『シナプスの柩』華藤えれな~ちょっと現実は置いておいて、正直白い巨塔BLや大河BL読みたくないですか?~

BL小説レビューも5作目!実はもっと読んでいるのですが、サボってしまったものもあり…というか、あんまりおもしろくなかったな~という作品をどういう扱いにするか悩んでいます。

と、この作品は、正直評価を付けるなら「そこそこ…」レベルなのですが、BL小説初心者なりにツボを押されたり、いろいろ考えることがあったのでレビューとつらつらと記録に残しておこうと思います。

というか、巻末におそらく作中でキーになる湖であろう場所で首輪をつけられ腕にストール(?)を絡めた受けが膝立ちで攻めを抱き、あたりには白い羽が舞い意味深に背景の中心が真っ白に抜かれてる、聖母を想起させるイラストが書いてあって正直度肝を抜かれました(2006年刊行作品)
フジョシの厨二魂をつつかれてすごくテンションがあがってしまった…。

両親を亡くし、大学三回生の時に天涯孤独となった桐嶋水斗は、日本心臓外科界の権威である長山の援助を受けて医師となった。だが、援助の代償に長山の下で働くことと躰を求められ続けていた。長山から逃れたいとの思いが募る日々の中、NYから敏腕外科医の樋口が赴任してくる。彼の天才的な医療技術に心酔した水斗は技術を教えてもらうことになり、いつしか樋口に惹かれていくが――。

そして盛大なネタバレをすると、この受け(水斗)は樋口に惹かれるあまり長山に良いようにされている自分の状況を耐えがたく思うようになり、病院の窓から身投げし、一命をとりとめたものの記憶喪失になります!

天涯孤独の身、権力に縛られて身体と能力を搾取され、そして自殺をはかり記憶喪失……すごい……あらすじがすごい……

しかしそんな壮絶な展開ですが、ここからは平穏に記憶喪失なりに樋口に世話になり、精神年齢は子どもに戻っているものの肉体は快楽を覚えているしおとなだし……とアッサリ二人は肉体関係を持ち(記憶喪失前も持ってけど)、甘い関係になりながらも、記憶を取り戻す過程で二人の心が本当の意味で距離を詰めるのも、上下巻という時間もかけられているため、焦らず、じっくりと一緒に盛り上がることができました。
私は医療には明るくないのですが、医療関係の描写も詳細で、だからこそ樋口の技術や病院内でのパワーバランスの臨場感が伝わってきて、ものすごく壮絶で、言ってしまえば「出オチ」になりかねないインパクトのあるあらすじでも、しっかりと面白い仕上がりになっているなあと感じました。

が、しかし、だからこそ物足りない……!!!!

長山が悪者で、主人公水斗の運命の相手である樋口は正義の味方。水斗は長山に搾取はされていたけど、病院の腐敗には関与していない……

いやちょっと出来過ぎじゃないですか??
わかります、主人公は正しくあってほしいというのは……でもBLという萌えの世界で、こういう権威がものをいう大学病院という舞台、人間関係や権力関係をあまりに単純化してしまうのはもったいないと思うんです。

この作品と同じように大学病院の腐敗を描いた作品で有名なのが、『白い巨塔』。この物語の中で対象の立ち位置をなす、野心家の財前と患者第一の里見の友人関係と敵対関係の複雑さに匂い立つ何かを感じるフジョシとしては、そういう一般小説では突っ込まれない(というかおそらく作者はまったく想定していない)男同士の愛憎を見たいわけです。

つまり、恋愛関係になる二人の人間性や、その周りの人間関係・権力関係を明確な「勧善懲悪」と単純に描くばかりでいいのか、BL小説?!と思うわけです。
正直、面白い一般小説がこれだけ流通していて、目の肥えた活字中毒者たちなら、社会的・人間関係的な複雑で重厚なBLだってあったっていいじゃん……読むよ私……と思うわけです。というかBLゲームとか商業BL漫画とかはそういう重厚なのもあるんじゃないのか?(SFやファンタジーが多いような印象ではありますが)

話は転じますが、私はNHKの日曜夜8時から放送している大河ドラマ『麒麟がくる』を毎週楽しみにしています。そしてフジョシにしてみたらアレもBLです。(すみませんそういう目で見てない人たち…)
一般的なエンタメでそういう関係にムフムフワクワクしちゃうんですから、『ボーイズ・ラブ』ジャンルの名を冠するなら、あのテンションで恋愛も混ぜてくれないかな~なんて望んでしまうのです。

BL小説はもちろん萌えや濡れ場といったフジョシへのご褒美は盛り込みながら、もちろんハッピー&サクッと読める作品もありつつ、中には見ててしんどくなるような、でも重厚な世界観と人間関係、そして単純にはいかない人間性を描いた作品がもっとあってもいいんじゃない?などと思います。

こんなことを考える私はドMなのでしょうか……いや絶対仲間がいると信じています。


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