『is in you』一穂ミチ~優しくてしっかり味のある中華粥のようなBL~

アドリアン・イングリッシュの変 から二か月──私は海外MMロマンスやにハマりにハマっています。通算22冊、短編も含めると30作ぐらい読んでいると思います。
ちなみに続きが気になりすぎて、未翻訳の英文にも手をだしてしまったのですが、その話はまた後日。

オタクってどうして身も世もなく自分ではない他人の恋にこんなに心をかき乱されて生活もままならなくなっちゃうんでしょうね…世界にこの衝動をしらない人のほうが多いらしいの本当に信じられないし、この苦しみを知らないで人生を終える人がいるの、ほんとうに解せない…!と胸を掻きむしる毎日です。

そんな私ですが、ふと、海外MMロマンスばっかり読んでいるけど、果たして和製BLってどんなものなんだろう?と思ったわけです。
でも図書館にBL小説が並んでいるわけでもなく(こっそり隠れて陳列されているものもありますが!)honto電子書籍さんのセールを駆使して18冊のBL小説を買った私。こんなご時世で同人誌即売会に行ってなかったからか、久しぶりにIQと理性をなくして買い物をしました。
今絶賛バイト暮らしなので今月は頑張って稼がないとな…なんて、想いながら、せっかくなのでレビューをしてみようと思います。

『is in you』一穂ミチ 2011年発行

香港からの転校生・一束は、日本にも教室にもなじめずに立入禁止の旧校舎でまどろんでばかりいる。そんな一束だけの世界を破ったのが、二つ先輩の圭輔だった。まっすぐな圭輔にやがて心を許し、どうしようもなく惹かれていったのに、向けられる想いを拒んでしまった一束――十三年後、新聞社香港支局長になった圭輔と仕事相手として再会し……?
(amazonより引用)

いい小説だった…!
あらすじだけ見ればあるある話のようにも思えるのですが、香港と日本を跨いだ話というキーワードから、広東語・英語・日本語の妙、そして気候の違いからくるお互いへの比喩表現。
特に十三年後再会したあと、二人が付き合うまでの描写がとても丁寧。ぎこちない距離感や二人の関係性、そのやりとりが異国の地でなされるからか、世界観と縒り合わせた描写が新鮮で素敵でした。

ちなみに物語の中で個人的にいい味出しているのが圭輔の前任者で、一束を「現地妻」のように扱いながらも大切にしていた佐伯さん。この人の狡くて意地悪で、妻帯者特有の甘ったれた執着が滲むのがいい…!

小説がうまいってこういうことをいうんだな、と思います。あらすじから見ても決して劇的な物語ではないけれども、一文一文の描写や構成に思わずページをめくる手がとまらない、というか。

以下は好みの問題なのですが、欲を言うのなら、三角関係があっさり終わってしまったのが悔しいので、そこに尺を裂いて欲しかったです。また、バリバリの男社会な新聞記者の圭輔と、自由な一束が今後どういうふうに付き合っていくのか?(クローゼットのままなのか、それともオープンなのか…作中でも「え、それを一束は許すの?!」というようなシーンがあって気になった)や、あとはエロが美しすぎるので特に一束の欲望がもう少し見えたら嬉しいな~と思いました。反対に、圭輔くんはがつがつしている様子ばかりだったので、もうちょっと一束と出会った頃に見せた人の感情を掬い取るような攻めのエッチを見せてほしかったな…!
美しすぎる情景や丁寧な心理の描写だからこそ、圭輔や一束の「らしさ」を掘り下げてもらいたかったな~って感じです。

多分、癖にすっごく刺さったかというとそうではないのですが、それでも面白いと思える作品でした。
胃に優しい中華がゆというか…つかれた時に読みたい…という気持ちがわかる。胃に優しい中華がゆのように、しっかり味も滲みて薬味も聞いてお肉も入っているけど、お腹を壊すことはないしのんびりと食べられる。そんな穏やかな作品でした。

話は変わりますが、同じように「高校時代の思い出」「香港」をテーマにして面白かったサスペンスを思い出しました。こちら、「未必のマクベス」。BLではありませんがめっちゃ面白かった…!最後までどうなるかわからないスリリングな展開でした。


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