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王道絶対肉じゃが

ちょうど去年のクリスマス前くらいにコクられて、

彼とは今、いい感じ。

 

会社に来てたシステムエンジニアの男のコ。

入社一年目の新人らしいんだけど、その割りにしっかりしてて

言葉遣いもいいし、説明がわかりやすい。

頭いいなーって感じる。

うちの会社の女子の間でも、実は結構人気があったのよね。

 

仕事はそつなく、身のこなしもスマート。

なのに、気さくで冗談も話せて、

笑顔がかわいい。

 

向こうにしてみたら、私は取引先会社の人だし、

3つも年上の25才の女なんて、対象外かな~って思ってたんだけど、

いつからか、気づくとよく目が合うようになって、

少しずつ、いろんな話をして。

好きかも、って。

 

何のきっかけだったか、横浜の話をしてて

「いいですよね、横浜。」

「いいよ~ ああ、私も最近、行ってなかったかも。」

とかって話してるうちに、

いつの間にか、私の車で一緒に横浜へ行くことになっちゃった。

・・・・・彼って、甘え上手なところあるみたい。

マジで?って思ってたら、ちゃんと告白してくれたの。

 

横浜は海風が寒かったけど、夜景がきれいだった。

クリスマスツリーも観覧車の灯りも、みんな私たちのために輝いてくれているようで。

 

並んで歩くと、ヒールのあるブーツを履いていても、彼のほうがまだずっと背が高い。

痩せてるって思ったけど、実は着痩せで、体はがっしりしてるって知ったのは、

横浜からの帰り、私の部屋に寄った夜。

 

女のコの扱いに慣れてる余裕が憎らしい。

高校、大学時代から、かなりモテてたっぽい。

部活で国体まで出たんじゃ、そりゃあモテたでしょうね。

しかも、付き合ってきたのは、ほぼ年上の女の子たち。

ふ~ん、年上好きだったんだ。

ちょっと睨んでやっても、平気で笑ってる。腹が立つ。

なんで、こいつの笑顔はこんなに憎めないんだろう。ずるいな。

 

お互い田舎から出てきて一人暮らし。

ちゃんと食べてるのかな?と心配したら、

逆に、「まみかさんこそ」と言われちゃった。

 

私はちゃんと自炊してる、って言ったら、

「俺、料理得意ですよ。いつも自分で作ってる。」とかって言うものだから

じゃあ、お手並み拝見。

今度の休みは外食せずに、うちで一緒にごはん作って食べようか、ってことになった。

 

メニューは何がいいかな?

一応、聞いたけど、「俺、何でも食べるよ。」なんて参考にならない答え。

カレーやオムライスなんかじゃだめ。

たぶん、そういうのは彼も自分で作ってるはず。

彼には、ちょっと作れなさそうなものでないと・・・・。

 

体に良さげな和食で、食べ応えもある、

ちょっと凝ってそうで、でも簡単にできる・・・・・そう、肉じゃがが正解。

彼女の初めての手料理としては、あまりにもベタかもしれないけど

ここは王道で攻めるのがいい。王道こそ最強なのだっ。

 

いつもは一人で行くスーパーで、

今日は彼と手をつないでお買い物。

知り合いなんて一人もいないけど、なんだか妙に照れる。

 

人が見たら、「新婚さん?」って思うかな?

それとも、やっぱり姉と弟?

チラッと彼の顔を盗み見る。

いつもの優しい笑顔を向けられて、ドキッとする。

22才の彼は、きっと結婚なんて全然考えてない。考えてないよね。

もちろん、別に全然かまわないけど。

 

じゃがいもと、たまねぎ。そして人参。

しらたきも忘れずに。

お肉は種類がたくさん並んでいるけど・・・・適当に選んだ。

ジュースとお菓子も。

チョコの箱を棚から取って微笑む彼は、いつもより2倍かわいい。

 

スーパーの袋を持って二人で家に帰るなんて、やっぱりちょっと新婚気分。

結婚したら、こんな感じなのかな?

