『茅島氏の優雅な生活〈1〉』遠野春日~浮世離れした有閑青年の諦観と情熱~

和製BL小説レビューも3つめ!ということで少し板についてまいりました。
今回はこちら、有閑マダムならぬ有閑青年の茅島氏の物語。

(アマゾン商品レビューより)
桁外れの資産家だが孤独な青年・茅島氏の心を初めて捉えたのは庭師の「彼」。嵐の夜、突然アパートに押しかけてきて告白する茅島氏に、つい意地悪をしてしまう庭師だが、世俗にまみれない茅島氏の素直さに次第に惹かれてゆく。美しいイングリッシュガーデンに囲まれたお屋敷を舞台に、庭師×主人の恋を描く人気作。

hontoさんでセールしていたのをきっかけに手に取ってみた本作。あまりあらすじなど見ず読み始めたのですが、最初はどんな展開にわからず「おや…?」だったのですが、だんだんと独特の世界観に引き込まれてページをめくる手が止まらなくなってしまいました。

資産家で無職(とは言わないのか?)の茅島氏は何事にも興味が薄く、数少ない美術品や本の蒐集が趣味。それも亡き父母が愛していたから、秘書兼友人の小泉が進めたからという我欲のなさ……お金があるからこそか、莫大な資産を持ちながら俗世に欲のない男。一話で淡々とその特殊性が、執事や、大学の元同級生の目線で描かれます。こんな男がBLの主人公?と思って読み進めていくのですが……

とある茅島氏の一日、書店で買い物をし、気紛れに出身の大学に立ち寄り、夜はパーティに……静かに彼の日常が終わろうとする夜、シャワーを浴びて寝室へと戻ると、突然、茅島氏を待っている男がいるんです。

「……好きだ。お前とするこの行為より楽しいものはない」

何事にも薄い膜ひとつ隔てたように興味のなさそうで、淡々とした様子の茅島氏をここまで見せつけられての、男への縋るような言葉や態度……!ハァ?!と思いながらそのギャップに落ちました。

その後も短編集なので出会い編やデート編など、なんでもないような日常(もちろん資産家の)を描くのですが、この茅島氏のキャラクターと独特の筆致に、ついついページをめくる手が止まりません。浮世離れしつつ、突飛でありつつ、「茅島氏ならそうするな!」と納得できつつ、なんでもないような日常をとても新鮮に描いているのが面白かったです。

出てくる登場人物は全員金持ち・眉目秀麗・めちゃくちゃ高い学歴のどれかに必ず当てはまるので、現代ものとはいえ半ばファンタジーのようなのですが、時々出てくる庶民感覚からの視点がしっかり足場を支えているから物語の奥行きが出ている気がします。
欲をいうなれば「これは何かの話のスピンオフなのか?」と思うほど他の登場人物が思わせぶりにたくさん出てくるのが困りました…3巻まであるそうなので、読めばわかるのかな?

何はともあれ、俗世に興味のない有閑青年茅島氏の、思わぬ情熱と秘密と……相手役の庭師と翻弄したり翻弄されたり、でも一途な想いが一本あるのがいい! ──と思ったら他の男とキスをしたりして?!

大きな事件があるわけではないのに、ぐいぐい彼らのことが気になって、ついに続きが気になってしまいます。2巻ではまたどんな突飛なことを言い始めるんだろう茅島氏……そんなわけで、少しワクワクした気分になれたBLでした♪

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