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タイ 近くて遠くのラオス

タイが好きだった。
18歳で初めて訪れた。
そのとき、タイの人たちのあっけらかんとした明るさみたいなものに魅せられて
その後何度も訪れた。
西で『戦場にかける橋』を見て、北で首長族の女の子たちと側転大会をやり、東で遺跡を見た。

大学卒業後、社会に出て、死ぬほど働いた。「アイツはどうやら蟹工船に乗ってるらしい」と噂がたっていた。
基本的には1日22時間くらい働いていた。
会社に泊まり込む日が多く、家にはほとんど帰らなかった。
今なら労基が黙っていないようにも思うが、本人は、しんどいけど、通常の3倍の速度で仕事が覚えられてスキルアップするならいいやー くらいの気分だった。

あるとき、まとまった休みがとれた。

ずいぶん、疲れていた。
タイを思いだした。
ぬるい空気と、底辺の人でもどこか明るい感じ
そんな空気感が懐かしかった。

タイに行こう!

と思った。

だが、
調べてみると、
タイはすでに私の知っているタイとは違って
ずいぶん都会になっているらしかった。

高架鉄道が走り
高層ビルが並び
「たぶん、チャオプラヤー川だって前より速く流れてるんじゃない!?」
とかつての旅仲間が言った。

どうする!?

迷った末
ラオスに行くことにした。
時の流れがゆるやかな国に行きたかった。

タイ航空でバンコクまで飛んだ。

そこで一泊して
国境の街ノンカーイまで国内線に乗る予定だった。

翌日、空港で待っていたが
飛行機がなかなか来なかった。

私が渇望していた
ゆるやかな時間の流れが
すでに始まっていた、、、のだろうが
これは歓迎されざるタイミングであった。
飛行機が3時間ほど遅れたので、到着も3時間ほど遅れた。
すでに夕方の6時をすぎ、ゲートを出た頃にはあたりは暗くなり始めていた。

そこは
草原にある、『飛行場』といった趣の空間で
街まで行くバスはとっくに出てしまっていて、
周辺にはホテルなども見当たらなかった。

野宿か?

と思って
ロビーで横になれそうな場所を物色していたら
声がした。
「どうしたの?」

飛行機で隣の席に座っていた女の子だった。
品のいい紺のワンピースにパールのネックレス、小さなバッグ。
みるからに上流階級の女の子だ。
キレイな英語を話す。

事情をかいつまんで伝える。

彼女は言った。

「私、ボーイフレンドが迎えに来るのを待っているんだけど、街の方へ行くから、乗せていってくれって聞いてあげるわ」

しばらく2人で待っていると、目の前に
トヨタのランドクルーザーが止まった。

タイ人にしては非常に大柄な男性が降りてきて
彼女と親しげに挨拶を交わした。
どうやら件のボーイフレンドらしい。

私の方をチラチラ見ながら
ヒソヒソ話していた。
女の子が大げさなジェスチャーで感謝の意を伝える。

ボーイフレンドがこちらへ寄ってきて
英語で自己紹介をした。
あとで知ったが、彼は中学から寄宿学校に入れられて英語教育を受けていたとの事で、英語の方がタイ語より得意なくらいだったが、「t」の音を全く発音しないタイ人特有の発音なので慣れるまでなにを言ってるのかよくわからなかった。

「get on, 街まで乗せていくよ!」

感謝して乗り込んだ。

大地からどんどん光が消えていき、一日が終わろうとしていた。
野宿しなくて済んだのはありがたかった。
街灯もない森の中の道をヘッドライトの光だけでランドクルーザーは進む。

30分も走った頃だろうか。

車が止まった。

「ついたよ!」

「…」

街にしては、様子がおかしい。
家も一軒しかないし。

女の子は
ためらわず車から飛び降りた。
私も続いた。

「ここ、ノーンカーイ?」

噂に聞くよりはるかに田舎だ。
家も一軒しかないし、、。

頭上からボーイフレンドの笑い声がした。

「はっはっは!ここはボクとボクの兄弟が住む家だよ。今日はもう遅いから、ここに泊まるといい。
明日、街まで送って行ってあげる」


話が違ーーう

と思ったが
街の場所もわからないし
あたりは真っ暗だし
悪い人たちでもなさそうだし、、、

泊めてもらうことにした。

「まともなベッドがないから、、、」

なぜか
キングサイズのその家唯一の(と、後になって知る)ベッドにて
ボーイフレンド、私、女の子の順で川の字になって
一夜目終了。

続きは明日^_^

ありがとうございます。毎日流れる日々の中から、皆さんを元気にできるような記憶を選んで書きつづれたらと思っています。ペンで笑顔を創る がモットーです。