玄関ドアの鍵を開けながら、ちょっと考えた。

握り締めてるキーホルダーは、前の前の彼からもらったプレゼントだけど。

 

普段はあまりつけないエプロンをクローゼットの奥から探して、一番かわいいのをセレクト。

ソファーに座った彼が見てる。視線を感じる。

さすがに恥ずかしくて、少し背を向けたら、そっと後ろから抱きすくめられ、

あまりに不意だったものだから、全身がビクンと震えちゃった。

 

「まだエプロンつけてない・・・」

「うん・・・・料理、作らなくちゃね。」

 

言葉と裏腹に、さらにギュッと抱きしめられて、

あ。やばいな・・・・って。

 

「だって、まみかさん、かわいいんだもん。」

 

甘えた声。息が耳元にかかる。

こういうの弱いって、もう見抜かれてるのかな。もう攻略されちゃったんだろうか。

変だな。何の魔法?不思議なほど体の力が抜けていく。

私って、こんなに素直なやつだっけ?

 

キスにとろけて、もう立ってられない・・・と崩れそうになった時、

無粋な携帯の呼び出し音が。

 

「はい。・・・・いえ、大丈夫です。」

 

平然とした声で彼が電話に出た。

たぶん、会社からだ。呼び出しかな?

 

「はい。・・・はい。」

 

落ち着き払った声に、ちょっと腹が立つ。

私なんて、まだこんなに・・・こんなに頭の中、とけてるのにぃ・・・・!

いじわるしたくなって、携帯を当てている反対側の耳にキスしちゃった。

 

「こら!」

 

電話を切った彼に軽くおでこを小突かれて、

そして、やっぱり

「ごめん、呼び出しくらった。ちょっと行って来るよ。」って。

 

笑顔で彼を送り出して、

「早く帰ってくるから。」

「待ってるね。」

って玄関先でキスするのは、やっぱり新婚っぽくて、

こういう幸せもありだなってちょっと思った。

 

じゃがいもの皮をむきむき・・・・

炒めて、

味付けは少し濃い目で。

くつくつ煮込む。

白い湯気が立ち上るお鍋を眺めながら、

好きな人が帰って来てくれるのを待つ幸せを味わうの。

 

・・・・それにしても遅いなぁ、と思い始めた頃、やっとメールがきた。

 

インターホンが鳴って、「おかえり」と扉を開く。

ただいまのキスは、ちょっと唇がひんやり。

冷たい外気の香りをまとった彼に抱きしめられる。

 

テーブルの上には、炊き立てほかほかの白いご飯。

そして、こっくり煮た肉じゃが。

おいしそうに食べてくれるのが嬉しい。

 

「おいしいよ。料理、上手だね、まみかさん。」

 

当然よ!って言ってやりたいけど、何も言えなくて、ただ微笑んでしまう。

不思議だな。この人のいる部屋の空気がとても自然だ。

どうしてかな?

ずっといて欲しくなりそうで、手放せなくなりそうで・・・ちょっと怖い。

それって、たぶん・・・彼には重い。

 

「ごちそうさまー。うまかった!」

 

無邪気に微笑む顔は、やっぱりかわいくて年下だなぁって思う。

いつまで一緒にいられるだろう?ずっと、一緒にいられるのかな?

とりあえず、田舎の母親が電話で言ってきた見合いの話は断ろう。

 

一緒に狭いお風呂に入って、一緒に歯を磨いて、一緒に寝るの。

温かい体温。

私はあなたの大事な人になれるかな。

男の人にしては長いまつげ。疲れて眠る横顔を見つめながら、見えない未来を想ってみる。

・・・まぁ、いいか。

いいよ。だって、明日は一緒に朝を迎えるんだもの。

まだ、始まりはこれから。


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2010年2月の日記再掲

当時はまだスマホ、LINEは普及していなかったので、携帯、メールの表現になってるのよねぇ…

私のブログ 夢で逢えたら… に同じ記事があります



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