 味の素さんに感謝せよ~

私は復縁BLが好きです。

一度は自分を傷つけて、相手も傷つけて、しんどい思いをして、ダメになって、それでも好きな気持ちを捨てられない。
見栄の張れない都合の悪い相手だとわかりつつ、諦めきれない自分の馬鹿さ加減に呆れたり、二の足踏んだり。

そんな二人のもだもだにアッーーーー!となり、二人の下す決断にウックーーーー!となるのが好きです。やっぱり私、ドMなのかな……

(Amazonさんの商品紹介より引用)
出会ってすぐに恋に落ちた水野と阿久津。大学卒業後、同棲を始めるが、会社員となった阿久津とフードスタイリスト修行中の水野は少しずつすれ違い、水野がふと漏らした一言が決定打となり別れる。一年後、再会したふたりは友人としての関係を築くのだが?

こちらもやはりhontoさんのセールで購入しました。噂の本屋大賞作家さんだ…!とわくわくどきどき、おまけに大好きな復縁BL、高まる期待、これがマズった。

ウッーーーーーン。(´・ω・`)

いや、水野も阿久津もちょっとぼーーーっと生き過ぎじゃない?別れてあんなに苦しい思いをして、ゲイなのに結婚までして、なのに再会してそんな平然と……?一生に一度の恋愛の相手に、そんな平静でいられるの?ここで思い出していただきたいのはこのお言葉。

(ジョシュ・ラニヨン『アドリアン・イングリッシュ4 海賊王の死』)
アドリアン「それにもし、お前が僕と友達でいたかったとしても──そんなのは嘘だけどな、どうごまかそうが──一体僕らが、どれくらいの間、潔癖な関係でいられたと思う?」

なんかそう……定期的に会うのをやめられないような相手で、セックスの相性まで最高だってわかっていて、ずっと好きな気持ちはお互いにくすぶっていて……それがこんなに平然と欲望を押し殺していられるの?

恋だの愛だの、それなりに身に覚えがあり、またBLの登場人物が持つ愛に対してめちゃくちゃ希望と期待を持っている私としては、この二人の態度はあまりにもお互いに対して「冷淡で興味なさそう」に思えるし、「温度がない」。それって、ロマンス小説としてすごくつまんなくない?

結局、二人は紆余曲折あって復縁します。しかし、復縁するキッカケも、お互いの彼氏が、全然関係ないところで二人を振って、行きつけの店の大将が阿久津を焚きつけてやっと行動に起こしたような始末……いやいや、自分の恋愛をそんな受動的にやってる人たちのロマンス、物足りないというか、熱がないというか……

エッこれでいいの?

復縁BLって、一度付き合ってダメになった相手をそれでも選ぶという、人生で最もみっともない行為なんですよ。周りの関係性がどうであれ、当人たちの感情がこんなに綺麗でまっすぐでいるなんて意味ある?もっとコールタールのような腹の底からの感情と欲望に見栄と体面を揺さぶられて苦しんでこその復縁BLじゃないですか?

復縁BLを愛しすぎてこじらせている私にとって、あまりに物足りない作品となってしまいました。好きな方、申し訳ない……

でもコールタールのような復縁BLといえば、私の人生を狂わせた以下二作は絶対夜も眠くなるような興奮を約束してくれるのでぜひ読んでもらいたいです。(アドリアンイングリッシュはなんとKindleUnlimitedで読める!!)

あとですね、これは大変大変余談ですが……

フードスタイリストの水野は、乾物から出汁をとるような和食のレシピが得意で、そこに阿久津は母の影を見るわけなんです。これは物語や二人の恋愛において大変重要なファクターになっています。ただ……

阿久津、普通より濃いめの味が好きだと作中で言われていて、そんな男が味覇と鶏ガラスープの素が嫌いな筈がないだろう??出汁からとった料理は大抵がめちゃくちゃ薄味だぞ??

そして水野、ダシからとる丁寧なレシピを特集されて仕事が軌道にのったらしいけど、今流行りなのは「簡単手軽に」「だけれども贅沢に美味しい」料理なので(発刊された2016年もたいしてムーブメントは変わりないと思う)正直彼の料理ははやるかどうか微妙……と元業界人は思うのでありました。

作中で「彼女に作ってあげたい彼氏料理」という特集があったのですが、そこで水野が味の素さんなどの偉大さに気づき、そういう「時短調味料を使いつつ、誰もが簡単に作れるけど水野の料理の味を損なわない和食」レシピを作ってそれを阿久津が作ってみる……とかいう展開だったら、二人の関係性にメリハリができてすごくよかったかもな~と勝手に思うのであります。

現在、忙しい現代人の食卓をより簡単により豊かに企業努力を重ねる味の素さんや各調味料メーカーさんたちに全力で謝ってほしいような後味にもなりました。

所詮BL小説と思ってそこまで求めるのは酷なのかもしれないけど、仮にもBL小説界の大御所さんらしいので、テーマとして扱う要素の流行りや業界情報の下調べはちゃんとしてほしかったなあ……創作物、それも個人の裁量が大きい小説なんかは作者のエゴが出やすいとは思うのですが、料理に対してはあまりにも自分が見ている世界や価値観と違いすぎて(登場人物との年齢差はそんなにないはずなのに)、妙な居心地の悪さを感じました。

最後に、日々の食卓に手軽に味の深みを与えてくれる味の素さんや味覇を生み出してくれる廣記商行さん、そして各種調味料メーカーさんに感謝をささげます。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


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