ヨルダンの余暇

旅のお話エジプトあたり編8

結局、ヨルダンには一週間ほど滞在した。
ペトラには4日間通った。

二日目からは、ペトラの番人が、私の顔を見て、「オッケー」というので、特に通行料を払うこともなくペトラに入場することができた。こういう緩い感じ、好きだ。

ペトラに行き、家に戻り、近所を散歩する。そんな日課ができた。

街の入り口に広場があり、ネットがないサッカーゴールが据え付けられていた。

ゴールポストも一つしかなく、ボールも一つしかない(と思われる)。
子供たちが、サッカー版の3on3のようなゲームをしていた。

じっと見つめていると、ゴールキーパー役の男の子(なぜか男の子しかいなかった)が、ふと動きを止めた。
そして、ボールと自分を交互にさし、挑戦状らしきものを送ってきた。

アラビア語はわからないけど、周辺に何か言っていることがどうやら「女子供がサッカーボールに興味を持つなんて、10年早いぜ」的なことだと、予測した。
周辺の笑いの雰囲気とか、好きなところで蹴りな、みたいなジェスチュアから、勝手に想像するに、だが。

私としても、サッカーは得意ではないが、その雰囲気から言って、ここは、全人類のなかの『女性』サイド代表として戦わねば!と無駄な何かに駆り立てられた。

ピッチに立つ。

大きく助走をつけたいのはやまやまだったが、それをすると足がボールに当たらない可能性が高くなる。
サッカーなんて小学校を卒業して以来、一度もやってない。

小さく三歩ほど走り、ボール目指して足を振り上げ、振りぬいた。

いまだかつてない、重い感触があった。

横っ飛びしたゴールキーパーの指先をかすめ、ボールはゴールポスト左隅に吸い込まれていった。

わあ!と歓声があがる。

我ながら、見事すぎるシュートだった。

急に、敵味方関係なくなったその広場で、あっちこっちから子供たちが駆け寄ってきた。ゴールキーパーをしていた男の子も、苦笑いして首を振りながら、親指を天に向けて立てた。「グッドジョブ」と。

それ以来、その広場を通るたびに、PK勝負を挑まれるようになった。

二日目は、調子にのって力を入れたら、ゴロゴロ球が転がっていった。ただ、初日の体験に基づき、すでに飛んでいたキーパーの足元をコロコロ通過したので、私の勝利だった。

ビギナーズラックというのは、こういうことだろうか。

三日目は、反省を踏まえて、足の振り上げを小さくし、ふり抜きをおおきくしてみた。とてもいい球だった。が、真正面で止められた。それこそ「グッドジョブ」。
周囲の子供たちも、みな拍手していた。

そうやって、謎の友情を深め、お互いをたたえあえるから、スポーツっていいなと思った。

5日ほどして、ペトラの主要部分もだいたい見終わったし、エジプトに帰ることにした。せっかくだからイスラエルも見て帰りたかった。だが、その頃はイスラエルに入ると情勢によっては周辺諸国への再入国が許されないことがある、という時期だった。

おとなしく、港に送ってもらって、船に乗り込んだ。

ヨルダンパパに送ってもらって街の広場を車で通りすぎるとき、子供たちが「最後のひと勝負を!」みたいなことを言いながら(予想だけど)、サッカーボールをもって車を追いかけて走ってきた。

ヨルダンパパは、「なんだかよくわからないことを言っているな」という様子で、手を振ってその申し出を却下。
土埃のむこうに、サッカーボールと子供たちがかすんでいった。


ありがとうございます。毎日流れる日々の中から、皆さんを元気にできるような記憶を選んで書きつづれたらと思っています。ペンで笑顔を創る がモットーです。